裏切り者
スズエは同意書に名前を書いていないからこんな感じになるんだよなぁと……。
裏切り者がいる、という相手の言葉に、みんなが疑心暗鬼になっていた。
「…………」
そんな中、スズエは周囲を探索していた。
「な、なぁ、スズエは怖くねえのか……?」
マミがその様子のスズエに尋ねる。
「……みんなで怖がっていても、解決はしないですからね」
スズエは寂しげだ。せっかくまとまってきていたのに、また疑い始めたから仕方ないだろう。
「……あった」
スズエがノートを見つけ出し、その内容を読む。そして、頭の中にあった、欠けていたパズルがようやくはまった。
――あぁ、やっぱりそうだったんだ……。
「スズエ、何か分かったか……?」
ランが聞いてきた。スズエは「……うん」と頷いた。
「――多分、奴らの言う裏切り者って、私なんだってことがさ」
「は……?」
わけが分からないと言いたげな反応だ。もちろん気付いていたが、スズエは続ける。
「……私、さ。同意書に名前なんて、書いていないんだよ。みんなとは違ってさ。だから奴らにとって、私は「いつ死んでもどうでもいい人間」なんだよ」
「そんな……!そんなわけが……!」
「ラン」
否定しようとするペアを、スズエは真っすぐ見つめる。
「お前達は、「私のための舞台だ」って、言われていたんだろ?」
「………………っ!」
「多分、だけど……それって、私を「殺すため」の舞台って意味じゃないかな?」
参加者以外の人間を殺す……。もしそうだとしたら、納得がいく。
だって、こんなに優しい少女が、敵側とはどうしても思えなかったのだから。
「……別に、いつ死んでもいいやって思ってはいたけど……」
スズエの手から、ノートが落ちてしまう。ランはそれを拾って、内容を見た。
「みんなを遺して死ぬのは、いやだなぁ……」
同意書を書いていないものは、例外を除き脱出を認めない。
そう、書かれた一文が見えた。
「つまり、ロシアンルーレットとやらを私がやればいいのかな?」
目の前に置かれている拳銃を手に取り、スズエは呟く。
「……ねぇ、ロシアンルーレットのルールって知らないんだけど、どうやるの?」
「えっと……一つだけ銃弾を入れて、自分に銃弾が当たらないようにするっていう度胸試しだよ」
レイが答える。それに「ふーん……」と言っていたスズエだったが、
「それって、一つだけ抜いて、の間違いではなく?」
「……は?何言って……」
「あいつらにとっても、そっちの方が面白そうだと思うけど」
スズエは一つだけ抜き取って、それを自分の頭に突き付けた。
「ちょっ……!冗談はやめろよ!」
「いたって真面目だよ。大丈夫、まだ私が必要なら……ここで、死ぬわけがないから」
ランの制止の声も聞かず、スズエは引き金を引いた。
カチッ……。
乾いた音が聞こえる。それにスズエは息をついた。
「よしっ……と。これでここから出られるだろ」
何事もなかったように扉を見るスズエに、ユウヤは声をかける。
「す、スズエさん!死ぬかもしれなかったんだよ!」
「あぁ、大丈夫ですよ」
スズエは足元に銃口を向け、今度はためらいもなく撃ち抜く。しかし、弾がはじかれて血は飛び散らなかった。
「これ、飾り弾……偽物の弾だったので」
スズエがほら、と見せる。ケイが拾ってじっと見て、
「……本当だ」
小さく同意した。まさか、ここまで読んでいたのか。
「じゃあ、こっちは……」
「あ、それは危険ですよ。そっちは本物の弾です」
レイが触ろうとすると、スズエが止める。どうやら本物を取っていたため弾が出てきても死ぬことはなかったらしい。
「お前、よく冷静でいられるな」
ランが言うと、「そりゃあ、みんながパニックになっていたら嫌でも冷静になるさ」と答えた。
「冷静でいれば、視野も広かるものさ」
そう言いながらじっと拳銃を見て、
「……多分、これマイカさんが最初の試練の時に使っていたものですよ」
スズエの言葉に、ほかの人達は目を見開く。
「本物の弾を抜いて、それで頭を撃ち抜けっていうものだったんだと思います。まぁ、全部本物に見えるのでどちらにしても素人には難しいものですけど」
スズエは拳銃を手荒に投げ捨てる。
「……こんな、他人の命を理不尽に奪ったものなんて見たくもない」
小さく呟く彼女はどんな気持ちでこれを持っていたのだろうか。
「……早く出よう」
まっすく見つめる少女の目はうつろなものだった。