話し合い
美月について行く形で支部長室まで向かい、部屋の中に入る。
既に紅葉は到着していたようでソファーに腕を組みながら座っていた。
中には楓もいたのだが、急に来た紅葉にどういった対応を取ればいいのか分からなかったので少しオロオロしている。
「二人とも座って頂戴」
「分かりました」
紅葉はソファーの端に座っていたので、伊織へ近づけないために白雪が真ん中に座る。
「む、お前が隣に座るのか」
「何か問題でも?」
「久遠伊織が隣に来てくれた方が嬉しかったが、まぁいい」
「絶対貴女の隣に伊織君は座らせませんから」
「ならお前の居ないときにでもゆっくり話をしたいものだな」
「二人ともその辺でストップよ」
座った瞬間に言い合いを始めてしまった二人を美月がなだめる。
「ん、主。これ美味しいよ?」
「そうか、良かったなシアナ」
「ん」
ちなみにシアナの興味は既にテーブルの上に置いてあるお菓子に移っており、美味しそうに食べている。
「さて、事の経緯はさっき紅葉ちゃんから聞いたけど間違いは無いかしら?」
「そうですね、概ね合っているかと思います」
先程紅葉が語った経緯について伊織も聞いていたのでそう返す。
「そうなのね、紅葉ちゃんの考えは変わらないかしら?」
「逆に問うが、これほどの逸材が居て何故自分の夫にしたいと思わないのか不思議で仕方がない」
紅葉からしてみれば、男の退魔士は総じて女性より劣ると認識している。
そこに突如として現れた一等星をも倒す妖魔と契約している伊織という存在に、興味が惹かれないわけが無かった。
そしてその考え自体美月も分かるものであった。
「まぁ確かに分からなくは無いわ、でも一番大事なのは伊織君の気持ちでは無いかしら?伊織君はどう思っているの?」
「そうですね、正直今日会ったばかりの人にいきなり夫と言われても正直よくわかりませんし、あまり良い感情は無いですね」
『良く言ったわ主様!』
「そうだよね伊織君!」
伊織としても紅葉とのファーストコンタクトで印象が悪いものがあり、お人好しな伊織でも好感度は低い。
その言葉を聞いた白雪がここぞとばかりに紅葉を攻める。
「伊織君もこう言ってますし、やっぱりもう近づかないで貰えますか?」
「確かに私の態度が悪かったことは認める、私としてもあのような態度を取られれば良い感情は沸かない。だがそれは今の話しだろう?」
紅葉は伊織からの印象がマイナススタートなのを分かっていても強気な姿勢を見せる。
「今日会ったばかりで私はお前の事を知らないし、お前も私のことを知らない。だからこれから私の事を知ってほしい」
伊織の方を向きながら真剣な瞳で見つめる。
確かに伊織からの印象はマイナススタートであるが、紅葉に取ってそんなものは障害にすら感じていなかった。
「ねぇ伊織君、私からもお願いがあるの」
「はい?なんですか?」
「紅葉ちゃんは決して悪い子じゃ無いのよ、だからほんの少しで良いから紅葉ちゃんの事を知ってほしいと思っているの。ダメかしら?」
「美月さん!?」
白雪は美月がどちらかと言えばこちらサイドの味方だと思っていたのでその言葉に驚きを露にする。
ちなみに美月は別に紅葉の味方をしたつもりは無い。
ただこう言っておけば紅葉は伊織にアピールを続けるだろうし、そうなればそれに紛れて楓がアピールを行ったとしても不思議には思われないだろう。
そして紅葉との対比で楓の好感度が通常より上がるかも知れないと考えていた。
「美月さん、良いことを言うな」
「伊織君に紅葉さんは相応しくないので、その必要はありません!」
「冬木の娘、お前には聞いていない。先程美月さんも言っていたが大事なのは伊織の気持ちなのだろう?」
当然強く抗議した白雪であったが、そんなものは全く意に返さず紅葉が言ってのける。
そして紅葉は期待するように、白雪は心配そうな顔で伊織を見つめる。
「そう...ですね、確かに俺はまだ貴女の事を良く知りません。なので今日のような迷惑を掛けないのであればまぁ、少し話すくらいなら」
伊織としてはあまり白雪に心配も掛けたくなかったのでここらが落としどころと思ったのでそう伝える。
「ふっ、そうか」
「むぅ」
その言葉を紅葉は嬉しそうに聞いていた。
そんな紅葉の様子を眺めていた白雪はこれから紅葉に対するガードを硬くしようと心に誓う。
「それじゃあ三人とも、これからは仲良くするのよ?」
「ではな久遠伊織、また会おう」
話しが纏まったこともあり、紅葉が先に退室した。
「それじゃあ伊織君、私たちも帰ろうか?」
「そうだな、今日はなんだか忙しい日だったな~」
それに続いて伊織たちも支部長室を後にした。
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SIDE:紅葉
今日は良い日だ。まさか手加減をしていたとはいえ私が負ける日が来るとは。
それにその妖魔tと契約を結んでいる男の退魔士とも出会えた。
最初はただ運が良いだけのよくある男の退魔士だと思ったがそうでは無かった。
ただ傍から見ると私の印象は最悪であったであろう。
勝手に話しかけ、勝手に失望し、戦いを強引に決め、そしていきなり求婚する。
「ふ、我ながら自分勝手だったな」
だが少し話をした感じ、久遠伊織はかなりのお人好しである事が伺えた。
本来であれば二度と近づかないで欲しいと言われてもおかしくは無いのだが、奴はそう言わ無かった。
だが迷惑を掛けるなとも釘を刺されたのでただ優しいだけの男ではないのであろう。
「久遠伊織...か」
まさか私が男に求婚する日が来るとは思わなかったが、これからの日々が楽しみで仕方がない。
「それにあいつと仲良くしていればあのシアナとかいう妖魔ともまた戦えるかもしれない」
私は自分で言うのも何だがかなり強い、そのためまともに訓練できる相手が少ない。
だからこそ今日の戦いは心踊る物があった。
そんなことをつらつらと考えながら歩いていると、いつの間にか家に到着していた。
「お帰りなさいませ紅葉様」
「あぁ、今戻った」
何人かの家に在中している退魔士から挨拶をされ、私は家の敷地内を歩いていく。
「あら?おかえりなさい紅葉ちゃん」
「む、母上か。今戻った」
ちょうど庭に出ていたのか、偶然母上と遭遇した。
池の近くに居るので多分鯉でも眺めていたのであろう。
「あらあら、今日は随分と上機嫌ね?何か良いことでもあった?」
「分かるか?」
「もちろん、貴女の母ですもの」
流石母上である。私の感情などお見通しなようだ。
「さぁさぁこちらにいらっしゃい、何があったのか詳しく聞かせて?」
「分かった」
母上は良く庭で鯉を眺めることがあるので、池の近くには椅子が設置されている。
そこに二人で腰かけながら今日会ったことを母上に伝える。
「母上は最近新しく男の退魔士が東京支部に入ったことを知っているか?」
「う~んと、美月ちゃんから連絡が来ていたような...。確か妖魔と契約して退魔士になった子かしら?」
「あぁ、それで合っている」
やはり母上にも連絡が行っていたようだ。まぁ男性の退魔士が増えるとなれば、主要な名家に連絡が回るのは不思議ではない。
「それで?」
「あぁ、実際合ってみてかなり強い妖魔と契約していそうだったから戦いを申し込んでみた」
「あらそうなの?どうだったのかしら?」
「ふっ、力を抑えているとはいえ負けてしまった」
「あら、そうなの」
戦う前に色々と話しもあったのだが、あまり伝える必要を感じなかったのでそこは省く。
そして私が負けたと聞いた母上は酷く驚いていた。
それも当然であろう、自分で言うのも何だが私が負けた経験はたった数回しかない。
「あれは使って無いのよね?」
「もちろんだ、あれを使ってしまっては組合が破壊されてしまうからな」
私にも奥の手が存在するのだが、ひとたびそれを使ってしまうと被害がどれほどになるか想像がつかない。
まぁシアナも割と余裕がありそうだったのでどうなるか分からないが。
もしあれと同レベルの強さを持っているとすれば、貴重な存在どころの話では無くなる。
「男の子の方はどうだったのかしら?」
「あぁ、かなり霊力が多いようでな。あの様子ではまともに霊術は使えないだろう」
「そう、紅葉ちゃんがそういうって事は本当に霊力が多いのね」
「あぁ、私では比類出来ないほどの物を感じた」
最初に久遠伊織を観察しながらその霊力量を図っていたが、底は見えなかった。
「凄い子がいるのね~、それで紅葉ちゃんはどうするのかしら?」
「むろん、その男を私の夫にする」
「まぁ、まぁまぁまぁ!ついに紅葉ちゃんにも春が来たのね!」
私がその話を告げると、母上のテンションが一気に上がったのが分かる。
まぁ私は今までこういった話しは皆無だったので、母上としても少しは心配していたのだろう。
「それで?その子の名前はなんて言うのかしら?」
「あぁ、久遠伊織と言う男だ」
「...。久遠...ね」
うん?何か思い当たる節があるのだろうか?
私はただ久遠伊織の名前を告げただけであるが、母上は鯉を眺めながら何か考えている様子だ。
「紅葉ちゃん、母は全面的にバックアップしますよ」
そして碌に確認をしないままそう言ってきた。
何故母上がそう思ったのか少し疑問であるが、こういったときの母上は理由を話してはくれないので聞かないことにする。
それにしてもバックアップが得られるのであればこれは幸運な事だ。
母上は安倍家現当主として君臨しているので、その発言力はかなり大きい物になる。
「何かして欲しい事はありますか?」
「そうだな、もし久遠伊織が今後依頼などを受ける時。可能であれば私を付けて欲しい」
こうすれば嫌でも二人きりになるので色々な話しが出来るであろう。
あのうるさい冬木の娘も居ない状況であれば私の事をより知ってもらえるかもしれない。
「分かりました、ちなみにその伊織さんは他に良い人はいるのかしら?」
「詳しくは分からないが、冬木の娘がかなり執着を見せていたな」
今日は常に冬木の娘が一緒に居たが、久遠伊織が発言をする前に全て奴が答えていたし、私を警戒していた。
よっぽど彼を取られたく無いのであろう。
しかし、その方が燃えてくるものがある。
「冬木の娘って言うと、白雪ちゃんかしら?」
「そうだ」
「そう、これは少し六花ちゃんとも話をする必要がありそうね~」
当主同士の話しともなれば面倒な事もありそうな物であるが、母上は笑顔を浮かべながら楽しそうにしている。
「桜様、そろそろお時間となります」
「あら、もうそんな時間なの?ごめんなさいね紅葉ちゃん、詳しい話はまた後でね?」
「分かった、母上も気を付けて」
「ありがとう、それじゃあね?」
母上の仕事の時間が来てしまったので話しはここまでとなる。
迎えに来た退魔士と一緒にこの場を去って行った。
私も部屋に戻りながら、次久遠伊織とあった時に何を話すか考える。
「次にあった時はもう一体の妖魔も見せて欲しい物だな」
初めて久遠伊織とあった時に、あいつからは妖魔の気配を二つ感じられた。
そのうちの一つはかなりの殺気を感じたのだが、今日見た妖魔は怒気は感じたが殺気までは無かった。
おそらく私の予想では、その殺気を発していた妖魔の方が強いだろうと予想している。
そんな妖魔達と契約を結んでいる伊織に興味が尽きない。
「ふ、これから楽しくなりそうだな」
私は一度空を見上げた後、部屋に戻った。




