シアナの着物姿
リビングで伊織が二人を待っている間、クシナと会話していた。
『主様、私も頑張ったら何か買ってもらえるかしら?』
『何か欲しいものがあるのか?』
伊織としては最初クシナ一人に守られていたので、頑張ったらと言わずともクシナが望めば買ってあげても良いなと思っている。
『洋服を着てみたいの』
『洋服か?それくらい明日にでも買いに行くか?』
特に高いものでも無かったのでそう提案する。
『まだ何もしてないわよ?』
『ほら、クシナには色々助けられてるし洋服ならそんな高い物でも無いから直ぐに買いに言ってもいいぞ?』
『その時のお礼はもう貰ってるから、私が次頑張った時のご褒美にするわ』
クシナの中では妖魔を倒したときに、伊織に撫でて貰ったり褒めてもらったりするだけで十分ご褒美に感じていた。
『それにしてもシアナみたいに着物じゃなくて洋服なんだな』
『現代の服も着てみたいのよ』
これは方便である。
クシナは最近白雪の服装を観察しており、伊織の態度からもその服装を気に入ってることが分かった。
今のままでは白雪に勝てないので、自分も伊織の好みの服を着てアプローチしようと考えていた。
『なるほどね、じゃあ今度クシナが頑張った時に買いに行くか』
『約束よ?』
『あぁ』
そんなことを話しながらリビングで待っていると、白雪が姿を見せた。
「お待たせ伊織君」
「着付けは終わったのか?」
「バッチリだよ!」
そう言いながら自信満々の顔をする白雪を見て伊織の期待が高まる。
「今からシアナちゃんを呼ぶけど準備はいい?」
「いつでも大丈夫だ」
「りょーかい!じゃあシアナちゃん!おいで!」
「ん」
その返事と共にリビングの扉からシアナが姿を見せた。
「おぉ...」
シアナの姿を見て感嘆の息が漏れる。
いつもの甚平を着ているシアナとは違い、振袖を纏うその姿はまさに可憐の一言に尽きる。
桜をイメージした振袖や帯は良く似合っており、シアナが歩くと青い髪飾りが揺れ動く。
シアナのクールな印象を損なわず、可愛さを最大限に引き出していた。
元々似合うだろうなと予想していたがまさかここまで化けるとは思わなかった。
「主、どう?」
伊織の目の前まで歩いてきたシアナが恥ずかしそうにしながらそう問いかける。
「凄く可愛いぞシアナ、一瞬女神が現れたのかと思ったよ」
「ん」
その言葉に身を捩りながら照れつつ、伊織に抱きつく。
「主、ありがと」
「どういたしまして、気に入ったか?」
「ん、すっごく気に入った」
「そっか、それなら良かった」
シアナの頭を優しく撫でながら、ここまで喜んでくれて着物を買ってよかったなと思う伊織であった。
ちなみに白雪は伊織に抱きついたシアナに驚いている。
「(自然に抱きついてたけど、日常的にしてるのかな?なにそれ羨ましい...)」
白雪自身シアナとの付き合いはまだ短いが、その言動から妹のように感じておりあまり嫉妬の感情は出てこない。
「さて、そろそろ良い時間だし私は帰るよ」
時刻は既に十八時を回っており帰るにはちょうどいい時間だった。
「今日はありがとう白雪、本当に助かった」
「いいよいいよ、私が好きでしたことだし」
伊織は着物の着付けなど分からなかったので感謝を伝える。
白雪としても、伊織の家に遊びに来れたので全く苦には思っていなかった。
「でも何かお礼したいな、何か無いか?」
「お礼?ん~」
しかしそれでは気が収まらなかった伊織がそう伝えると、白雪は腕を組みながら少し悩みだす。
「じゃあ今度私とデートして欲しいな」
それならばと白雪は自分の願いを告げる。
「で、デートか?」
「そう、デートがしたいな」
今まで何度も白雪と遊びに行ったことはあるが、それはあくまで遊びという体であってデートと明言されたのはこれが初めてである。
そのことに驚いた伊織が思わず聞き返してしまうが、白雪は優しい笑顔を浮かべながら改めて告げる。
「わ、分かった。じゃあその、デート...するか」
『...』
「うん!楽しみにしてるよ!」
伊織が了承してくれたことを嬉しく感じ、満面の笑みを浮かべる。
その後一言二言話したが細かい話などはまた後日ということになり、白雪は伊織宅を後にした。
白雪が帰宅するとクシナが現れる。
いつものだと直ぐに伊織に話しかけたり抱きついたりしているのだが、この日は伊織をじっと見つめている。
「...」
「どうしたんだクシナ?」
「...。何でも無いわ」
小さく頭を振りそう言いながらシアナの方へ向き直る。
クシナとしては先程の話を聞いて思うところが多々あったのだが今日の主役はシアナのため自重することにした。
「シアナ、凄く似合ってるわよ。とっっっても可愛いわ!」
「ん、ありがと」
いつもは見せない少し照れた様子を見てクシナは微笑ましく感じる。
「主、ありがと」
「お礼はさっきも聞いたぞ?」
「ん、でももう一回言いたくなった」
先程も伊織に対してお礼を言ったのだが、シアナは本当に着物を嬉しがっており何度でもお礼を言いたかった。
「そっか」
「これからもっと頑張る」
伊織の目を見つめながらそう決意を表明する。
「頼りにしてるよ、これからもよろしくな?」
「ん!」
そして伊織たちはケーキパーティーを始めた。
翌朝伊織が目を覚ますと、誰も布団へ侵入していなかった。
「なんか一人で目が覚めるのも久々な気がするな...」
クシナは良く伊織の寝室に侵入し勝手に一緒に寝ており、つい最近はご褒美の一環でシアナと一緒に寝た。
そんな日々が続いていたので伊織の中に一瞬だけ寂しいという気持ちが湧き上がるが直ぐに思い直す。
「いやダメだろこれを普通みたいに思ったら...」
少し思い悩みながらリビングへ向かうと既にシアナが起きていた。
しかし着ているものは着物ではなく普段の甚平であった。
「あれ?着物じゃ無いのか?」
「ん、汚したくないから...」
シアナは昨日ケーキパーティーが終わり自分の部屋に戻った後、買ってもらった着物に強力な状態保存の術式をかけ保存していた。
それでも伊織に買ってもらったものは身につけたかったのか髪飾りだけは着けている。
その様子を嬉しく思った伊織は上機嫌で朝の支度を始める。
「そっか、直ぐ朝ご飯にするからちょっと待ってて」
「ん」
シアナは自分の髪飾りを触りながら朝ご飯の支度をする伊織を眺め続けた。
これにて初めての依頼編は終了になります!
次からは新たな物語が始まっていきますのでよろしくお願いします。




