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初めてのアイス

冷凍庫からアイスを取り出し二人に渡す。

初めてアイスに触れた二人はその冷たさに不思議そうな顔をしていた。


「冷たくて気持ちがいいわね」

「ん、冷え冷え」

「はい、クシナ」

「あら、ありがとう主様」


クシナの食べるアイスはスプーンが必要だったので渡す。

その後二人にアイスの食べ方を教え始めた。


「まずクシナの奴はこの蓋を開けてた後スプーンを使って食べるんだ」

「分かったわ」

「それでシアナの奴は封を開けて手で食べれば大丈夫だよ」

「ん」


説明を聞いた二人はアイスの蓋を開ける。

まずはクシナがスプーンを使ってアイスを掬い口へ運ぶ。


「っ!」


アイスを口に入れた瞬間耳がピンと張り目を見開いたが、その直後には蕩けた顔をしていた。

その表情からアイスがとても美味しい物だと感じたことが伝わってくる。


「冷たくて甘くて、とっても美味しいわ!」

「良かった」


いつもはおっとりとした性格のクシナであるか、よっぽどアイスが口に合ったのかいつもよりテンションが高い。

その後もパクパクと口に運び食べ続けるクシナを見てシアナも自分のアイスを食べようと手を伸ばす。

一つアイスの玉をつまんで口に入れる。


「んっ!」


すると先程のクシナと同じような挙動をしていた。


「美味しいか?」

「ん、神の食べ物...」


目を閉じながら全神経を舌に集中させながらシアナはアイスを楽しむ。

二人の様子を見ながら伊織も食べ始める。


「やっぱり美味しいなハイパーカップは」

「主、一口ちょうだい」

「ん?いいぞ」


一人だけ違う種類のアイスを食べていたシアナであるが、伊織のアイスも気になったので食べてみたくなった。


「はい、あーん」

「あーん。ん、これも美味」


どうやらハイパーカップもシアナの口に合ったようだ。

そしてそれを羨ましく思ったクシナも伊織にお願いする。


「主様、私もチョコ味が食べてみたいわ?」

「いいぞ、ほら」


流石にクシナにあーんは恥ずかしかった伊織はカップを差し出す。


「もう違うわよ主様、あーん」


しかしその抵抗はクシナに通用しなかった。

彼女は口を開け、今か今かと待ちわびている。

おそらく伊織がスプーンでアイスを食べさせてくれるまでクシナはこの態勢でいるだろう。

そんなクシナの行動を見て伊織は諦めたようにスプーンでアイスを掬ってクシナに差し出す。


「はい、どうぞ」

「あーん。ん~、とっても美味しいわ」

「ん~?」


伊織のスプーンで食べさせてもらったクシナは自分の食べているアイスより美味しく感じた。

そしてその光景を見ていたシアナの心に少しだがモヤモヤしたものを感じる。

その感情が何なのか理解できなかったシアナは首を傾げていた。

考えても分からないが何か行動したい気持ちがあったので伊織に一つ提案をする。


「ん、主。私のも一つあげる」

「いいのか?」

「ん、あーん」


シアナは自分のアイスを一つ指で持ち、先程伊織がしてくれたように口へ近づける。


「あーん」

「どう?おいし?」

「うん、美味しいよ。ありがとう」

「ん...」


美味しいと言いながら頭を撫でてくれた事で、先程まで胸の中にあったモヤモヤが全て無くなった。

伊織の手の温もりを感じ不思議と温かな気持ちになる。



「あら?あらあら、そうなのね?」


その様子を見ていたクシナは誰にも聞こえない声でそう呟いた。

相変わらず無表情のシアナであるが、付き合いの長いクシナには彼女すら気が付いていない気持ちに気づく。

今のところ伊織はシアナのことを妹のようにしか見ていないので問題ないが、何かの間違えで気持ちがそっちの方向に向くとマズイのでクシナもアピールを開始する。


「主様、今日は私も頑張ったから撫でて欲しいわ?」

「分かったよ、いつもありがとう」


そのお願いを聞いた伊織は食べていたアイスをテーブルに置きクシナの頭も撫でる。


「うふふ、いつ撫でて貰っても主様の手は気持ちがいいわね~」


二人とも撫でられることに集中しているのか、アイスを食べる手が止まっている。

アイスは残酷なことに早く食べてしまわないとその姿が失われてしまう。


「はい、撫でるの終了。早く食べないとアイスが溶けるぞ」

「ん、分かった」

「分かったわ」


二人はその言葉を聞いて食べるのを再開する。

しばらくアイスを食べて話すだけの時間が続いた。

そしてアイスを食べ終えた後シアナがあるお願いをしてきた。


「主」

「なんだ?」

「今日一緒に寝てもいい?」


先程伊織に撫でられた時の温かさが忘れられず、もっと伊織と一緒に居たいという気持ちが強くなっていた。

そんな可愛いお願いに、ほっこりとした気持ちになった伊織は了承する。


「いいぞ、一緒に寝ようか」

「ん」

「それじゃあ私も一緒に寝ようかしら?」

「え?」


だがその会話を聞いていたクシナは自分も一緒に寝ると提案してきた。

シアナと寝るのと、クシナと寝るのでは話しが違ってくるので伊織は戸惑う。


「あ~、いや、ベッドも一人用だから三人は流石に狭いかな」

「それならシアナが主様の上で寝て、私が隣で寝るわ」

「いや、今日は暑いしな~...」


なんとか三人で寝ることを阻止しようとする伊織と、なんとしても一緒に寝たいクシナが対決する。

だが救世主は別の所から現れた。


「ん、今日は私の日」

「ズルいわよ、シアナだけ一緒に寝るなんて」


伊織はシアナからの援護に感動を覚える。

そういえば以前にもクシナの過激なアプローチから救ってもらった事を思い出し、さらに好感度が上昇した。


「だから明日はクシナが一緒に寝ればいい」

「シアナ!?」


しかし救世主かと思われたシアナであるが、どうやら違ったらしい。


「ん~それもそうね?」

「ん、交代交代」


その言葉を聞いたクシナも伊織と二人きりで寝たほうが色々と独占できるので、その方が良いと感じていた。


「それじゃあ主様、明日は一緒に寝ましょうね?」

「え、は~分かったよ...」


ここで強く否定の気持ちを表すとクシナが凄く悲しそうな顔をするのは今までの経験上分かっていたので、ため息をつきながらも了承した。


「ん、主。早く寝よ?」

「分かったよ、今日は早めに寝るか」


伊織はシアナに手を引かれながら部屋へ向かった。


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