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イレギュラー

分割の都合上少し短いです。

「はぁっ!」


楓は化け物に飛び上がりながら斬りかかる。

自分の持つ剣と宙に浮かんでいる剣を使って圧倒的な手数で攻撃を重ねていく。


通常こういった物を宙に浮かべる霊術は予め行動を決めておき、オートで動かすことが多い。

しかし楓には類稀なマルチタスクの才能があった。

宙に浮かぶ七本の剣を全て手動で動かすことができ、近接戦において圧倒的な強さを誇る。


化け物に攻撃を続けていくが、楓が斬りつけるそばから新たな髪の毛が出現し回復してしまう。

化け物もただ攻撃されているわけでは無く、髪の毛を伸ばし反撃を開始する...。


「え?」


伊織に向かって。


「っ!伊織さん!やぁっ!」


伊織に向かって伸びた髪を直ぐに切断するが、次々と伊織の方へ髪が伸びていく。

このままでは伊織に攻撃が当たってしまうと思った楓は伊織と化け物の間に立ち凄まじい速度で髪を弾いていく。


八振りの剣を使って弾いていくが、相手は髪の化け物である。

時間を追うごとに伊織へ伸びる髪の数がドンドンと増えていく。


「はあぁぁぁぁっ!」


既に伊織の目には見えない速度で剣を振るっている楓であるが、今回は相性が悪かった。

鬼や天狗と言った妖魔であれば既に勝敗は決していただろう、しかし今回は再生能力の高い大きな化け物である。

次々と襲いかかる髪に徐々に押されていき、ついに伊織の方へ攻撃を通してしまう。


「くっ!伊織さんっ!」


直ぐに踵を返して伊織の元に走り寄ろうと振り向くと、既に伊織の姿は無かった。

伊織を捕まえようとしていた髪も不思議そうにその場を漂っている。


「び、ビックリした。ありがとうシアナ」

「ん」


声がしたのでそちらの方を向くと伊織の姿があった、どうやらシアナが避難させていたらしい。


「よ、良かったです...はっ!」


伊織の姿を確認した楓は一安心し、再び攻撃を開始する。

しかし状況は先程と全く一緒で伊織を捕まえようと化け物が髪を伸ばし楓がそれを防ぐ事を繰り返していた。


ちなみにシアナは未だに伊織に張り付いている。


「ん、臭い...臭い...」

「シアナ...」


本当であればシアナも戦いに参加させたいのだが、悲しそうにそう呟きながらペタンと元気のない耳を見ると伊織も強くは言えなかった。

それでも楓が戦っているので自分の出来ることをしようと思い、伊織はお札を取り出した。

そしてお札に霊力を込める。


「行け!」


その言葉と共にお札が燃え、炎の中から鎖が飛び出す。

鎖は化け物の方へと飛んでいきグルグルと巻きつける。


「ナイスです伊織さん!はぁ!」


その隙を見逃さず、楓は七本の剣を化け物へ飛ばし斬り刻んで行く。


「アァァァァァァ!!」


化け物が悲鳴を上げると、鎖が弾け飛んだ。

伊織の使った拘束の札術は初歩的なものの為、そこまで長い時間相手を拘束できない。

しかし大きなダメージを与えることに成功した。


「伊織さん!もう一度お願いします!」

「分かりました!行け!」


そして伊織が再びお札に霊力を通し、札術を行使する。鎖が化け物の方に飛んでいくが、この時初めて化け物が髪を伊織以外に向けた。


「アハァ」


伊織の出した鎖はあっけなく化け物の髪に阻まれてしまった。

それを見た伊織はすぐさま次のお札を取り出す。


「楓さん!身体強化をかけます!行け!!」


このお札は伊織が三日前に作った物だ。お札に霊力を流すと燃え上がり、白い光が楓の方へと飛んでいく。


「ありがとうございます!やぁっ!!」


初歩的な身体強化の術式だが、今の楓にはありがたい物だった。

先程まではギリギリ防げていた髪を、今は少しばかり余裕を持って捌けている。

だが未だ決め手に欠けるのが現状だった。

その膠着状態の最中、クシナが語りかける。


『聞いて頂戴シアナ、主様は今凄く危険な状態なの』

「ん...」


クシナは髪の化け物が現れ、シアナが動けない状況を見て姿を見せようか考えていた。

しかし退魔士の中でも重要人物である楓の前に姿を見せるのは憚られた。


『だから貴女が頑張る必要があるの』

「ん、でも...」


この危険な状況の中で頼れるのはシアナだけだ。

しかしシアナはあまりに酷い匂いがするため伊織から離れることが出来ないでいた。

そこでクシナはある事を思い出す。


『ねぇシアナ、貴女前に着物が欲しいと言っていたわよね?』

「ん、言った」

『今頑張ったら主様が買ってくれるかもしれないわよ?そうよね主様?』


楓の援護をいつでも出来るように構えていた伊織が答える。


「あぁ!何でも買ってやるぞ!」

「ん、着物...」


少しだけシアナの耳が上を向く。


『後は何か欲しいものはあるかしら?今頑張ったら何だって主様が買ってくれるかも知れないわよ?』

「ん、ケーキ、ホールで...」

「そんなのいくらでも買ってやる」


その言葉を聞いたシアナの耳がピンと張り、伊織の方へ顔を向ける。


『さらに今頑張ったシアナの為に何か主様がお願いを聞いてくれるかも知れないわよ?』

「ん、ケーキパーティーしたい...」

「いいぞ!これが終わったらケーキパーティーだ!」


シアナの目がキラキラと輝く。


『頑張れるわよね?』

「ん、分かった」


シアナはもう一度伊織へ顔を埋めて深く息を吸う。


「す~、ん!」


そしてシアナの姿が消えると同時に轟音が鳴り響いた。

慌ててそちらの方へ目を向けると、化け物の体が半分消し飛んでいた。

化け物の直ぐ近くに足を振りぬいたシアナの姿が確認できる。


「アァァアアアアアア!!」

「はえ?」


今まで攻撃しても大したダメージにはならず、直ぐに回復されていた化け物の体がいきなり半分消えたことに楓は呆然とする。

しかし化け物も直ぐに再生を始め、元の姿に戻ってしまう。


「ん!風と共に!」


それを確認したシアナは風を纏いながら宙を蹴り、再び攻撃を開始する。

シアナが攻撃をするたびに轟音が鳴り響き化け物の体は大きく削れる。伊織を捕らえるために使っていた髪も全て回復のリソースに回される。


「そんな...こんなに強いなんて...」


楓はそんなあり得ない光景を眺めながら考え事をしていた。

強いとは思っていたシアナだが、まさかここまで圧倒的な強さがあるとは思わなかった。

このイレギュラーで現れた化け物はランク的に二等星複数人か一等星の退魔士が退治に出なければいけない程だ。

それがまさかここまで一方的な展開になるなど楓は想像もしていなかった。


「こんな...こんな強い妖魔と契約している伊織さんは一体...」


何故ここまで強い妖魔と契約して伊織は平気で居られるのか疑念が深まる。

その時ふと鳴り響いていた音が止む。

どうしたのかと思っていると、シアナが伊織の近くに姿を表した。


「ん、補充」


そして伊織に抱きつき深呼吸をする。


「シアナ、大丈夫か?」

「ん、だいじょぶ」


伊織の腰に顔を当てたまま喋るので少しくすぐったい。

少しの間深呼吸をしてから離れる。


「ん、行ってくる」

「気を付けてな?」


そして再びシアナの姿が消えた。


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