それはあったかもしれない未来
スズエ達の祖父母が生きていたら、という世界線です。デスゲーム参加者の全員と一度はあっている前提になっています。
名前は分かるようにスズエ、シルヤのままです。
「アイト兄!」
スズエが幼馴染にしていとこの兄に抱き着く。アイトは「スズエ、どうしたの?」と嬉しそうに抱きしめた。
「今日、泊まりに来てくれるんだよね!?」
「もちろん」
「本当か!?アイト兄さん、来てくれるのか!?」
シルヤも傍でぴょんぴょん飛んでいる。この双子、これで中学生なのだ。
「ユウヤとシンヤも来てくれるんだって」
「「やったー!」」
両親がいない森岡家のきょうだいは、研究者である祖父母に代わりに育てられていた。祈花兄弟も、東京に引っ越してきていた。
「じゃあ、またあとでね」
「うん!」
「約束だからね!」
二人を中学校まで送り、アイトも高校へ向かった。
「スズエ、シルヤ。おはよう」
「ラン君、おはよう」
「おう!おはよう、ラン」
クラスメートで幼馴染のランと合流し、教室に向かった。
スズエが夕食を作っていると、兄が帰ってきた。
「おかえり、兄さん」
「ただいま、スズエ」
エレンの後ろから、男女が来る。
「あれ?兄さん」
「ラン、君もここに来てたんだ」
泊まりに来ていたランが黒と白の髪色の青年を見て、目を丸くした。エレンは「おや、レイさんの弟でしたか」と首を傾げた。
「兄さん、そのお二人は?」
「レイさんとユミさんですよ。同級生と後輩です」
「初めまして。お邪魔します」
どうやら二人も泊まるらしい。ユウヤ達と一緒に勉強会を開きたいということだ。
「夕食はどうします?ちょうど作っている途中ですし、今からでも大丈夫ですけど」
「え、でも……」
「遠慮しなくていいですよ。作るなら一緒ですから」
「じゃあ、お願いしようかな」
「兄さん、お風呂先に入ってていいよ」
妹に言われ、エレンは「では、先に入ってきますね。シルヤとラン君も入りましょうか」と頷いた。
「私は妹ちゃんと入ろうかな……」
「スズエでいいですよ」
「分かった。スズエ、何か手伝おうか?」
「いいんですか?では、それを……」
女性二人で料理を作り始めたのを見て、男性陣はお風呂に入る。
「わぁ……ひろ……」
森岡家のお風呂を初めて見たレイは感嘆の声を漏らす。
「相変わらず仲いいな。普通、兄貴達が入った後は嫌うもんだろ?女の子って」
「スズエが特殊なだけじゃない?あの子、お兄ちゃんっ子だから」
ユウヤが汗を流しながらランの言葉に反応する。シンヤは「あー……まぁ、スズエはそうだもんな……」と苦笑いを浮かべた。
湯船に浸かりながら、スズエの話になる。
「スズエ、だっけ?いい子だね、あの子」
「えぇ。自慢の妹です」
エレンが笑う。髪が長いせいか、一瞬女性に見えてしまった。
「おーい!スズ姉、入浴剤入れていいかー!?」
シルヤが叫ぶと、スズエは「いいよー。皆に聞いてねー」と答えた。
「あ、タオル持っていくねー」
「ラン、どれがいい?」
姉に許可を得たシルヤはランと一緒に選ぶ。泡風呂となった浴場は本当に泡だらけになった。
「へぇ……泡風呂なんて初めて見た……ランはいつもこれを?」
「いや、入浴剤をあんま入れてないんだ。幼馴染とはいえ他人の家だからさ」
そうやって泡で遊んでいた男性陣だったが、
「あ、俺、そろそろ上がるね」
そう言って、レイが上がろうとする。ユウヤが「あ、待って!」と止めようとしたが、遅かった。
浴場から出ると、タオルを準備していたスズエとばったり会ってしまった。下半身はバスタオルで隠しているが、それでも二人して顔を真っ赤にする。
「わぁあああ!ごごごごめんなさーい!」
「おおお俺の方もごめん!」
ガタガタと大きな音を立てながら、レイは浴場に戻る。
「あー……スズエはボク達が入ってるときにタオルを準備していてね……」
「それを先に言って……」
ユウヤの言葉にレイはため息をついた。
スズエの方は、
「スズエ!?何があった!?」
祖父のケンジロウが慌てた様子で飛んできた。
「ななな何でもないよ!おじいちゃん!」
「そうか?それにしては大きな音が……」
「あ!ご飯出来てるからあとで呼ぶね!」
話をそらすようにスズエが言うと、ケンジロウは首を傾げながら「分かった」と頷いた。
一緒に夕食を食べていると、
「そういえば、おじいちゃん!自由研究と小説と絵画で賞を取ったの!」
「オレも自由研究と工作で賞を取ったんだ!」
双子がそう報告をした。ケンジロウと祖母のカエコが二人の頭を撫でた。
「すごいな。どんな自由研究を提出したんだ?」
「「記憶と精神の関係性について!」」
「中学生が出すような自由研究じゃないわね……」
それは研究者がやるような研究であって、中学生がやるようなものではない。というよりどうやったんだそれは……。調べ上げたのか?
「レイさんとは話が合うかもしれませんね」
エレンが呟く。レイは「俺?」と首を傾げた。
「あー、確かに。兄さんはサヴァン症候群だろ?スズエはギフテッドでな、他の同級生とはなかなか話が合わないんだよ」
ランが苦笑いを浮かべる。ランは幼馴染というということもあり、スズエのことをよく理解している。ちなみに彼がやけに頭がいいのは彼女のおかげと言っても過言ではない。
スズエとレイが話をしてみるとなるほど、確かに中学生とは思えないほどの知識量があった。
「うーん……ランが頭よくなるのも分かるね……」
こんな子と関わっていたら、そりゃあ頭もよくなる……。弟が自分と違い、サヴァン症候群でもないのに頭のいい理由がよく分かった。
「レイ、だったか。君にならスズエを預けてもいいな」
「おじいちゃん!?何言ってるの!?」
祖父の突然の言葉にスズエは顔を赤くした。
「いいじゃないか。じいさんもお前の子供が見たいんだよ」
「もう、私まだ中学生だよ?」
「いいじゃない。私も見てみたいわ」
だって、あなた達には幸せになってほしいもの。
祖父母が孫を抱きしめた。
それは、本当にあったかもしれない未来。