意外な好み
アイトの話です。
彼、意外なことにみそ汁が好きなんですよ。コンソメスープとかじゃなくてみそ汁。
「そういや、アイトって食事は何が好きなんだ?」
タカシに聞かれ、アイトは「みそ汁は割と好きだよ」と答えた。
「みそ汁?それはまた意外だね……」
レントが驚く。アイトはどっちかというと洋風が好みだと思っていたからだ。
「ちゃんとした理由があるよ」
それに気付いたアイトは話し始めた。
アイトはもともと、みそ汁なんて嫌いだった。それは高雪家で出される料理が食べられたものではなかったからだ。だからもっと言うなら、みそ汁だけでなく食事全般が嫌いだった。
「アイト兄、これ食べてみて」
そんなある日、スズエにみそ汁を渡されたのだ。自分で作ったと言われてしまっては食べないわけにもいかず、アイトは恐る恐るそれを食べ始めた。
「……おいしい」
最初に出た感想はそれだった。みそ汁とはこんなにおいしいものだったのか。
「ホント!?おじいちゃんに教えてもらってよかった!」
スズエの笑顔を見て、アイトはギュッと抱きしめた。
「どうしたの?アイト兄」
「……ううん、何でもないよ」
涙を流しながら、アイトは何度も「おいしい」と繰り返した。
「あれがなかったら、多分今頃食事なんて嫌いだったよ」
「それは……お前も苦労したんだな……」
アイトの過去を聞いた彼らは寂しげな表情を浮かべていた。




