秘密の恋心
スズエに片思いしているレントの話です。
年の差も大きいのでなかなか告白できずにいますが、これはいずれ恋人になる二人。
「そういえば、スズエさん出張だったね」
ユウヤが言うと、「あー、そうだったな。明日帰ってくるんだったか?」とシンヤが思い出す。
「ご飯はちゃんと食べてるかな?」
「怪しいところだよ?あの子、一人だとご飯を食べない前例があるから」
アイトの言葉にレイが苦笑いを浮かべる。事実、みんなと出会う前は栄養ドリンクと野菜ジュースとエナジードリンクだけで過ごしていた。
「でも、今回はかなり遠かったハズっすよ」
シルヤが出張先を思い出しながら答える。車も使っていないので、帰ってくるとなったら昼過ぎになるのではないか。
そんなことを考えていると、家の前で車が止まった音が聞こえた。もしかしてと思ってレントが出ると、タクシーから降りるスズエの姿があった。
「すみません、こんな夜中に」
頭を下げ、前を見るとレントがいることに気付く。タクシーを見送り、
「すみません、起こしてしまいましたか?」
心配そうに尋ねてきた。
「いや、もともと起きていたからそれは大丈夫だよ。でも、スズエさん、確か明日帰ってくる予定だった気が……」
「あー……明日も仕事なので、さすがに遅くに帰ってくるわけにはって思って。公共交通機関を使うとどうしても時間かかるので、経費ではおりませんけど仕方なくタクシーを使ったんです」
「連絡くれたら、迎えに行ったのに。大変だっただろう?」
話しながら家に入ると、兄が「スズエ!そんな慌てて帰ってこなくてよかったんですよ」と出迎えた。
「明日も仕事だからね……今日中に帰ってきたかったんだよ」
「兄さん達に任せてくれてよかったのに」
「あと、兄さんの料理食べたかった」
「……まだ夕食も取っていないんですね?」
「それどころか朝から何も食べてないよ……時間なかったんだ……」
予想通りというべきか。エレンは苦笑いを浮かべながら、「軽く作りますよ」と台所に向かった。
「スズ姉!聞こえてたぞ!また食ってなかったんだな!?」
「今日中に帰ってきたかったの!そうなるとご飯食べてる時間がなかっただけ!野菜ジュースとかは飲んだもん!」
「だから野菜ジュースは食事のうちには入らねぇって!」
「私の中では入るんです!」
いつもの言い合いが始まる。この所長は仕事に没頭するとすぐに食事を抜いてしまう癖があるのだ。
「はぁ……今度からは誰かが迎えに行くから、無理して一日で帰ってこようとしなくていいよ。スズエさんもゆっくり出来ないでしょ?」
ユウヤに言われ、「でも、それじゃみんなに迷惑かけるし……」とうつむいた。
「それで体調崩して、大学に通学できなくなってもいいの?」
そう聞かれ、スズエは長考する。そして、
「……言うこと聞きます……」
……最近、ユウヤもスズエの扱いがうまくなった気がする。
次の出張からの帰り、レントが迎えに来た。
「スズエさん」
「あ、レントさん。すみません、こんな朝から……」
「構わないよ、会社員の時なんてもっと早く起きていたからね。君の職場に来てからはホワイトすぎて怖いぐらいだよ」
「そんなにブラックだったんですか……」
苦笑いを浮かべるスズエを車に乗せ、レントは音楽をかける。
「この音楽でいいかい?」
「はい、この音楽、好きなんです」
「そうなんだね」
駅から家までは割と遠いため、ウトウトし始める。
「眠たいなら、寝ていていいよ。君も疲れているだろう?」
「でも、運転してもらっているのに……」
「気にしないで。それで倒れたら大変だからね」
「……では、お言葉に甘えて……」
小さく笑い、スズエは目を閉じた。そして数分も経たず、寝息が聞こえてくる。レントは横目で、その寝顔を見た。
(……まつ毛、長いな……)
そんなことを思いながら、車を走らせた。
それから、レントはスズエを車に乗せることが多くなった。そのためか、スズエが好きな音楽が常に流れるようになった。
レントは、自分がスズエに抱く気持ちに気付いていた。しかし、その年齢差ゆえに言い出せずにいた。
――今は、遠くから見ているだけでいい。
そう思いながら、レントは隣に座るスズエを見ていた。
「どうしました?レントさん」
スズエが首を傾げる。
あぁ、それすらもいとおしい。




