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伊織の特殊能力

シアナへマッサージをするために、伊織はソファーの後ろへ回りこんだ。

そして手をシアナの小さな肩の上に置きマッサージを始める。


「そういえば、クシナは霊力が上がった以外に何か変化はあったか?」

「そうね~、昨日も言ったけど毛並みが凄く良くなったわ」

「ん、それは、凄く、羨ましいと、思ってたっ」


伊織の力加減は絶妙で、たちまちシアナの疲れを癒していく。

そしてシアナは注意深く感覚を研ぎ澄ませていると、伊織の手からドンドンと温かいものが流れ込んできていることに気が付いた。


「主の手から、温かいのが、流れ込んできてるっ」

「そ、そうか。大丈夫か?」

「ん、だいじょぶ」


あまりに色っぽい声で答えられたので少し動揺するが、なんとか冷静な態度を装うことに成功する。

クシナは真剣な表情でマッサージを眺めていた。


「なるほど、主様の手から霊力が流れ込んでシアナの霊力が混ざりあってるわね」

「そうなのか?俺は特に意識してないけど」

「多分無意識にやっているのでしょうね」


そんなこともあるのかと思うが、ここ最近驚くことばかり起きているので今更不思議が一つ増えたところで構わないと考える。


それから三十分程度マッサージを行い、終わるころにはシアナはスッキリとした顔をしていた。


「ん、これは凄い。体がちょー軽い」


ぴょんとソファーから飛び降り、自分の体を触りながら体調を確認しながらそんなことを言う。


「尻尾もツヤツヤ、大満足」


とても満足げな表情を浮かべている。

するとシアナはスタスタと歩き出し、庭へと続く窓へ足を運ぶ。

ガラガラと窓を開け放ち庭へ出ると一言。


「じゃあ、ちょっと試してくる」

「何を試してくるんだ?」

「ん、身体能力」


元々はマッサージが原因でクシナの妖術の威力が上がったという話から、シアナにもマッサージを施すことになった。

そしてシアナは己の霊力を使い体を強化して戦う妖魔である。

そのため霊力が上がれば、自身の身体能力が上がると考えていた。


「気をつけてな?」

「ん、すぐ戻る」


そしてシアナの姿が消えた。

普段妖魔と戦っているときもそうだが、シアナの速度は伊織には認識できない。

まぁそのうち帰ってくるだろうなと伊織が思っているとき、シアナが姿を表した。


「ただいま」

「うん?お帰り?」


あまりにも早い帰還に疑問が浮かぶ。


「どうだったかしら?」

「ん、間違いなく早くなってる」

「ちなみになんだが、どこを走ってきたんだ?」

「ん、町内一周」


どうやらシアナが消えてから数秒の間で町内を走ってきたらしい。

ちなみに今日この日不自然な風が町内に吹いたとか吹いていないとか...。


「え?今の一瞬で?」

「ん、そう。前までならもう少しかかったけど、今ならこの速度で走れる」

「これで決定ね。主様、あなたにはマッサージをするだけで相手の霊力を上げる特殊能力があるわ」

「マジか」


まさか自分にそんな能力があったなんてと驚く伊織。

でも、この能力があればクシナやシアナの能力を上げることが出来るし、さらに最近では札術も練習している。

今までのようにただ守られるだけの存在では無くなってきているので伊織は前向きに捕らえていた。


「よし、じゃあ買ってきたケーキ食べるか」

「ご飯前なのに良いのかしら?」

「今日くらいは良いだろう。シアナも食べたいだろ?」

「ん!食べたい!!」


普段は眠そうな瞳をしているのに、今日この日はランランと輝いていた。

それだけケーキを楽しみにしていたのだろう。

伊織たちはリビングにある机に移動して買ってきたケーキの箱を開ける。


「凄く良い匂いがするわね」

「ん、香しい」


お皿を取り出して各々の前に配膳し、食べる準備を進める。

クシナにショートケーキ、シアナにタルトを渡し、伊織も席に着く。


「良し、じゃあ食べようか。頂きます」

「「頂きます」」


まず伊織はチョコレートケーキにフォークを入れ、一口サイズにしてから口に運ぶ。

今回買ってきたケーキは、中々良いケーキ屋さんの物のため口に入れた瞬間幸せが広がる。


「おぉ中々美味しいな。どうだ?旨いか?」

「「...」」


二人はフォークを口に運んだ姿のまま固まっていた。

伊織が不思議に思っていると、二人の体が段々と震えだす。


「お...」

「お?」

「お...美味しすぎるわっ!」


まずはクシナが爆発した。

尻尾や耳もバッサバッサと動き、どれだけ美味しかったかを体中で表現している。

そしてその表情は頬に手を当てながら蕩けていた。


その光景を微笑ましそうに眺めていた伊織はシアナにも問いかける。


「シアナはどう...だ...」

「ん、これは、神の食べ物」


シアナは涙を流していた。

どうやら予想以上に美味しかったらしい。元々シアナは甘いものが好きだった。

昔はお供えされる和菓子が唯一の楽しみであった為、現代の進化した菓子を食べたシアナの感動は予想以上のものとなっていた。


「大丈夫か?」

「ん、私は初めて主と契約して良かったと心から思っている」

「そ、そうか...初めてか...」


珍しくシアナが長文を喋っている。

そんな言葉を聞いた伊織は若干へこんだが、シアナが喜んでくれて良かったなとも思う。

これでいつも助けられている恩を少しは返せたかなと考えていた。


「これからも偶にケーキとか買うか」

「いいわね、賛成よ」

「ん!是非そうするべき」


この日から伊織家では偶にケーキを買って皆で食べる日が出来上がった。




次の日、白雪の依頼が終わったらしくその依頼について聞きながら、伊織の特殊能力について話していた。


「今回の依頼は呪物の回収だったんだけど、これが中々曲者で大変だったよ~」

「どう大変だったんだ?」

「ん~、まず近づくのが難しかったかな?常に呪物の周りに濃い瘴気が漂っていてしっかりと対策をしなきゃダメだったから少し時間がかかったの」

「ふむふむ」


白雪は今回呪物の回収依頼を受けていた。

この依頼の等級は高く、三等星以上の退魔士を対象とした依頼である。


「それでいざ対策して呪物を回収しようとしたら、次は妖魔が現れたんだよね~」

「へ~、そんなこともあるんだ」

「うん、呪物が自分を守ろうとして召喚することがあるんだよ。それでその妖魔を倒してなんとか呪物の回収に成功したの、疲れたよ~」

「お疲れ様。そうだ、俺からも少し話しておくことがあるんだけど」


そして白雪の話が終わった後は伊織の特殊能力について話し出す。


「俺さ、シアナに日頃のお礼を込めてマッサージをしたんだ」

「ん?マッサージ?シアナちゃんに?(何それ羨ましい...)」


その話を聞いた白雪の内心に嫉妬の気持ちが沸き起こる。

自分は大変な依頼を受けていたのに、何故伊織君とイチャイチャしているのか?そんな考えが浮かぶ。


「うん、それで分かった事なんだけど、どうやら俺がマッサージすると相手の霊力を上げることが出来るらしい」

「はい?何だって?」

「だから、相手の霊力をマッサージで上げることが出来るんだって」

「うそでしょ?」


白雪が嘘だと思うのも無理はない。

通常霊力というのは自然に上がっていくことは無い。

退魔士であれば、訓練をして霊力を上げることが出来るのだが、それはかなり微々たるものだ。

それでも霊力を上げれば術の威力も上がるので、皆訓練を行っているが劇的に伸びるものでは無い。


「ちなみになんだけど、どのくらい増えたの?」

「どうだろう?シアナの場合はマッサージしたことでいつもより早く動けるようになったらしいぞ」

「うっそ~」


伊織の話を聞くに、自分で体感できるほど霊力が上がったことになる。

三割か四割か、はたまた六割程霊力が上がっていると推測できた。

普通このレベルの霊力を上げるとなると数年単位の時間を要求される。

それがマッサージを受けただけで霊力が上がるなんて白雪には信じられなかった。


「それってさ、私にも効果あるのかな?」


ある願望も込めて伊織にそう提案してみる。


「ん?確かに、どうだろう?試してみるか?」

「うん!試してみたい!」


白雪からしたら百点以上の回答が帰ってきた。

これで伊織と合法的にイチャイチャ出来るし、なんなら己の霊力が上がる可能性もある。

白雪の霊力は高いのだが、超一流の退魔士と比べると一歩足りなかった。


自分の階級を上げるためには後何年か時間が必要かと思っていたが、これでもし霊力が上がるのであればその夢もかなり近づく。

もし本当に霊力が上がって、退魔士の階級も上がって、伊織に対して堂々と胸を張り、何事からも守れるようになったその時は...。


「今日さっそく試してみてもいい?」

「いいぞ、今日も特に予定無いしな~」

「やった、じゃあ講義が終わったら伊織君のお家で試そうよ」

「りょーかい」


自分のこの想いを伊織に打ち明けようと、白雪は考えていた。


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