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少し変わった日常

伊織が安倍紅葉と出会ってから数日が経過し六月へ突入した。

夏の気配が色濃くなる中、伊織は少しだけ変化した日常を送っている。

その変化とは...。


「む、奇遇だな久遠伊織」

「あ。安倍さん、おはようございます」

「いつも言っているが、私のことは気軽に紅葉と呼んで欲しい」

「伊織君、聞く必要は無いよ?」

「これもいつも言ってるが、お前には聞いていないぞ冬木の娘」


大学内で紅葉がよく話しかけてくるようになった。

今日は大学へ向かっている途中でたまたま紅葉と出会い、そこから一緒に歩いている。

他にも講義室に向かっているときや食堂で食事をしているときなど、よく紅葉に遭遇していた。

そして大学内では大抵白雪と一緒にいるため、二人はよく口喧嘩をしている。


「む~、伊織君。早く行こ?」

「そんなに急ぐものでも無い、今日は心地よい天気だ。たまにはゆっくりと向かうのも一興だろう」


そしてひとたび口喧嘩が始まってしまうと中々止まらない。

その間伊織は口を挟むことができないのでよくクシナと話をしていた。


『ねぇ主様』

『ん?なんだ?』

『主様は子ぎつねだった時の私と、今の私どちらの方が好きかしら?』

『え?う~んそうだな~。子ぎつねの時はあんまり話しができなかったから、今の方が良いかな』

『うふふ、そうなのね?そうなのね?』


子ぎつねの時も少しは意思疎通が出来たが、今の方がより話などをしやすいのでそう答える。

クシナとしても今の方が良いという言葉を聞けただけでも上機嫌になる。


『それじゃあ、私がまた子ぎつねになったらどう思うかしら?』

『あの状態って消滅する寸前だったんだろ?なら嫌だな』


伊織の中でクシナが子ぎつねに戻るということは、消滅してしまう可能性を指している。

もはや生活の一部になりつつあるクシナの存在が消えてしまう事を想像すると、伊織は悲しい気持ちを覚えた。


『...!安心して主様、私があの状態になることは二度とないわ!』

『そっか、なら良かったかな』


実はクシナは変化を使えばあの時のように子ぎつねの状態になることが出来る。

しかし伊織の悲しい気持ちが伝わってきたので、変化は使わないようにしようと考えていた。

それに人型の方がより深いアピールも出来るので、伊織の前では常に人型でいようと心に決める。


『主、私は?』

『シアナも今の姿の方が良いよ』

『ん...』


クシナとの話を聞いていて、自分のことはどう思ってるのか気になったので伊織に聞いてみるとそう返ってきた。

シアナはそれを嬉しいと感じたのだが、何故嬉しいと感じたのかまでは分かっていない。


伊織は最近このような日々を過ごしていた。




大学が終わり家でゆっくりしているとシアナが興味深そうにテレビを見ている。


「お~」


相変わらずの無表情であるが心なしか瞳が輝いているようにも見える。


「何を見ているのかしら?」

「ん、都市伝説特集」


気になったクシナが話しかけてみると、どうやらシアナは都市伝説の番組を見ていたようだ。

その番組は古今東西どういった都市伝説があるかをドラマ形式で紹介する番組であり、今はちょうどトイレの花子さんを紹介していた。


「都市伝説ね~」

「懐かしいな」


その番組を見て、伊織が小学生だった頃もこういった話しが流行ったことを思い出し懐かしい気持ちになる。


「ん、主。花子さん会ってみたい」


するとシアナが可愛いお願いを言い出した。


「え?う~ん、多分居ないぞ花子さん」

「そうなの?」


伊織は物心ついた時から霊や妖魔などが見えていた。しかし小学生の頃花子さんの話しが流行って肝試しをしたこともあるのだが、そういった存在に遭遇したことは無かった。


「あぁ、俺も一回見に行ったことがあるんだけど居なかったよ」

「そうなんだ...」


少し耳が垂れ下がり落胆しているようだ。

シアナとしては霊でも妖魔でも無い新しい存在だったので会ってみたかったのだが、伊織から存在しないと言われ残念に思う。

それはそれとして、番組は非常に面白いものだったので再び視線を戻した。


その後三人で夕食を取り、寝るまでの間話をしているとき伊織のスマホに一通の連絡が届いた。


「ん?組合からだ」

「また依頼の連絡かしら?」

「ん、次は頑張る」


今まで伊織に対して組合から連絡が来たのは依頼の一回のみだ。

そしてシアナはその時に少し伊織の足を引っ張ってしまったので、次は頑張ると気合を入れている。


「えっと何々、昇格のお知らせ?え?マジか」


組合からの連絡には久遠伊織を四等星に昇格するので一度組合に顔を出してほしいと書かれていた。


「流石主様ね、こんなに早く昇格するなんて」

「前に白雪から少し聞いたけど、本当に上がるなんてな。これも二人のおかげだよ」


伊織は今も毎日妖魔に襲われている。そのたびにクシナやシアナに助けられているので二人には感謝してもしたりない。


「良いのよ主様」

「ん、お祝い?ケーキ?」


伊織の昇格はめでたいことだと思っているので、もしかしたらまたケーキが食べられるかも知れないと伊織に問いかける。


「あはは、そうだな。明日はお祝いにケーキ食べようか」

「ん!」

「私はまたショートケーキが食べたいわ!」


その言葉を聞いた二人はキャッキャとどのケーキが良いかを話し出す。

次の日特に予定も無かった伊織は早速組合に行ってみようと決めた。


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― 新着の感想 ―
[一言]  いきなりですが……。  今回の話を読むにつけ、クシナとシアナは"家族"で白雪は"恋人"もしくは"それに近い幼馴染"のような気がしました。
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