ケイルート 後日談
ケイと結ばれたルートの後日談です。
なかなか思いつかず、ようやく書けた話です。相変わらずお相手があまり出てこない……。
研究所から帰る途中、コンビニの前で不良が溜まっていた。
(面倒だなぁ……)
そう思いながら前を通り過ぎようとすると、腕を掴まれた。
「ねえ、お姉さん。一緒に遊ばねぇ?」
「すみません、早く帰らないといけないので」
「いいじゃんか、たまにはハメ外した方がいいぜ?」
いやらしい笑みに、スズエはため息をつく。いつものことだ。
「ごめんねー、その子、俺の連れなんだ」
その時、後ろから声が聞こえてきた。不良達は「ひっ……!」と怯えた様子で逃げて行ってしまった。
「ケイさん」
スズエはその声の主の名前を呼ぶ。ケイは「スズちゃんが遅かったから、迎えに来ちゃったー」と笑った。
「大丈夫だったー?」
「はい、ありがとうございます」
頭を下げると、「スズちゃんの恋人だからねー」とケイは笑った。
家に戻ると、エレンが「遅かったですね」と玄関まで来た。
「不良に絡まれてたんだよー」
「スズエは可愛いですからね……」
じろっとエレンはケイをにらむ。「エレンー……そんな睨まないでよー……」と苦笑いを浮かんだ。
「本当は渡したくないんですからね」
「兄さん、くるしいー……」
ギュウギュウと妹を抱きしめている兄の腕を叩く。エレンは「あ、すみません」と離した。ケイはエレンにかなり目の敵にされているのだ。
「では、ご飯を食べましょうか」
「うん。今日のご飯なにー?」
「今日は揚げ物ですよ」
本当にこのきょうだいは仲いいなー、と後ろから見ていたケイは思った。
数日後、大学でもスズエは絡まれていた。
「森岡さん、一緒に飲み会行こうよー」
「仕事があるので行けません。ほかの人を誘ってください」
何度もこうして断っているのだが、聞き入れてはくれない。
「スズ姉、ちょっといいか?」
こういう時、シルヤがいつも助けてくれる。後ろから舌打ちが聞こえてくるが、逃げるためだ、仕方ない。
「本当にモテモテだな、スズエ……」
「迷惑してるよ……」
ランとも合流し、一緒に昼食を取る。来年は卒業だ、仲良くしたいのだろう。
「来年は東大から取るつもりないんだけどな……」
ため息をつくスズエに二人は苦笑いを浮かべた。
研究所に戻ると、スズエは仕事を始める。
「スズちゃん、あんまり無理しないようにねー」
ケイが声をかけると、「今日中に終わらせたいので」と困ったように笑いかけた。
「そう?……一度戻るけど、何かあったら連絡してねー?」
「分かりました、お疲れ様です」
前回のこともあったので心配していたが、ケイは一度帰ることにする。
十一時になっても戻ってこなかったため、研究所に向かうと荒らされているのが目に入った。
「ちょ、スズちゃん!?」
慌てて入ると、「どうしました?」とスズエは侵入者を捕らえながらケイの方を見た。
……そう言えば、この子裏社会でも有名な情報屋だった……。
少し怪我をしているようだが、何でもなさげにしているためとりあえず警察に通報する。数分後、アリカがやってくる。
「スズエちゃん、大丈夫?」
「はい、すみませんね、手荒にしてしまって」
「いえいえ、これぐらいの方が反省するわ」
そのまま犯人を連れて行ってくれた。そのあと、ケイはスズエの怪我を手当てした。
「まったく……あんまり無茶はいけないよー」
「すみません……自分で捕まえて警察に通報した方がいいって判断して……」
アハハ……と困ったように笑う。護身術を身に着けていたことが不幸中の幸いか。
そのまま帰ると、エレンが「大丈夫ですか!?」とスズエに駆け寄ってきた。
「馬鹿が研究所に侵入してきたみたいだよー。スズちゃんが見事に捕らえていたけどねー」
「あまり無理はしないでくださいよ。ケイさんもありがとうございます」
どうぞ、とスズエに夕食を出し、スズエはそれを食べる。
「ごめんね、遅くなって」
「いえ、それについては大丈夫ですよ。スズエが無事であることが重要ですから」
エレンが頭を撫でると、スズエは子供のように笑った。
数日後、社員から食事に誘われ、断る理由もなかったためスズエはその社員の家に向かう。
「どうぞ」
「すみません、失礼します」
その社員が中に入れると、彼の妻が出迎えてくれた。
「初めまして。森岡 涼恵と申します」
「いつも夫がお世話になっております」
彼女に挨拶し、リビングに通してもらう。
「きれいにされているんですね。過ごしやすいです」
スズエが褒めるのだが、妻は困ったように黙ったまま。少しおかしいと思いつつ、スズエは客人らしく指定された場所に座った。
「あの、よければお手伝いでも」
「所長がされなくていいですよ。うちの妻の仕事ですから」
スズエが声をかけるが、社員の方が止めた。そういうものだろうかとスズエは座る。
それにしても、この家は高級品ばかりだ。正直、居心地が悪い。
「どうぞ、お口に合うか分かりませんが」
妻が置いてくれた料理に社員は「一級品の食材を使っているのでおいしいと思いますよ」と言ってきた。あぁ、なるほどとスズエは理解する。
一口食べて、
「これ、レトルトですね。とてもおいしくアレンジされています。これならいくらでも食べられそうですね」
すぐにこれがレトルトの商品で作られたことを見破る。だてに兄の料理を毎日食べていない。もちろん、これもとてもおいしいので文句はなかった。
しかし、社員はレトルトと聞いて驚きの目を向ける。
「おま、所長に安物を食べさせるなんて……!」
「……何を勘違いしているか分かりませんが、うちでもよくレトルトを食べますよ?これくらい手抜きするぐらいがちょうどいいです」
ね?と妻の方を見る。専業主婦らしい彼女はコクコクと頷いていた。
「主婦は楽だって思っているのかもしれませんけど、毎日家をきれいにするのだって大変なんですよ。主婦は会社員なんかと違って無償で仕事しているんですから、どこかで手を抜かないと潰れるだけです。私も、家では手を抜いているぐらいなんですから。一級品にこだわる前にもう少し奥さんを労わってあげなさい」
まさか妻の方の味方をするとは思っていなかった社員は目を丸くする。
「あの、ところで……」
「は、はい」
スズエが妻の方を見ると、彼女は困ったように首を傾げた。それに構わず、スズエは手を握る。
「君、うちの食堂で働いてみない?こんなにおいしく作れる人を丁度探していたの!」
「え、え?」
「もちろん、最初はパートでもいいからさ」
「でも、子供もいて……」
「時間は融通するし、保育所が休みなら託児所もあるよ。どうかな?」
目を輝かせている所長に、妻は「まぁ、体験ぐらいなら一度……」と頷いた。
数日後、来てみるとエレンが「初めまして。妹から話は聞いています」と丁寧にお辞儀してきた。
「ちょうど人員が足りなかったので、体験でも来ていただいて感謝しています」
「は、はぁ……」
スズエから、彼は調理師免許を持っていると聞いている。どんなに怖い人なのかとビクビクしていたのだが。
「そうすれば、時短になるのですか?」
「はい。早く染み込むんですよ」
「そうなんですね。勉強になります」
互いに勉強しているようで、かなり充実した。
体験が終わると、ケイから所長室においでと言われ中に入った。
「一日お疲れ様。これ、今日の給料です」
「え?」
まさかもらえると思っていなかった彼女はキョトンとしていた。
「それは今日働いた対価。受け取って」
「あ、ありがとうございます」
彼女が一礼すると、子供と一緒に帰っていった。
「スズちゃん、本当に物好きだよねー」
ケイが言うと、「物好きなのは否定しないです」と笑った。
「まぁ、彼も改めたみたいですし、いいんじゃないですか?」
「そうだねー。俺の管轄の社員だったしー」
そう言って、二人で笑った。
後日、その妻が入社したことは言うまでもなかった。
「こうすれば、もっとおいしくなりますよ」
「そうなんですね……」
あの兄があそこまで嬉しそうに教えているのも見ることが出来て、スズエは満足だった。