昆虫酒女・愛下碧
【昆虫酒女・愛下碧】
【彼女】
〖四週間振りだった。こんな風に彼女と会うのは今回で三度目だった
待ち合わせ時間の約15分前に着いた。彼女はまだ着いて居なかった〗
【午後3時に成った】
〖彼女が現れた。いつもの事だが必ずと言って良い程時刻丁度だった〗
〖待ち時間に成るまでまるで何処かに潜んで居たかの様だ〗
〖暫く振りなのだが前とちっとも変って居なかった、色白で面長な
顔立ちの彼女は背もスラリとして居て美人でした〗
〖身長は1m74㎝との事でした〗
〖逆光で観る彼女の金色のうぶ毛は微かな色気も漂わせて居た〗
【その下の白い肌は雪の様に白いのを通り越して、透けて見える程の
透明感で溢れて居た】
『あのー・スムーズにこれた見たいだね』
『ええ、途中で間に合うかなと思ったけど』
『丁度、時間までに着いた様ね』
〖イスに座りながら彼女は言った〗
【神隠し】
〖僕が彼女と始めて会ったのは2年前の事だった〗
〖会社の先輩の家に遊びに行った時の事だった〗
〖先輩の弟の友達が彼女連れで、偶々遊びに来た〗
【それが彼女だった】
〖僕は先輩とあれやこれやと居間で話をして居たが、先輩の弟と2人
連れは2階の部屋に上がる時、居間の横を通りながら先輩と僕に軽く
挨拶をして上がって行った〗
『凄く綺麗な人ですね』と言うと
『そうなんだよね』杉山太志郎
『それでさ、弟にね』
『お前も早く誰かいい人を見つけろよと、言って居るんだがね
中々縁が無くてね』
〖それが一回目の出会いだった〗
〖それから2ヶ月位してから、杉山先輩の家に遊びに行った時の話
だった〗
『おかしな事も在るもんだよ』
『弟の友達なんだがね』杉山太志郎
『一か月前位に、ふっといなくなったらしいんだ』
『弟がいくら探しても連絡が取れないらしいんだ』
『アパートの大家さんに聞いても最近全く顔を見て居ないんだと
言って居るらしいんだ』
『でもね、家賃の方は一年分まとめて支払って在るそうなんだ』
『まるで神隠しにでも在った様だよ』杉山太志郎
『それで友達の彼女もさっぱり心当たりが無いとの事らしいんだ』
『急に連絡が取れなく成ってアパートに出向いたそうなんだが全く
返事がなくて部屋に居る気配も無かったらしいんだ』
『警察の方へは、行方不明届けは出して在るらしいんだ』杉山太志郎
『アパートの駐車場には、弟の友達の車が置き放なしのまま、らしいよ』
〖僕は先輩の家を後にした〗
【再会】
【そんな或る日】
〖デパートのレコード屋さんでC・Dを探して居た時の事、不意に
後ろから声を掛けられた〗
【それは彼女だった】
『C・Dをお探しかしら』少し微笑んで居た
『ええ・ちょっとジャズのC・Dを探して居ます』
『あらっ、ジャズがお好きなのですか』
『ええ、何でもと言う訳ではないのですが』
『人で選ぶと言うより楽器で選んでしまうのですが』
『どんな楽器がお好きなのですか』
『アルトサックス・ビブラフォン・ハープ・ギター・鍵盤ハーモニカ
ピアノとかですかね』
『あらっ、素敵な楽器ばかりですね』
『そう言えばそうですかね』
【一階に喫茶室が有りますが一緒にどうですか】
【喫茶室・碧い純真】に入った
〖2人で一階の喫茶室に歩きながらふと考えた、中に入ったら居なく
なった彼氏の事等を聞いてもいいのだろうかと〗
〖それともそれには触れないで他の事等を話した方がいいのだろうかと〗
〖彼女の口から切り出すのを待つ方がいいのだろうかと〗
〖まー・取り敢えず他の事を話す事にした、他人の心の問題にまで
踏み込む事は止めにした〗
【昆虫が大好きです】
〖2人は主に趣味の話をした〗
〖僕は自分の好きな音楽の事とか、偶に乗る自転車の事とか映画の
事等・好きなD・V・D・の事等を話した〗
〖彼女も気軽に話をしてくれた〗
〖映画も時々は一人で見に行って居るらしい〗
〖好きな音楽は映画音楽・お裁縫は得意らしい、時々は家の周り等
散歩して居るらしい〗
『散歩する時はただブラブラ歩きですか』
『散歩する時は小さな虫篭と小さな捕虫網を持って行きます』
『散歩するついでに昆虫採集をするのですか』
『観た瞬間に気に入ったら捕獲しますが特別に決まってはいません』
『女の子で昆虫採集するのは珍しいと思いますが、気持ち悪く
ありませんか』
『いいえ触るは平気ですよ、10匹程飼って居ますよ』
『どんな昆虫を飼って居ますか』
『そうですねー・クワガタ・カブトムシ・カマキリ・キリギリス
バッタ等ですね』
『カブトムシとクワガタは形が面白いですね』
『カマキリは目の動きと体の動きが面白いですね』
『キリギリスは見た目が可愛く有りませんが、泣き声が大好きですね』
【ギィーッ・ギィーッ・ギィーッ】【ギィーッ・ギィーッ】と
【声の鳴き声の真似までしてくれた】
〖僕も昆虫は嫌いで無かったので昆虫の話で盛り上がった〗
【ゴキブリはどうですか・好きですか】
【ゴキブリは全く好きになれませんね、あの黒い形と動きが
気持ち悪いですね】
『キリギリスはどうやって捕まえるのですか』
【キリギリスは必ず鳴きます・鳴き声がしたら網と棒を持って
鳴き声がした周りの草を棒で叩きます】
【そうすると!ビックリしたキリギリスが草むらから飛び
出して来ます、そこで透かさず網を横に振り捕まえます】
【へーっ・上手く捕まえられますか】
【必ず捕まえられますね】
『御名前を聞いてもいいでしょうか』
【名前は・愛下碧】(あいした・あお)です
【貴方の御名前は】
【酒井弥八市】(さかいや・やいち)です
〖今日は昆虫の話ですっかり終わりに成ってしまった〗
〖3時間も話をしてしまった〗酒井弥八市
〖次に会う約束をして今日は別れた〗
〖4週間後でこの喫茶室だった〗
〖数回となくこの【碧の純真】で会う事に成った〗
〖愛下碧さんはいつも時間通りに現れ60秒とずれる事は
無かった〗
【居なくなった彼氏の事】
〖映画も2度観に行った、映画を観た後でいつもの【碧の純真】に
行った〗
〖今日は思い切って消えた彼氏の事を聞いて見た〗
『杉山先輩から聞いたのですがお付き合いして居た彼氏が、突然ふっと
姿を消したそうですが本当何ですか』酒井弥八市
〖すると急に黙ってしまったが、伏せて居た目を上げ話出した』
『ええそれは本当です、いつかは戻って来るだろうと思って居ました』
『しかしもう余り月日が経ってしまって、少しずつ忘れたいと思って
しまう様に成ってしまいました』愛下碧
『会社とか、あちこちに問い合わせをしてみましたがサッパリ分からず
探す術は何も無くなりました』愛下碧
『車もアパートも当時のままに成って居ます』愛下碧
『坂神誠さん(さかがみ・まこと)(元彼)とは2年程御付き合い
していましたが残念な結果に成ってしまいました』愛下碧
『時々思い出す事も有りますが悲しく成るだけです』愛下碧
〖深く聞くのは止めにした。大まかな事を聞けばそれはそれでいいと
思った〗酒井弥八市
〖いつまでも思い出させるのも少し気がひけた〗酒井弥八市
『愛下碧さん次回の映画鑑賞は10日後でいいですか』八市
『ええ、それでいいです』愛下碧
【坂神誠さんが消えてから4ヶ月が経って居た】
〖映画を観に行く約束の一日前だった・一通の手紙が届いた〗
〖愛下碧さんからだった、急用が出来たので今回の約束の映画は
お流れにして欲しいとの内容だった〗
〖暫くの間待って居て欲しいとの事だった〗
『後の連絡は手紙にて連絡します』愛下碧
【半年振りの再会】
〖それから半年の月日が過ぎた〗
〖郵便受けを一日2回見るのが日課に成ってしまった〗
〖一通の手紙が届いて居た〗
【開いて見ると半年間も待たせてごめんなさいと書かれて在った】
【事情があって実家へ戻って居たらしかった】
【会える日時が記して在った】
【例の喫茶室【碧の純真】で午後の2時だった】
〖半年振りなので妙に落ち着かなかった〗
『今日は久し振りで話が長く成ってしまったね』八市
『そうねー、久し振りに話が出来て楽しいですわ』愛下碧
『昆虫達は今どうして居るの』八市
『もう、皆天国に旅立ちました、ちょっと寂しいけど』愛下碧
『今日は話が長引いてしまったので、映画は次回に持ち越しだね』
『今日の夕食は私の家でどうかしら』愛下碧
『帰り道に在るスーパー【ベルク54号店】で色々と食材を買い
ましょうか』愛下碧
『あっ・これは天ぷらにすると凄く美味しいですよ』八市
『随分変わった形のお魚ですねー・名前は何ですか』愛下碧
『これはねー・オコゼですね、天ぷらで揚げると背びれがパリパリ
してとても美味しいですよ』八市
『ホッケの塩焼きも美味しいですよ、もう焼いて在りますからレンジで
チンでOKですね』酒井弥
『肉じゃが、もいいですね・牛肉と豚肉が有りますが牛肉の方が好き
ですね、玉葱たっぷり入れると甘味が増していいですね』八市
『味付けはヤマサの昆布つゆ・みりん・日本酒・シンプルでOK』
『プチつまみは・北海道産のホタテの貝柱・乾燥したカンカイでOK』
『キクラゲを水で戻して、青じそポン酢でOK』八市
『財布に余裕があれば、キャビアの缶詰でOK』八市
『酒は珍しくスパークリングワイン・ポメリーでOK』
『シェリー酒はサンデマンのミディアムでOK』八市
【初めての夜】
〖駅を降りてから歩いて行く事にしたが、道はくねくねと曲がって居て
何回も曲がった〗
〖少し解りにくい場所だったが閑静な場所で緑も多かった〗
『防犯灯が多くて女の人も安心ですね』八市
『そうですね、家も3百軒位在りますから明るくて安心ですね』愛下碧
『緑が多いので空気が澄んで居て気持ちが落ち着きますね』八市
『あっ、あそこです灯りが見えて来ました、小さな家ですが』愛下碧
〖小さな一軒家だった〗
『では2人で食事の準備をしましょうか』八市
『肉じゃが、出来上がりましたよ』愛下碧
〖2人はテーブルを挟んで料理とつまみを食べて、ポメリーと
シェリー酒を飲んで乾杯をした〗
【カッチン】
『アルコールは良く飲みますか』八市
『そうですねー・滋養強壮の為に飲みますねー』愛下碧
『何となく元気に成る様な気に成りますねー』愛下碧
『ワインとか焼酎とかビールとか飲みますか』八市
『自分で漬けた特別酒も時々飲んで居ますね、まだ今は漬かって
いませんが』愛下碧
【へーっ、そうですか、美味しいですか】酒井弥八市
【そうですね・好みにも寄りますけどね】愛下碧
〖愛下碧さんは良く喋ってくれた〗
〖話は長くて八市はもっぱら聞き役だった〗
『あっ・もう直ぐ11時になる、終電の時間に間に合うかな』八市
『もう、帰らないとねー』八市
〖帰ろうとすると愛下碧さんに引き留められた〗
〖八市の瞳を覗き込んだ〗
〖直ぐに目から涙が落ちて来た・八市は思わず肩を抱き寄せてしまった〗
〖八市の胸が涙で濡れた・そのまま八市はじっとして居たが・暫く
すると愛下碧さんはそっと離れた〗
〖そっと立つとシャワールームに行った〗
〖八市は戸惑ったが多少の予測はして居たので覚悟を決めて
愛下碧さんが出るのを待って八市もシャワーを浴びた〗
〖シャワールームから出ると碧さんは横に成って居て、照明は落として
在った〗
〖タオルケットで顔を覆って居た〗
〖八市は碧さんの横にするりと入った〗
【今日は何もしないでね】と碧さんは少し上ずった声で言った
【えっ・ああ】と八市は返事をした
〖しかし八市は時間を見計らって行動するつもりだった〗
〖40分位じっと暗い天井を見て居たが、随分明るく感じて来た〗
【愛下碧さんは寝て居るのか、起きて居るのか解らなかった
全く動かない】
【愛下碧さんは背中を向けて居たが、八市はそっと肩を引いて
【仰向けにした、碧さんはビクッとしたが目つぶって上を向いて居た】
〖八市は右側に寝て居た、横向きに成りそっと下の方に手を伸ばした〗
〖碧さんはパジャマを着て居た〗
【お尻の下に親指を2本入れてお尻の方からそっと脱がした】
【碧さんは腰を浮かした】
【斜め上からそっと碧さんにキスをした】
【下の方に滑らせた指を碧さんのビーナスの丘に当てて見た】
【ふっくらとして居て、指で押すとプヨプヨとして居た】
【太ももに力が入って居た、ちょっと開いた】
【八市の腰の動きに碧さんの腰も一緒に踊った】
【2人は桃源郷・4次元の世界に突入・爆発した】
【琥珀色の瓶】
〖1週間後八市は愛下碧さんの家に行った〗
〖テーブルには酒のつまみとシェリー酒が用意されて居た〗
【テーブルを挟んでシェリー酒を2杯飲んだところで、席を立つと】
【今日はこれを飲んで見て】と琥珀色の瓶を差し出した
〖八市はコップに注いで貰って口にした〗
【あっ!これは焼酎だね】八市
【一般的な焼酎は確か透明じゃーなかった!】八市
【時々飲むお酒ってこのお酒の事ですか!】八市
【そうなんだけどね、この焼酎は在る物を漬け込んで在る焼酎なの】
【美味しいでしょう】愛下碧
【あ~っ!本当だ、凄く美味しいね、市販の焼酎とは全く違うね】
〖八市はその味にすっかり酔ってしまった〗
【いや~!旨いな~!この焼酎】
【初めてだよ、こんなに旨い焼酎】八市
〖何杯もお代わりした〗
〖その夜不思議な事に、碧さんを抱きたいと思う気持ちが全く
なく成って居た〗
〖ただ朝まで寝て居ただけだった〗
〖それから1週間後にも碧さんの家に泊まった〗
【いや~旨いな~・ホントに旨い!】八市
〖何杯もお代わりをした〗
〖そしておかしな事に今日もまた、碧さんを抱きたいと思う気持ちが
なく成って居た〗
〖段々と不思議な気持ちに成って来た・アパートに居る時は最初の夜の
事を思い出して居た〗
〖何度も泊まって居るうちに〗
【あっ!】と思った
【あの焼酎は何を漬け込んで在るのだろうか】
【前まで在った朝立ちが全くなく成って居た・まるでインポテンツ
寸前の状態に成って居た】
【八市は、焼酎に漬け込んで在る物を見たく成った】
【瓶の中身】
〖碧さんが台所から持って来るので、台所で漬け込んで在るのに
違いないと思った〗八市
〖しかし碧さんが居る時は観る事は出来そうにない〗
『碧さんお互いの家の鍵を持ち合いませんか、待ち時間が無駄な様に
思えるんですが、どうですか』八市
『えっ・ああー・そうですか、構いませんけど』愛下碧
〖碧さんの家に泊まっていつもの様に家を先に出た〗
〖物陰に隠れて碧さんが出て行くのを待った〗
〖碧さんが出て5分経ってから家に入った〗
〖家に入ると直ぐに台所へ行った、色々な場所の戸を開けて見たが
これと言って変わった物は無かった〗
〖ふと、足元を見ると床下収納庫が目に着いた、取手を
引っ張って見た〗
〖何やら黒のポリ袋で何かを覆って在った、広口瓶の様だ〗
〖3本の広口瓶を1本ずつ覆って在った、上から中身が見えなかった〗
【右端の瓶を1本取り上げて黒のポリ袋を剝がして見た】
【あっ・腰を抜かす程ビックリした】
【琥珀色の液体の中に黒い針金みたいな虫の大群が漬け込んで在った】
【これは針金虫と言う昆虫だ、図鑑で見た事が在った、大きい物は
1m50㎝にも成るらしい】
【瓶の容量は1本4ℓ位だ・20㎝位の長さの針金虫がギッシリと
詰まって漬けて込んで在った】
【愛下碧さんの目的】
〖最近ズボンが可成り緩く成って居るのに気が付いた、ウエストも
細く成り体重も可成り落ちてきて居た〗
【鏡で顔を良く観た、顔全体が少し黒ずんで居る、頬も可成りしわが
目立つ様に成って居る】
【碧さんが昔付き合って居た元カレの、坂神誠さんの顔が浮かんだ】
【突然居なくなったのだ、坂神誠さんもきっとこの昆虫漬けの焼酎を
飲んで居たのに違いない】
【坂神誠さんは2年で居なく成った、今の俺は付き合ってから1年と
半年だ、何だか怖く成って来た、体が溶けてしまうのではないだろうか】
【段々と疑心暗鬼に成って来た】
【一体碧さんの目的はなんだろうか、いくら考えても解らなかった】
【体重は既に9㎏も落ちて居た】
【碧さんの家を後にした】
【愛下碧さんの年齢】
〖よくよく考えて見ると針金虫だけじゃ無い、色々と何かが漬け
込んで在るに違いない〗
〖八市は碧さんの留守を見計らって家に侵入した。直ぐに書棚の
左端の下の方に置いて在る卒業アルバムを取り出した〗
〖セピア色に成って居た〗
〖アルバムを捲って居ると在る集合写真が目に付いた、碧さんの
クラス写真だった、前列の右から3番目が碧さんだった〗
〖しかしある可笑しい事に気が付いた〗
〖クラス全員の服装が、昭和初期風なレトロな和服姿だったのだ〗
【まさかと思って最初のページを捲ると、紛れも無い昭和二十六年
卒業の印字が記入されて居る】
【今は昭和六十二年だ、此の集合写真が十八だとすると愛下碧さんは
五十四歳と言う事に成る】
【しかし今の愛下碧さんは二十四歳位にしか見えない、実に若々しい】
【愕然として、時が止まってしまったかの様に成ってしまった】
【本当にこんな事が在るのだろうか】
【もう一度集合写真を見直して見た間違いない愛下碧さんだ】
【広い天井裏】
〖愛下碧さんは老いる速度が半分に成って居るのだ〗
〖そうでなければ説明が付かない〗
【2人の初めての夜は実に瑞々しく柔らかい体だった】
【針金虫のエキスを飲んで居るとは思えない、俺と同じ様に成って
しまう筈だ、頬がこけて可成りやせて来る筈だ】
【碧さんはそういう風に成って居ない、きっと違う物を飲んで居る
筈だ】
【床下収納庫の他の2つの瓶を開けて見る事にした】
【ひとつの瓶を開けた、小さい昆虫達がギッシリと詰まって居た】
【もう一つの瓶を開けた、バッタ・カマキリ・キリギリス・カンタン
キバチ・タマムシ・黄金虫・蟻・アシナガ蜂・クワガタ・コウロギ】
【それ程変わった昆虫達ではない、もっと何か有る筈だ】
〖八市は寝転んでずっと天井を眺めて居た〗
【おおっ・天井の隅が少しずれて居た、手垢みたいに少し黒ずんで居た】
【脚立に乗って天井板を少しずらして見た・懐中電灯でグルリと
照らして見た】
【あっ!】声を上げてしまった
〖補強された天井裏に大きく黒くて細長い箱が在った〗
〖箱と言う寄り棺桶風に見えた〗
【まさかこの中に誰かが入って居る訳が無いと思いつつも、天井裏に
這い上がって行った】
【天井裏は以外にも広くて高く造られて居た】
〖中腰のまま近寄って行った、蓋が上下二つに分かれて居た〗
〖上の方の蓋をそっとずらして見た〗
【おおっ!】【これは!】
【白骨化して居た、正にミイラ状態だった】
【妙に瞳だけは着いて居た・可成り縮んでいたが瞳だった】
【上下共にパジャマ姿だった】
【行方不明に成った・元彼の坂神誠さんだった】
【頭蓋骨の上3分の壱が無くなり大きな空洞に成って居た】
〖その横に黒くて長い棒が在った、乾燥して居た〗
【おおっ!】【これは!】
【馬鹿でかい針金虫だった】
【瓶の中の針金虫は15㎝~20㎝位だったがなんと1m20㎝位も
ありそうな大針金虫だった・5匹も居た】
【こんなでかいのが何処から出現したのだろうか】
【何故、坂神誠さんと一緒に並んで寝て居るのだろうか】
【何故愛下碧さんは年を取らないのか】
【何故俺に昆虫のエキスを飲ますのか】
【もう一本出てきた琥珀色の瓶】
〖直ぐに天井裏を降りた〗
〖これだけじゃない何かまだ在る筈だ〗
〖もう一度床下収納庫を良く調べた〗
【3本の瓶全てを退かして見た・壁がスライド出来る様に成って居た】
【そっとずらして見るとまた瓶が出て来た、8ℓも在る様な大瓶だった】
【黒いポリ袋で覆われて居た・ポリ袋を外した】
【うわっ!おおっ!】
【紛れも無い人間の脳みそが琥珀色の液体の中に漬け込んで在った】
【愕然とした】
【中国では猿の脳みそを食べる、古い習慣が在るのを思い出した】
【気持ち悪かったが蓋を外して指を入れて、舐めて見た】
【酸っぱい様な塩気が強い様な・薬草漬けの様な何とも表現出来ない
初めての味だった】
【とても旨い代物では無かった】
【しかし無理矢理飲めば慣れてきて飲めなくもないが、八市には飲む
気はしなかった】
【愛下碧さんが飲んで居るのはきっとこれだろうと、想像出来た】
【人間の脳みそ漬けのエキスが、本当に老化を遅らせるのだろうか】
【もしこれが本当にだとしたら、後3個~5個位の脳味噌が欲しく
成るのは間違いない、何時までも若々しく瑞々しい体を保たれる】
【愛下碧さんが欲しかったのは正に脳味噌の焼酎漬けだったのだろう】
【背筋が凍り着いた・2人目は俺の番だ】
【でも何故ミイラにする必要があるのだろうか、何処かに埋める成り
しても良さそうだ】
【推測すると多分、坂神誠さんの肛門から針金虫が出てくるのを待つ
為ではないかと】
【しかも1匹ではなく数匹出て来るまで待つ為に、ミイラ化して
しまうのだろう】
【人間の体内から出て来る針金虫のエキスは、瘦ないのかも知れない】
【愛下碧さんだけが知っている事だ】
【人間の脳味噌漬けの焼酎を飲んで居る・世にも恐ろしい光景が想像
出来た・怖く成って来た】
【睡魔】
【今のままじゃ俺もいつの日かミイラに成る運命だ、酔って寝て居る
間に針金虫を俺の体内に既に入れて在るのかも知れない】
【体には大して異常は感じて無いが、可成り不安に成ってしまった】
【愛下碧さんの家を後にした】
〖近所に在る【岡山内科】でレントゲンを撮って貰った〗
〖別段胃袋には異常は無かったが、しかし大腸に5㎝位の影が数個
在るらしいとの事だった〗
『酒井弥八市さん余り気にする事はありません、虫下しを処方します』
『薬局で受け取って下さい』岡山顕一医師
『はいっ、ありがとうございました』八市
【待合室のソファーで会計を待って居た】
【あっあ~】【あっう~あっ~】
【どうしたんだろう・激しい睡魔が襲って来た】
【段々と気が遠く成っていった】
【誰か・呼んで居る】
『酒井弥さん・八市さん気が付きましたか』看護師
〖誰かが覗き込んで居る、顔がぼやけて居る〗
『酒井弥さん目が覚めましたか』看護師
『名前をおっしゃって下さい』看護師
『あっあー・酒井弥八市です』
『やっと目が覚めましたね』看護師
『ソファーで寝込んでから半年も経って居ますよ、何も覚えて居ない
でしょうね』と 笑って居た
【高さが45㎝位の広口瓶を指差した】
【これを取り出したのですよ】看護師
【ビックリしましたよ】看護師
〖見るとそれは針金虫だった〗
【ソファーで寝込んで2週間程してから、お腹を切開して取り出したの
ですよ、5匹も居たのですよ】看護師
【15㎝もありましたよ】看護師
〖放って置いたらお腹を喰い破って出て来るらしかった〗
【まさかこの液体は焼酎ではないでしょうね】八市
【いいえ、普通のアルコールですよ】看護師
【ほっとしたが、やっぱり体内に住んでいたかと思うとゾクッとした】
【目が覚めてから虫下しを飲まされた】八市
〖少しずつ歩く練習をした、病院の休憩室で新聞を読むのが日課に
成って居た〗
【2ヶ月前の新聞を読んで居た時だった、在る小さな記事に釘付けに
成った】八市
【記憶の在る住所だった、紛れも無い愛下碧さんの住所だった】
【八月二十日午前2時出火・全焼】と 在った
【可成り酷い焼け方で、灯油でも撒いたかの様だと記して在った】
【二遺体が発見されたらしい・一人は男で推定年齢が30才~35才位
と在った・もう一人は女性で推定年齢が55才~65才と在った】
【女性の遺体は間違い無く愛下碧さんの遺体だと思った】
【もう、全てが燃えてしまったのだ】
【八市は何となくほっとしたが、その反面言われの無い懐かしさも
込み上げて来た】
【生きて居るのが不思議な気分にも成った】
【病室に戻った・瓶の中の針金虫をじっと見つめた】
【ピクン】と
【針金虫が動いた様な気がした】
【誰かに呼ばれて居る様な気がした】
【登場人物】【種子火】(たねび)
【酒井弥八市】
【愛下碧】
【杉山太志郎】兄【杉山太次郎】弟 【坂神誠】
【岡山内科院長・岡山顕一】【春山春子】岡山内科・看護師
【この物語はフィクションです、登場する団体名・個人名は存在
しません】