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着物選び1

分割の都合上少し短いです

大学へ向かいながら伊織は依頼で体験したことを白雪に話していた。


「...っていう感じだったんだよ」

「へ~、楓さんでも倒せなかったその化け物をシアナちゃんが倒したんだ」

「凄かったぞ、俺には全く見えなかったけど」


白雪はその話を聞いてシアナの強さを上方修正する。

以前青鬼と戦ったときに見たシアナの動きも尋常なものでは無く、青鬼を一撃で倒していた。

また楓の実力についても知っているため、確かにあの時見たシアナであれば楓が倒せない化け物を倒せても不思議では無いと感じる。


「伊織君の契約してるシアナちゃんは凄い妖魔なんだね」

「そうなのか?あんまり他の妖魔を知らないから分からないんだよな」

「まぁそもそも妖魔と契約している人自体が少ないからね~、伊織君が知らなくても無理はないよ」


実際妖魔と契約している退魔士は凄く少ない。また契約をしていてもクシナやシアナほどの力は無く、退魔士の補助をする目的が強かったりする。


「でも伊織君がシアナちゃんと契約して退魔士になってくれて良かったよ」

「なんでだ?」

「ん~、まだ秘密っ」


そう言いながら優しい笑顔を伊織に向ける。

いつもの元気いっぱいな笑顔ではなく、伊織を想う優しい表情だったため少し見惚れてしまった。


「そ、そうだ!白雪って着物に詳しかったりするか?」


ハッと我に返った伊織はそう問いかける。というのも白雪の家が純和風の家であることを知っていたからだ。

あの家に住んでいるなら着物についても知っているかもしれないと思い、白雪に聞いてみた。実際その予想は当たっている。


「ん?着物?うん、割と詳しい方だと思うよ」


白雪は人より着物に詳しい自信があった。

家では母である六花が四六時中着物を着ており、白雪自身も何度も着物を着たことがある。


「お、マジか。そしたら少し相談したいことがあるんだけど」

「なになに?」

「実はシアナが今回の依頼で頑張ったから、前から欲しいって言っていた着物を買ってあげることにしたんだ。でも俺着物とか詳しくないから教えてくれないか?」

「ふ~ん、着物をプレゼントね~...(何それ羨ましい私も伊織君に着物とかプレゼントしてもらいたいてか私は服とかプレゼントされたことないのになんでシアナちゃんが先なんだろう羨ましい羨ましい羨ましい)」


その話を聞いた白雪の中で嫉妬の気持ちが沸き起こる。そしてその気持ちが若干であるが顔に表れてしまう。

白雪の表情を見た伊織は何故か乗り気では無いことが分かったが、相談できる相手も白雪しかいないためなんとか頼み込む。


「その、こういう事相談できるのは白雪しかいないんだ...ダメか?」

「私しかいない...うん!この白雪先生に任せないさい!」


単純だがその言葉を聞いた白雪のテンションがV字回復した。


「良かった、じゃあ講義が終わった後お願いしてもいいか?」

「うん!私の知ってるお店を案内してあげる!」


こうして大学が終わった後、白雪お勧めの店に行くことになった。



何事も無く講義が終わり着物店へ足を進める。

電車に乗り伊織の住んでいる八王子に向かい、歩いていると一つの着物店に到着する。


「ここが私おススメのお店だよ」

「ここがそうなのか」


お店の正面がガラス張りとなっており、外からでも沢山の着物が並んでいるのが分かる。

白雪と共に店内へ入ると、それに気が付いた店員が話しかけてくる。


「おや、お久しぶりですね白雪様。ようこそいらっしゃいました」


この店は六花行きつけの店であり、白雪も何度か訪れたことがある。


「お久しぶりです、今日はこの人が着物が欲しいらしくてこの店を案内したんです」

「そうだったのですね、お名前をお伺いしても?」

「久遠伊織です」

「伊織様ですね、本日はよろしくお願いします」


そう言いながら綺麗なお辞儀をする。

そしてさっそく伊織たちは着物を選び始めた。


「本日は伊織様の着物をお選びですか?」

「あ、いえ。親戚の子供に買ってあげる約束をしたので」


シアナの事は伝えられないので、親戚の子供という体にする。


「なるほど、ちなみに背丈はどのくらいでしょうか?」

「え~と、大体このくらいですかね?」


伊織は自分の鳩尾くらいに手を当てながら身長を示す。


「なるほど、それくらいの背丈でしたら子供用の着物がよろしいですね。こちらへどうぞ」


そして店員に案内された場所へ進むと、確かにシアナが着るとちょうどいいくらいの着物が沢山並んでいた。


『ん、沢山ある』

『なにか気になるのがあったら言ってくれ』


シアナはその沢山並んでいる着物を内心ウキウキしながら眺めている。


「白雪、まず何から選べば良いんだ?」

「まずは長襦袢っていう着物の中に着るものを選ぼうか」

「長襦袢でしたらこちらです」


再び店員に案内され長襦袢コーナーへ向かうと、そこには沢山の物が並んでいた。

一言に長襦袢と言ってもかなりの種類があり、オーソドックスな白色から薄く染色の施されているものまで様々だ。


「う~ん、どれを選んでいいか迷うな」

「ちなみにシアナちゃんは何色が好きなの?」

『シアナ、何色が好きだ?』

『ん~、青』


どうやらシアナは青色が好きらしい。


「青色だって」

「青色か~、じゃあこの辺なんてどうかな?」


白雪が指さしたところには確かに青色の長襦袢が並んでいる。

濃い青色から薄い青色の物まで沢山ある。


『シアナどうだ?』

『ん、悩む...』


伊織には正直違いなんて分からないので、白雪やシアナの言うままに選ぼうとしていたのだが、シアナもどうやら悩んでいるようだ。

うんうん悩んでいる言葉を聞いていると、一つの長襦袢が伊織の目に入った。


「すみません、あの長襦袢ちょっと見てもいいですか?」

「えぇ、構いませんよ」


それはお店の少し高いところに飾られていた物のため、店員に頼んで取ってもらう。

遠目でもしかしたらと思っていたのだが近くで見るとよりハッキリする。


「伊織君?それ薄ピンクだよ?」

「あぁ、そうなんだけどさ」


伊織はこの長襦袢を見たときシアナと初めて出会った社のそばにある、大きな桜の木を思い出した。

あの日も四月中旬で、まだ桜が咲いていたのでシアナとの出会いは桜の印象が強い。


『なぁシアナ、この色さ、あの社にあった桜みたいじゃないか?』

『ん、いわれてみれば』

『シアナが嫌じゃ無ければこれなんてどうだ?』

『ん!これが良い!』


シアナとしても、あの桜の木と長い時を一緒に過ごしてきた。

そのため思い入れが深く、長襦袢の色合いも十分その桜を思い出せるものだ。


店員に聞こえないような声で白雪にそのことを伝える。


「シアナとの出会いがさ、桜の木の下だったんだ」

「え?そうなの?」

「うん、その時見た光景をこの長襦袢を見たときに思い出したんだよ」

「そうなんだ、何かいいねそういうの」

「あぁ、長襦袢はこれにするよ。すみません、これでお願いします」

「かしこまりました」


そう言い店員が受け取る。

そして長襦袢が決まったので、次は本命の着物を選ぶことにする。


『着物はシアナの好きな青色にしような』

『ん!楽しみ!』

「次は着物ですね、こちらになります」


店員に案内され着物があるコーナーへ足を進める。




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