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休日、まったりと

次の日は休日なので家でゆっくりとした時間を過ごしている。

伊織はソファーに座りながら札術に関する本を読みながら二人をちらりと見る。

するとシアナはいつものようにテレビに夢中になっているのだが、クシナは少しソワソワしたような雰囲気を感じた。


「どうしたんだクシナ?」


その様子が気になったので尋ねてみることにした。


「あ、主様?その、少しお願いがあるの...」

「お願い?なんだ?」


クシナには日々助けられているので、何か望みがあるなら聞きたいと伊織は考えていたのでクシナのお願いを聞き出す。


「その、ブラッシングをして欲しいのよ...、ダメかしら?」

「ブラッシング?」


その言葉を聞いた伊織はふと思い出す。

そういえば彼女が子ぎつねの時はよくブラッシングをしていたが、人型になってからは一回もしたことがなかった。


「確かに最近してなかったな。良いよ、やろうか」

「本当に?」

「あぁ、本当に」

「主様、ありがとう」


するといつの間に持っていたのか、伊織がよく使っていたブラシを差し出してきた。

準備が良いなと思いながらもブラシを受け取ると、クシナが伊織の隣に尻尾を差し出すようにして座る。


「それじゃあ始めるか」

「久しぶりのブラッシング...。嬉しいわ」


そして伊織はクシナの尻尾の一つを手に取り、ブラッシングを始める。

子ぎつねの時から比べるとかなりボリュームの増えた尻尾を梳いていく。


「力加減はこのくらいで良いか?」

「んぅ、えぇ大丈夫よ。とっても気持ちがいいわ...」


伊織が手を動かした途端、クシナはうっとりとした表情をしだす。

クシナが痛くないよう丁寧に尻尾を梳いていく。


「じー」


ふと視線に気が付いたのでその方向に目を向けると、間近でシアナが見つめていた。

一体いつの間に移動したのだろうと疑問が頭を過る。


「クシナ、気持ちいいの?」

「最高の気分よ、はふぅ」


尻尾のボリュームは中々あるので、一つの尻尾が終わる頃には少し手の疲れを感じていた。

しかしここで辞めてしまうと他の尻尾と比べたときに浮いてしまう。

それは良くないと伊織はブラッシング魂に火を灯し、続きを行っていく。


「どう気持ちいの?」

「言葉には表せないわっ。んぅ、でもとっても気持ちいいの」

「そうなんだ」


伊織の手により次第に綺麗になっていく尻尾をシアナはじっと見つめる。

時折ちらりと伊織の方を期待するような瞳で見ている。

しかし伊織はブラッシングに集中しているため、その視線には気が付かないまま黙々と進めていく。

そして一時間ほど時間が経った時、全ての尻尾の手入れが終わった。


「ふぅ、これでよし」


改めてシアナの尻尾を見てみると、明らかに尻尾の輝きがブラッシングをする前より良くなっている。


「す、凄いわ主様...」


そしてその尻尾を信じられないといったような目でクシナは見ていた。

一つ一つ自分の尻尾を触っていき、感触を確かめる。

指を入れても全く引っかかる事はなくサラサラと流れていく。


「どうだクシナ?」

「最高の出来よ!とっても嬉しいわ」


そう言いながらクシナにしては珍しい満面の笑みを浮かべていた。

その様子を見ていたシアナは羨ましくなったのか、伊織にお願いを口にする。


「主」

「ん?なんだ?」

「私にもして欲しい」


シアナは生まれてこの方ブラッシングなど経験したことが無かった。

だがクシナの表情からも本当に気持ちいいものだと伝わってきたので自分もして欲しくなったのである。


「あ~、なるほど」


そのお願いをされた伊織はシアナの尻尾を見てみるが、クシナの物とは違い毛が短い。

出来ればシアナのお願いを聞いてあげたかった伊織であるが、手持ちのブラシでは彼女の尻尾を梳くには不適切であった。


「悪いシアナ、このブラシだとシアナの尻尾は出来ないんだ」

「ん?そうなの?」

「あぁ、ブラシにはそれぞれ適した毛の長さが決まってるんだけど、シアナの尻尾の毛は短いからこのブラシに合わないんだよ」

「ん...」


どれだけ気持ちいいものなのか期待していたシアナはその言葉を聞いて少し落ち込んでしまった。

耳はしょんぼりとしており、その態度を見た伊織の心が締め付けられる。


「あ、明日シアナ用のブラシを買ってくるから!だから今日は他にして欲しいこととかないか?」

「ん~...」


ひとまずブラッシングの事は置いておき、伊織からそう言われたので考えを巡らせる。


「ん、マッサージして欲しい」

「マッサージか?」

「ん」


そして以前伊織にしてもらったマッサージが凄く気持ちよかったことを思い出したので、またしてもらいたい気持ちになった。

伊織としてもそれでシアナの機嫌が治るなら良いことだと思ったので了承する。


「分かったよ、じゃあ始めようか。こっちに座って」

「ん!」


それを聞いたシアナは軽い足取りで伊織の横に座り背中を向ける。

そして伊織がマッサージを始めると、以前と同じような気持ちよさがシアナを包み込んだ。


「力加減はこのくらいでいいか?」

「ん、ばっちり」


シアナは目を閉じてその気持ちよさに身をゆだねる。


「あら?」


その様子を見ていたクシナは少し不思議そうな顔をする。

今度はクシナがその様子をじっと見つめていたのだが、これまたマッサージに集中していた伊織は全く気が付かない。

そして三十分程マッサージを行った。


「よし、こんな感じでどうだ?」

「ん!ありがと主」


シアナはぴょんとソファーから飛び降り体の調子を確認していく。

明らかにマッサージを受ける前より体が軽くなっており、今ならもっと早く動けそうだと感じていた。

その様子を見ていたクシナがシアナに近づき、ペタペタと体を触りだした。


「ん?どうしたの?」

「う~ん、これは...」


何かを調べるように体を触っていたクシナがふと伊織の方へ振り返る。


「ねぇ主様、またシアナの霊力が増えているわよ?」

「え?また増えてるのか?」


確か以前二人にマッサージをしたときに霊力が増えたことを思い出した。


「私の予想だと一回限りのものだと思ったのだけれど...。上昇量は少し減っているけど確実に増えてるわね」

「そうなのか」

「ん、主凄い」


以前マッサージを受けたときに霊力が上昇したクシナであるが、その上昇量が大幅な物だったので伊織の霊力が混ざるために起きる一回限りの現象だと思っていた。

しかし二度目のマッサージを受けたシアナの霊力は増えていたのでその推測は間違っていたことになる。


「これはいよいよ他の人に話さないほうが良いわよ主様」

「確かにどれだけ上がり続けるのか分からないけど、話さないことが良いのは確かだな」

「ん、主は私達が守る」


もしこの秘密を退魔士達が知ったら一度でも良いから伊織にマッサージをして欲しいと大挙して押し寄せてくるかも知れない。

そしてそれが権力を盾にしてくる人物であった場合は伊織の自由が無くなってしまうかもしれない。

そのことが容易に想像できたのでシアナは気合を入れ直した。


「主様、疲れてるかも知れないのだけれど私にもマッサージをしてくれないかしら?」


霊力が上がれば、それだけ伊織を守ることが出来るのでクシナはそう提案する。


「あぁ、良いぞ」


ブラッシングとマッサージで疲れていた伊織であるが、その考えが聞かなくても理解できたので了承する。


「ありがとう主様」

「じゃあ始めようか」


そしてクシナにもマッサージを施していく。


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