言い合う二人と密かに話す狐
次の日白雪と共に大学へ向かっているときに階級が上がる話をする。
「って事で今日組合に行こうと思ってるんだよね」
「凄いね伊織君!おめでとう!」
その話を伝えると白雪は自分の事のように喜び祝いの言葉を伝える。
本当に嬉しいのかいつも以上にニコニコした表情で伊織を見つめていた。
「む、階級が上がるのか。それはめでたいことだな」
その時後ろから紅葉が声を掛けてきた。
先程の会話が聞こえていたのか、自然と会話に入ってくる。
「あ、紅葉さん。おはようございます」
「あぁ、おはよう」
「むぅ」
先程までとても上機嫌であった白雪であるが、紅葉の姿が見えると途端に不機嫌そうな顔になる。
「まぁそうむくれるな冬木の娘、今日は久遠伊織の階級が上がるめでたい日だぞ」
「確かにそうですけど...」
「ならば運気が良いように笑顔でいたほうが良いのではないか?」
紅葉がいるせいで不機嫌になっている白雪であるが、紅葉の言い分も分かるので今日だけは気にしないで笑顔で居ようかなと少し考える。
「それで伊織君、組合に行くんだよね?」
「あぁ、今日は特に予定も無いし大学が終わったら行こうかなって考えてるよ」
「そうなんだ、じゃあ私も行こうかな」
伊織が組合に行くということは、それだけで悪い虫が伊織に付く可能性がある。
だが自分が近くに居れば彼に寄ってくる人も減るのでそう提案した。
「ならば私もついて行こう」
「え?紅葉さんもですか?」
それを聞いていた紅葉も伊織について行くことを告げる。
「どうして紅葉さんもついてくるんですか?」
何故そう提案したのか理解できなかった白雪がムッとした表情をしながら尋ねる。
「なに、ただ私が久遠伊織と一緒に居たいだけだ」
「ダメです!」
今まで伊織の周りにはここまでストレートに自分の気持ちを伝える女性は居なかった。
その事で白雪は僅かな焦りを感じている。
自分の方が有利である事に変わりはないが、万が一にも伊織の気持ちが紅葉に傾いてしまった場合は目も当てられない。
そして二人はそのまま口喧嘩を始めてしまった。
『この二人はいつも喧嘩していて飽きないのかしら?』
『どうなんだろうな…』
クシナとしては伊織を放ったらかしにして喧嘩を始める二人に思うところが無いわけではないが、そのおかげでこうして伊織と話が出来ているのでむしろプラスに感じていた。
『ねぇ主様、主様の好きなものを教えて欲しいのだけどいいかしら?』
最近のクシナはこうして伊織の好みをよく聞き出そうとしている。
それは伊織の好みを把握して、より良いアプローチをする為であった。
『好きなものか、例えば?』
『そうね〜、じゃあ犬と猫どっちが好きかしら』
『ん〜、猫かな』
その問いを聞いた時ふとシアナの姿が頭をよぎったのでそう答える。
『そうなのね、じゃあ猫と狐はどちらが好きかしら?』
『ん?宣戦布告?』
『別に他意は無いわよ?』
その問いがまるで二人を比べているように感じたシアナはついそう言ってしまう。
『猫だよね主?』
『もちろん狐よね主様?』
『えっと…』
他意は無いと言われたものの、これは負けられないと感じたシアナが猫を推し、対抗するようにクシナは狐を推す。
どちらの動物も二人を連想させるものだったので伊織は返答に困ってしまう。
『りょ、両方好きとかじゃダメか…?』
二人に優劣は付けられないので、優柔不断な返答をしてしまう。
『ん〜』
『まぁ、今はそれでいいわ』
特にシアナと決着を付けたかったわけではないクシナは引き下がった。
そのまま大学へ向かい、講義を終え、組合へと向かう。
講義中は紅葉と別れるため、白雪は紅葉を置いて行こうとしたのだがいつの間にか伊織たちと共に歩いていた。
「置いていくなんて酷いのではないか?」
「い、いつの間に...」
「言ったであろう、この安倍紅葉からは逃げられないと」
以前紅葉と組合に向かった時とは違いある程度会話しながら歩いて行く。
「なぁ久遠伊織、お前と冬木の娘は付き合いが長いのか?」
「そうですね、小学校からの付き合いなのでもう十年近くになりますね」
「ふむ、そうか」
その返答を聞いた紅葉は思ったより二人の仲が長いことを知る。
伊織の態度からも白雪のことを悪い風には思っていないと分かるので、かなり自分が頑張らないと振り向いて貰えない可能性を悟った。
ならば攻めて攻めて攻めまくろうと考えを改める。
「さぁ久遠伊織、急ごうではないか」
「え?ちょ!?」
突然伊織の腕を抱えだした紅葉が足早に歩き始める
腕から伝わってくる柔らかな感触に戸惑いながらも、力では絶対に対抗できないのでされるがままになってしまう。
「何してるんですか紅葉さん!」
当然そのことに怒る白雪であるが紅葉の歩みは止まらない。
ならばと対抗するように伊織の腕を抱きしめる。
両手に花状態で組合に到着した伊織たちはそのまま支部長室へ向かう。
当然その姿を見た組合の退魔士達はいつもより騒いでいた。
「本当にここはいつ来ても煩いな」
「なら離れて歩いたほうが良いんじゃないですか?」
「ふ、それは出来ない相談だ」
不敵に笑いながら絶対に伊織の腕を離さない紅葉。
そのままの状態で支部長室までたどり着き、部屋をノックすると中から声が聞こえてくる。
「どうぞ~」
「入るぞ」
「あら?紅葉ちゃんも来たの?」
伊織を組合に呼べば白雪は付いてくると予想していた美月であるが、入出してきた三人を見て少し驚いた表情をする。
「(あわわ、腕組んでます!?いいなぁ...)」
その三人を見た楓は相変わらず百面相をしていた。




