幼き日の約束
スズエとシルヤの幼い頃の話です。
この二人、本当に仲いいんだよなぁ……。本当に誰だあんなことやった奴ら。
これは、スズエとシルヤがまだ小学生だった時の話だ。
「……シルヤ?何やってるの」
スズエがキョロキョロしている弟を見て、そう尋ねた。もう放課後で帰らないといけないのに何をしているのだろうか。
「あ、スズ。音楽室ってどこだ?」
「音楽室は上の階でしょ……」
ため息をつき、二人で音楽室に向かう。
音楽室には当然ながら、ピアノが置いてあった。
「ねぇ、ピアノ弾いていい?」
「先生にちゃんと言ったの?」
「うん」
それならいいかとスズエは頷く。シルヤはピアノを弾き始める。
彼が弾く旋律は美しかった。スズエが聞き入っていると、
「スズ姉も一緒に弾こうよ」
シルヤに誘われ、スズエは「しょうがないね」と隣に座った。
一緒に弾き始める。
「違うって!ここはこう!」
「厳しいよ、シルヤ」
シルヤは絶対音感の持ち主だ、ちょっとした違いでも気になってしまうらしいことを姉は知っている。
やがて、二人で歌い始めた。
「……ねぇ、スズ姉」
「どうしたの?シル」
「おれ、絶対にスズ姉を守るからね」
真剣な目でそう言われ、スズエはキョトンとした後、
「何言ってるの?私だってシルを守るよ」
弟にしか向けない小さな笑顔を、浮かべた。
悪い人なんていない。
だってみんな、傷つき傷つけて生きていくんだもん。
でも、ありがとう。あなたがそばにいてくれたから、私は私でいられたよ。
私、いいお姉ちゃんでいられたかな……?
意識が落ちる直前、姉は弟のことを想っていた。
お前が生きていてくれるならいい。
だってお前は傷ついてきただろ?だから、これ以上傷つかなくていいんだ。
ありがとう、守ってくれて。お前のおかげでオレは曲がらずにいられたよ。
なぁ、姉さん。オレ、お前の自慢の弟になれていたか?
意識を手放す直前、弟は姉の幸せを願っていた。




