着付け
家に到着した伊織たちはそのままリビングに進む。
すると直ぐにシアナが姿を現した。
「ん、ありがと主」
「いいよ、今回は頑張ってくれたしな」
「ん」
着物を買ってくれた伊織に帰り道でも何回かお礼を言っていたシアナであるが、姿を見せた状態で改めてお礼を告げる。
伊織としてもシアナが本当に喜んでいるのが分かるので、そこまで喜んでもらえると嬉しい気持ちになりながらシアナの頭を撫でる。
「伊織君はいつもシアナちゃんの頭を撫でてるの?」
「撫でるのはシアナが妖魔を倒してくれた時とかだけかな」
「ふ~ん?(私も撫でて欲しいけど...今はまだそんなこと言えないな~)」
白雪はその光景を見ながら少し不機嫌になるがシアナは見た目が幼いのでそこまで目くじらは立てない。
もしこれがクシナだった場合は闇白雪が出現して伊織を問い詰めていただろう。
「さぁシアナちゃん、時間も限られてるし早速着付けしよっか?」
「ん、分かった」
「すまんが頼んだ」
「はいはーい!この白雪先生に任せなさい!」
胸を張り叩きながらそう告げる。そしてシアナと共に二階へ上がっていった。
「シアナちゃんは家の中だと常に姿を見せてるの?」
「ん、変化は窮屈」
クシナもそうだが、シアナも変化を窮屈と感じている。
そもそも変化と言う術自体、自分の姿を違うものに変えてしまうため少し違和感が発生する。さらに変化中は常に霊力を消費するのだがその霊力は伊織から支払われている。
しかし伊織はその有り余る霊力のため、全く気が付いていない。
「そうなんだ、お部屋は二階にあるんだね」
「主の部屋も二階にある」
「い、伊織君のお部屋...ゴクッ」
伊織の部屋という魅惑の言葉に白雪は生唾を飲み込む。
少しくらい覗いても良いかなという考えが頭を過るが、それを実行する前にシアナから釘を刺される。
「入っちゃダメだよ?」
「さ、流石に無断では入らないよっ」
「ん~?」
目をあちこちに動かしながらそんなことを言うので全く説得力が無かった。
もし白雪が変な動きをしたら直ぐに止めようとシアナは内心思う。
「ん、ここ」
「おじゃましまーす」
部屋の中に入るとドレッサーや姿見、ベッドが目に入ってきた。
「ふーん、ここがシアナちゃんの部屋か~」
「ん、正確には主の母親の部屋」
「あ〜なるほどね。伊織君ママの部屋をシアナちゃんが使ってるんだ」
「ん」
クシナやシアナは伊織にあまり物をねだらないため、私物は少なかった。
せいぜい寝間着ぐらいな物だ。
さてここで思い出してほしい。この部屋はクシナとシアナで使っていることを。
つまりはその数少ない私物である寝間着がクシナの物も置かれている。
「シアナちゃん結構可愛い寝間着を着てるんだね」
「ん、主が買ってくれた」
「いいな~、あれ?これは?」
そして白雪がその存在に気が付く。なぜ部屋の中に二着も寝間着が出ているのか気になった。
「ん、それは...主の母親の物」
「伊織君ママの?なんで出てるの?」
咄嗟にシアナはそう言ったが、伊織の母親が海外で仕事をしていることを知っていた白雪は何故それが今出ているのか疑問に思った。
「私が今の服を見たかったから」
「なるほどね?よかった~、他のメスが伊織君に近づいてるのかと思ったよそんなことになったら私は伊織君とお話しなきゃ行けないしそのメスに対してもお仕置きしなきゃいけないからね?なんで伊織君に近づいたのかなんで私に教えてくれなかったのか話さなきゃ行けないから大変なんだよ別に伊織君に女の友達が居ちゃいけないってわけじゃないよ?ただそれを一番仲のいい私に話さないのはなんでかな~って思うだけだしでも伊織君ママの物なら安心だね?」
一息でそう告げる。顔は笑顔であるはずなのだが瞳の奥にドロドロとした感情が透けて見える。
「ん...(主、この女ヤバい...)」
シアナはこの手の人間に会うのが初めてであった。
伊織に対する深すぎる愛を目の当たりにし、化け物と戦った時ですら臆さなかったシアナが怯える。
「さぁシアナちゃん、着付けしよっか?」
「ん、おねがいします」
シアナはあまりの衝撃に初めて敬語を使った。
「じゃあまずはその甚平を脱ごっか」
「ん」
シアナがするすると甚平を脱いでいきすっぽんぽんになる。
そして白雪は瞠目した。
「し、シアナちゃん。下着は?」
「ん、窮屈だから着けてない」
「そ、そうなんだね」
下着を付けないで甚平だけを来ている女が伊織の近くにいることに思うところがあったが、まぁシアナくらいの子であれば問題ないかと思い直した。
「じゃあまずは長襦袢から着ていこうか」
「ん」
白雪が長襦袢を広げ、シアナが袖を通していく。
その後紐で前を固定する。
「ん、良い手触り」
「まぁこれも中々いいお値段する物だからね~」
シアナは着物を選んでいるときブレスレットの状態で眺めてはいたが触るのは初めてだ。
自分の来ている長襦袢を触りながら上機嫌になる。
「さぁ次はお待ちかねの振袖だよ」
「ん!」
再び白雪が振袖を広げシアナが着ていく。
シアナがちゃんと振袖を着たことを確認すると白雪は帯を取り出した。
「じゃあ帯の結び方を教えるね?」
白雪はシアナの前に回り、分かりやすいように帯の結び方を説明していく。
「まずはこっち側を肩に掛けて帯を回していって...」
「ん」
白雪は手際よくシアナの帯を締めていく。
今回白雪が選んだ結び方は蝶文庫結びと言われる結び方だ。
他にも色々と種類があるのだが、シアナにはこれが一番似合うと白雪が思ったのでこの結び方を選んだ。
「それでここをこうして...はい完成!」
「ん、凄い...」
ただの長い布だった物がこんなにも可愛らしい形になったことに感動を覚える。
「後は帯を後ろに回せばバッチしだよ!」
「ん、ありがと」
白雪の予想通り、かなりシアナにマッチした結び方になっておりその可愛さをより引き出している。
「覚えられた?」
「ん~?ん」
「まぁ分からなくなったらまた聞いてね?」
「ん」
正直一人で出来るかと言われると微妙な所だが、シアナには常に着物を着ているクシナという友がついている。
分からなくなったらクシナに聞こうと心の中で思った。
「じゃあ小物を着けて行こう!」
「ん、おねがい」
そして買ってあった髪飾りなどを着けて着飾っていく。
全て着け終わるころには白雪ですら感嘆の声を上げるほどの出来栄えになっていた。
「おぉ...めっちゃ可愛いよシアナちゃん!」
そう言いながらシアナを姿見の前に立たせる。
そこに映っていたのは振袖を可憐に着こなした妖精であった。
シアナの猫耳がその可憐さに拍車を掛けている。
「ん、凄い...」
「気に入った?」
「ん、主喜ぶ?」
鏡に映った自分の姿を見て綺麗だと感じたが、それと同時に伊織に見せたら喜んでくれるだろうかという思いが湧き上がる。
「うん?うん、喜んでくれると思うよ?」
「ん」
なぜ自分でも伊織に喜んで欲しいという感情が出てきたか分からないシアナであったが、白雪の答えに満足する。
「じゃあ伊織君に見せに行こうか」
「ん!」
二人は伊織の待つリビングに降りて行った。




