着物選び2
着物コーナーにたどり着いた伊織たちはシアナの要望通り青色の着物を見ていく。
一口に青色の着物と言っても様々な種類が存在する。
着物に染色されている青色の濃さから刺繍やプリントなどによる柄の違いなど、本当に多種多様な物が存在している。
ただ青色の着物はやはり冷たさや雨を連想させるのか、紫陽花や雪の結晶といった柄の物が多かった。
『なにか気に入る着物はあったか?』
『ん~...』
シアナもそれを眺め続けているのだが、あまりピンと来ていない。
しばらく着物の前でうんうん悩んでいると、店員が話しかけてきた。
「お気に召す着物はありませんでしたか?」
「その、どれも素晴らしい物だとは思うんですけど...」
正直伊織には着物の良さなど全く分からないが、分からないなりにもここに置いてあるものが悪くないものであることは分かる。
「先程桜色の長襦袢を選んでおりましたが、何か思い入れが?」
「はい、着物をプレゼントする子に少し桜の思い出があるんです」
「なるほど、そうなのですね...」
その話を聞いた店員は少し考える素振りを見せる。
「少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「はい?分かりました」
そう言い、店員は伊織たちを残してどこかへと歩いて行った。
「どうしたんだろう?」
「もしかしたら店に出していない着物を持ってきてくれるのかも知れないね」
実は白雪が六花と共にこの店を訪れる時、必ずといっていい程店頭には並んでいない秘蔵の逸品を持ってきてもらっていた。
店員としても、白雪が連れてきた相手なので下手なものは出せないと奥から着物を持ってくることにしたのである。
そしてしばらく待っていると、一つの着物を手に店員が戻ってきた。
「お待たせいたしました、こちらの着物はいかがでしょうか?」
そうして店員がその着物を広げると、そこには淡い青色をした生地に桜の刺繍がしてある振袖であった。
「おぉ、いいですねこれ」
伊織はその綺麗な模様に感嘆の声を上げる。
『ん!これいい!』
脳内に元気なシアナの声が響く。どうやらシアナもこの振袖が気に入ったらしい。
そんな好印象な伊織の姿を少し不安そうに白雪は眺めていた。
「その、伊織君、多分この振袖凄く高いよ?大丈夫?」
この振袖は白雪の目をもってしても中々の逸品である事が分かり、値段の事が気がかりであった。
「ちなみに、どれくらいのお値段ですか?」
「そうですね、大体このくらいになります」
そうして店員が提示してきた値段はギリギリ七桁に到達しないくらいの値段であった。
「な、なるほど...」
思ったよりも大きい金額だったのでビックリする。
その伊織の態度に気が付いたのか、シアナが呟く。
『ん、主。別のでもいいよ?』
『シアナ...いや、これにしようか』
先程のシアナの態度を見るに、かなりこの振袖を気に入っていた。
今回はシアナが頑張ったご褒美で着物を買いに来ているので出来るだけ希望には答えてあげたい。
『主、無理してない?』
『大丈夫だよ、毎回は無理かもしれないけどシアナやクシナのおかげで余裕あるし一着だけなら問題ないよ』
伊織が退魔士となり二人が妖魔を倒してくれるおかげで、伊織の懐事情は今までに比べるとかなり温かいものになっていた。
伊織はこの振袖の購入を決める。
「すみません、この振袖でお願いします」
「分かりました。ありがとうございます」
メインの着物を決めた後は帯を決める。
「長襦袢も着物も桜系統なので、帯も桜が良いかと思うのですがどうでしょうか?」
「そうですね、一度見せてもらってもいいですか?」
「少々お待ちください」
そう言い、店員は一つの帯を持ってきた。
それは白い生地に桜の木が刺繍してあるものだ。流石着物店の店員と言うべきか、着物と合わせたときに非常に似合う帯を持ってきてくれた。
「おぉ、いいですねこれ」
『ん、これいい』
「お気に召したようでなによりです」
さっと帯も決まったので次は帯揚げや帯締め、髪飾りなど細かいものを選んでいく。
白雪と一緒に小物を眺めていき、シアナにはどれが似合うかを話し合う。
『シアナ、この雪の髪飾りとかどうだ?』
『ん、可愛いと思う』
「ねぇ伊織君、この猫の飾りも可愛くない?」
「それもいいな~」
あれやこれや話しながら、シアナの好みを聞きながら小物を選んでいき全て選び終わる。
そしてお会計の時間になりレジに足を運び金額を見てみると、以前の伊織からは考えられないような金額が表示されていた。
流石に全ての合計金額はかなり高いものになったが、今回受けた依頼の報酬などもあるので伊織はためらいなく支払いを行う。
「本日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ素敵な着物を紹介してもらってありがとうございました」
買った商品を受け取り、伊織たちは店を後にした。
「良かったね伊織君、良い着物があって」
「あぁ、シアナも満足そうにしてるしいい買い物だったよ。しかし着物って高いんだな~」
「あのお店、外に出てる着物はそこまで高くないんだけど、奥から引っ張ってくる秘蔵の逸品は中々いいお値段がするんだよね~」
そんなことを話しながら伊織たちは電車に乗り、ケーキ屋へ向かう。
「いらっしゃいませ~、あら?また来ていただけたのですか?」
「あはは、少しお祝い事があるのでまた来てしまいました」
「そうなんですね!ゆっくり選んでいってください!」
店に入った二人はケーキを選んでいく。
白雪は今回のケーキパーティーに参加しないのだが、以前買って食べたときかなり美味しかったので、家で食べるように買っていくことにする。
「お母さんにも買っていこうかな~」
「白雪のお母さんか、実は会ったこと無いんだよな」
白雪と伊織はかなり長い付き合いであるが、実はお互いに両親に会ったことが無かった。
伊織の両親は仕事で忙しく中々学校の行事に参加できず、白雪の母である六花は冬木家当主のため退魔士としての仕事が多かった。
「まぁその、近いうち会うことがあるかも...よ?」
「そうなのか?じゃあその時に挨拶しないとな」
「うん...」
白雪の言うその時とは伊織に想いを打ち明けた後になる。
そのことを少し想像しながら話していたので少し恥ずかしい気持ちになった。
そんなことを話しながらケーキを選んでいく。
『今回はどのケーキがいいんだ?』
『ん、フルーツがいっぱい乗ってるやつ』
『最初に食べたやつか?』
『ん、そう』
『りょーかい』
伊織はフルーツタルトをホールで買い、白雪はショートケーキを購入した。
店を出た後白雪が話しかける。
「そういえば伊織君、着物の着付けとか分かる?」
「いや、全くわからん」
「まぁそうだよね、じゃあこれから伊織君のお家に行ってもいい?私がシアナちゃんに教えて上げるから」
白雪はシアナに着付けを教えるも目的半分、伊織の家に行きたい気持ち半分にそう提案する。伊織としてはその提案は非常にありがたいものだったので了承した。
「マジで?助かる」
「じゃあ伊織君の家にしゅっぱーつ!」
またしても伊織の家に行くことが出来る事に喜びを覚えながら白雪は足を進める。




