決着
風を纏いながら宙を蹴り化け物に近づく。
近くで化け物を見ると一見髪の毛だけで構成されているように見えるが、成長する段階で色々なものを取り込んだのか、部屋に置いてあった人形や家具などがその髪に絡みついている。
「ん!」
先程の攻防でシアナを脅威に感じたのか、化け物は攻撃するターゲットをシアナに切り替えた。
四方を囲むように髪が襲いかかる。それを見たシアナはつまらなそうに足を振るう。
「アハァ!?」
ただそれだけの行動でシアナを襲おうとしていた髪が消し飛ぶ。
その隙を見逃さず、化け物へ連撃を仕掛ける。
シアナが足を振りぬくと、化け物の体が削り取られ、拳を振りぬくと、風穴があく。
楓はそんな次元の違う戦いを前に、ただ眺めることしか出来なかった。
「(私が目で動きを追えないなんて...)」
楓は目に自信があった。剣を使い近距離戦を得意とする楓はその類稀な動体視力を持って相手を観察し、相手すら気が付かないような隙に剣を差し込める。
だが、今の楓の目にシアナの動きは全く写らない。
「伊織さん、あの妖魔は何者なんですか?」
「シアナですか?う~ん、正直よくわからないんですよね」
シアナのこともそうだが、実はクシナのことも伊織はよくわかっていない。
話の中で昔の事に少し触れていた事はあったが、詳しく彼女たちの過去について聞いたことは無かった。
「ちなみに何処で彼女と出会ったんですか?」
「シアナとですか?山の中にある社で出会いましたね」
「そうですか、社で...」
社で出会ったということは、過去に信仰されていた存在と言う事だ。
過去に信仰されていた妖魔の存在については組合の中でもいくつか確認している。
ただそういった妖魔は、信仰を糧にしているため既に滅びているか、組合の中で厳しい管理下に置かれている。
そしてそういった存在は力が強いので、直ぐに組合に把握されるのが普通であった。
「(まさかここまで強い存在が未だに隠れていたなんて思いもしませんでした...)」
そんな妖魔と伊織が二体も契約しているなんて夢にも思わないであろう。
シアナの戦いは激化していた。
「ん、面倒...」
削っては回復し削っては回復しの一進一退を繰り返す。
シアナも今以上の力を発揮する事は出来るのだが、それをすると攻撃の余波で伊織が怪我をしてしまうかもしれない。
そういった事情がありある程度力をセーブしながら戦うしかなかった。そのため未だ化け物との決着は付かない。
しかし、化け物の回復も無限ではない。
少しづつであるが回復速度は落ちてきている。そのことに化け物は内心焦りを感じていた。
このままでは願いを叶えることが出来ない、どうすればいいか?そんなことを考える。
「ん!」
目の前に居る小さな存在が手足を振るうだけで体が大きく削れる。
このままでは消滅してしまうと考えた化け物は賭けに出る。
「アハァ!」
化け物が攻撃を食らいながらも体をねじり始めた。
「ん?」
その行動に疑問を持ったシアナであるが攻撃を続ける。しかし化け物は体をねじり続ける。
少し嫌な予感がしたシアナはさらに過激に攻撃を続ける。
「ん!」
凄まじい音と共に体が削れていくが化け物の動きは止まらない。
体を捻るということは、それを戻そうとする力が働く。そして次の瞬間。
「アッハァ!」
捻れた体が元に戻る、そしてその力を利用して化け物は体に取り込んでいた人形や家具を射出した。
無差別に飛来する物体は、当然伊織の方へ飛んでいく。それに紛れるように髪も伊織に対して伸ばす、しかし。
「ん、無駄」
そんなもの、やる気になったシアナの前では通用しなかった。
伊織に向かっている攻撃も含めて全てシアナが撃ち落とす。
「アハァ!?」
そして化け物はその行動の反動で大きな隙をさらしてしまう。その隙を見逃すシアナでは無かった。
「ん!」
少し大きめに為を作り、伊織に被害の出ないギリギリの力で足を振りぬく。
すると次の瞬間、爆音と共に化け物の体の大半が消し飛んだ。
そして中から化け物の元となった人形が姿を見せる。
「直ぐにその人形を回収してください!!」
楓の言葉を聞いたシアナは臭くて汚いその物体をあまり触りたくは無かったが、ご褒美のために頑張って人形を掴み伊織の元へ姿を見せる。
「ナイスだシアナ!」
伊織は封印袋を広げ呪物をその中にしまう。すると先程までの喧騒が嘘だったような静けさに戻った。ホッとする伊織と楓。
「ん、臭くなくなった」
「ありがとうシアナ、助かったよ」
どうやら封印したことでシアナを苦しめていた匂いも無くなったらしい。
「すみませんでした伊織さん、まさかこんなことになるなんて」
「いえ、楓さんのせいじゃないですよ」
依頼が始まる前はあれほど伊織を守ると言っていた楓であったが、実際はあまり役に立たなかったことに落ち込んでいた。
楓だけだとあの状況は厳しいものがあり、伊織を守り切れたか少し不安が残る。
「それに伊織さんのことを守れませんでした...」
「そんなこと無いですよ!凄く助かりました。僕ももう少し動ければ良かったんですけど」
「いえ!伊織さんの動きは決して悪くなかったですよ!」
実際伊織の動きは退魔士となった日にちを考えればかなり上出来な物であった。
拘束の札術を使って隙を作り、身体強化の札術を使って援護をする。
それをあの強大な化け物に向かって臆することなく実行できたのは褒められるべきことだ。
「ん、主。約束忘れないでね?」
「あぁ、もちろんだよ」
シアナは既に着物やケーキパーティーの事で頭がいっぱいだった。
「ん、す~」
そして伊織に抱きついて深呼吸をする。
既にシアナを苦しめた匂いは無いのだが、今日一日伊織の匂いを嗅いでいたことで少し癖になってしまった。
一通り伊織の匂いを楽しんだ後、シアナはブレスレットに戻った。
「では、早急に組合に行きましょうか」
「分かりました」
それを確認した楓がそう切り出し、二人は組合に向かう。
その頃組合の中では少し騒ぎになっていた。
妖魔を探知することが得意な退魔士が、とてつもない霊力を感じ取っていたからだ。
「支部長失礼します!八王子付近でとんでもない霊力が確認されました!」
「うん?どういうことかしら?」
「はい、どうやら二等星か一等星の退魔士が出動するレベルの妖魔が現れたようです」
「なんですって?」
美月にとって寝耳に水だった。
上位の妖魔が現れる時は、何かしら前兆があるものだ。それが今回は何の前兆も無く突然と現れた。
「詳しい場所は何処かしら?」
「はい、出現場所ですが...」
報告に来た退魔士から出現した場所を聞くと、そこは伊織が依頼で訪れている場所であった。
「何ですって?そこは今伊織君が依頼で向かっている場所だわ」
「え?伊織きゅんが!?」
この報告に来た女性は伊織の大ファンであった。
以前から組合で見かける伊織の態度に感動を覚え、もはや崇拝と言っていい程伊織の事を想っている。
「す、直ぐに救援部隊を送りましょう!伊織きゅんを救いに!」
「一応念のために楓ちゃんを付けてるから少し猶予があるわ。今直ぐに動ける上級の退魔士は居るかしら?」
「妖魔が確認されてから直ぐに連絡を取ったのですが、紅葉様がギリギリ動けるかも知れないと言った所です」
「そう、紅葉ちゃんが...でも時間がかかるのよね?」
「その、はい...」
美月は考える。如何に楓を付けているからといって完璧に安全が保証されたわけではない。
さらに今回出現した妖魔は二等星か一等星相当の物だと報告を受けており、仮に一等星レベルの妖魔だった場合は楓でも伊織を守り切れないかもしれない。
そして運が悪いことに上級の退魔士は一人だけギリギリ動けるかも知れないといった所だ。
「(こんな時に白雪ちゃんが居てくれれば直ぐに現場へ向かってくれたのだけれど、居なものは仕方ないわね...)」
仮に白雪がこの場に居た場合、連絡を聞いた段階で組合を飛び出していただろう。
「(後は伊織君が契約している妖魔ちゃんに期待するしかないわね...)」
伊織と初めて会ったときに契約している妖魔を目にしたが、かなり強い力を秘めていると感じていた。
美月自身も動ければ良いのだが、ある事情のためあまり組合から動くことが出来ない。
そしてしばらくどういった対応をするべきかとバタバタ動いていた組合であったが、一つの報告でそれは落ち着きを取り戻す。
「支部長!観測された妖魔の反応が消えたようです!」
「そう、良かったわ...」
楓が倒したのか、伊織と契約している妖魔が倒したのかは分からないが一安心する。
妖魔の反応が消えたということは、無事に依頼を完了したのだと予測できるので美月は二人の到着を待つことにした。
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