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妖魔と契約している退魔士の弱点

美月は三人にソファーへ座るように伝える。

まずは紅葉が端に座り、その隣に伊織を紅葉の隣に居させたくなかった白雪が座る。

そして伊織が座ったことを確認して美月が話を始めた。


「それじゃあ早速昇格の話をするわね?」

「はい、お願いします」

「まず改めてこの前は依頼お疲れ様、とても助かったわ」

「いえ、一緒に来てくれた楓さんやシアナのおかげです」

「伊織さん...」


伊織としてはあの依頼であまり働いた気はなく、全てシアナや楓のおかげだと感じていた。

その言葉を聞いた楓は感激していた。

あの時伊織を守り切れなかった負い目があったのだが、何度も伊織から助かったと伝えられていたのでその負い目も消え始めている。


「それで伊織君の持っている退魔士カードからの情報を見ると、毎日妖魔を対峙してくれているようね?」

「そうですね、毎日襲われるのでシアナが対峙してくれてます」

「なに?そうなのか?」


紅葉は伊織が毎日妖魔に襲われていることは初耳だったので聞き返す。


「そうなんですよ、何故か毎日のように襲われるんですよね」

「まぁそれだけ霊力が多ければ寄ってくるか」


この部屋の中で紅葉と美月だけが伊織の霊力量をかなり正確に見抜いていた。

確かに伊織の霊力量なら毎日襲われたとしても不思議ではないと感じている。


「それで依頼の事や妖魔退治の功績を鑑みて、伊織君を四等星に昇格することにします。おめでとう伊織君」

「ありがとうございます」

「まて、何故四等星なんだ?」


その話を聞いていた紅葉が疑問を唱える。

紅葉としては直接シアナの実力を体感したので、もっと上の階級でも良いと考えている。


「退魔士組合の規則上、一つずつしか階級は上げられないのよ。紅葉ちゃんの時もそうだったでしょ?」

「む、言われてみれば確かに」


紅葉も退魔士としてデビューした当初からその頭角を現しており、多数の依頼をこなしていた。

しかしいざ階級が上がる話が出る時は決まって一つずつ昇格していた。


ただもし飛び級が可能であった場合、伊織の階級は三等星や二等星でも問題なかったりする。


「だからごめんなさいね?まずは四等星になってしまうの。本当はもっと上げてあげたいんだけど」

「いえ、十分です。俺はまだ知らないことも多いので」

「そう言ってもらえると嬉しいわ」


実際伊織はまだ退魔士になって日が浅いので知らないことの方が多い。

妖魔の種類にしても、伊織が遭遇した事のある妖魔しか知らなかったりする。

階級が上がるということは、それだけ難しい依頼が回されることになるので相応の知識が必要だ。

白雪と話しているだけでも知らないことがドンドン出てくる伊織にとって、四等星は妥当なものだと考えている。


「それじゃあ退魔士証を出してもらえるかしら?」

「はい、分かりました」


退魔士証を取り出すと、楓が受け取りに来たので渡す。


「わひゃ!」

「だ、大丈夫ですか?」

「す、すみません!大丈夫です!」


ちょうど退魔士証を渡すとき楓と少し指が触れてしまった。

そのことに驚いた楓が大げさに驚いていたので伊織は心配してしまったが、本人は恥ずかしかったのか顔を赤くしながら急いで伊織から退魔士証を受け取る。


楓がそれを美月に渡すと、机から判子を取り出し退魔士証の上に押した。

すると初めて伊織が契約した時のように青い炎が一瞬噴き出る。


「はい、これで完了よ」


そういいながら返ってきた退魔士証を見てみると、階級の部分が四等星になっていた。


「ありがとうございます」

「それと、今後伊織君は直ぐに階級が上がるかもしれないわ」

「そうなんですか?」


美月は先日行われた紅葉対シアナの勝負を把握しており、その能力を下級にしておくのは勿体ないと感じていた。


「そうなのよ、私の予想より妖魔ちゃんの実力が強いようだからそう判断される可能性が高いわ」

「わ、分かりました。覚えておきます」


これはいよいよ白雪にもっと退魔士の事を詳しく聞かないといけないなと伊織は思う。


「それじゃあ要件も終わったし退出して大丈夫よ」

「はい、ありがとうございました」

「では行くか」

三人は支部長室を後にする。

中に残っている美月は少し楓を呆れたように見つめていた。


「楓ちゃん、わひゃは無いでしょ、わひゃは」

「だ、だって伊織さんの指が触れてしまったんですよ?どうしましょう...セクハラになりませんかね?」

「その程度でセクハラになるなら世の中は犯罪者ばかりになるわよ。はぁ、貴女はもう少し免疫を付けたほうがいいわね...」


楓の男性に対するあまりの免疫のなさに少し頭を抱えた。


一歩支部長室を後にした三人が歩いているとき、紅葉がある提案をしていた。


「久遠伊織、この後時間はあるか?」

「この後ですか?特に予定は無いですけど...」

「それは重畳、一度お前とはゆっくり話してみたいと思っていたんだ。どうだ?カフェで少し話さないか?」

「むぅ、伊織君。どうする?帰る?」


白雪としてはあまり歓迎できるイベントでは無かったので伊織に帰宅を勧める。


「そうですね...。分かりました、いいですよ」


しかし伊織は先程の会話でこれからも階級が上がっていくかも知れないと言われていたので、一等星である紅葉から色々聞くのもありかもと考えていたので了承する。


「伊織君!?」

「そうか!では行くぞ!」


その返答を聞いた紅葉は嬉しそうにしながらズンズンと組合の中を進んでいく。

組合内にも専用のカフェが存在するのでそこへ向かう。


カウンターでそれぞれ飲み物を注文した三人はそのまま席に座る。


「さて、久遠伊織。お前は札術は使えるのか?」

「札術ですか?はい、少しだけですけど」


伊織の霊力量であっても多少霊力を動かせるだろうと予想していたので札術の質問をした。


「そうか、何が使えるのか教えてくれ」

「えっと、今は拘束と身体強化ですね」

「ふむ、その二つか?」

「はいそうです」

「攻撃系の札術は使わないのか?」


伊織から伝えられた札術はどちらも補助系の物であり直接攻撃をするものではない。

紅葉からそう問いかけられた伊織であったが、ちょうどその札術は練習中であった。


「今ちょうど攻撃系の札術を書いてる途中なんですよ」

「ふむ、そうか。久遠伊織、妖魔と契約している退魔士の弱点は何か分かるか?」

「弱点ですか?」

「あぁそうだ。そういった退魔士は一般的には妖魔が居ないと自分の身を守ることが出来ない」

「まぁ、そうですね」


そう紅葉が言ったのだがこれは伊織に当てはまらなかった。

例えシアナが戦っているときに別の妖魔が現れ伊織を攻撃したとしても、シアナのスピードであれば伊織が怪我をする前に妖魔を倒せてしまうからだ。

さらにシアナの手が回らない場合でもクシナが控えているので伊織の守りは万全である。


「その時に頼りになるのは自分の力のみだ。だから攻撃系の札術は早めに覚えておけ」

「分かりました、ありがとうございます」


ただ伊織としてもそのアドバイスはありがたかったのでお礼を言う。


『まぁ主様には私たちがついているから大丈夫よ?』

『ん、絶対防御』


二人のその言葉からは伊織を絶対にそんな状況にさせないという自信が感じられた。


「他にも分からないことがあれば私に聞け」

「紅葉さんに聞かなくても私が答えてあげるからね?」

「そうですね...白雪に聞いても分からないことがあれば紅葉さんに聞きたいと思います」


伊織としてはやはり白雪を優先したい気持ちがあったのでそう答えた。


「ふ、今はそれでいい」


ここでまた強引に行ってしまうと伊織に嫌われる可能性があったので紅葉は引き下がった。

その後三人で話してるにしては珍しく和やかなムードのまま話しが行われ、そろそろ良い時間となってきたので帰ることにした。


「ではな久遠伊織、また会おう」

「はい、ではまた」


そのまま何事もなく帰宅する。



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