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DEATHGAME ~chaotic world~  作者: 陽菜
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シンヤルート 後日談

シンヤと結ばれた時の後日談です。

彼とは少し複雑ながら甘い雰囲気を目指したかった……。

「スズエ、ここ教えてくれないか?」

 シンヤが教科書を持ってスズエに見せてくる。スズエは「どれだ?」と覗き込んで「あぁ、これか」と教え始める。

 シンヤは高校に通えていない。近くに引っ越してきた成雲家のお嬢様に認知を変えてもらってシンヤは中学卒業と同時に仕事をしていて高校に通えなかったということになっているが、世間はいまだに学力主義なところがあって。

「また教えてもらっているよ」

「本当に、所長さんは彼のどこがよくて雇ったのかしら?」

「しかも彼氏なんだろ?趣味が分からないな」

 自称エリートである大卒の人達がその様子を見てコソコソとささやいていた。もちろんそれに気付いているのだが、

「……悪い、スズエ」

 シンヤは謝ってくるだけで、我慢してしまう。スズエは「いや、大丈夫」と小さく首を横に振った。

 事実、これは彼のせいではない。自分の母方の祖父母がしきたりにこだわりすぎていたがために起こった悲劇の最初の被害者で、本当なら彼だって高校に行って学んで、大学まで進学していたかもしれないのだ。

 なぜ彼が必死になって勉強しているのか。それはもうすぐで高卒認定試験があり、それに受かれば高卒と同等の知識があると認められて大学進学も出来るようになるからだ。学歴は中卒のままになるのだが、持っているのといないのではかなりの違いがある。だからこそ、スズエも大学に通いながら必死に支えていた。


 これは、まだ幼い頃の話。

 シンヤとユウヤはスズエを守ろうと二人で誓い合った。

「ユウヤ、絶対守るぞ。あの子はボク達の大事な妹だからな」

「うん、わかってるよ、お兄ちゃん。絶対守る」

 何度か会った茶髪の女の子を思い浮かべながら、二人は頷きあった。最初に会った時はあんなに元気だった少女が、最後に見た時はとても暗くなっていて守らなければと思ったのだ。

 それからエレンとも再会し、アイトも合流した時だった。咲祈家の人間が祈花家に詰め寄ってきた。

「あの娘を守ろうとしているんだって?」

「彼女は咲祈家の血筋を引いています。守るのは当然でしょう」

 それを聞いて、シンヤはあの子のことを話しているのだと気付いた。

 押し問答が続き、ついに痺れを切らした咲祈家の人間がシンヤの腕を掴む。

「ならば、この子の命をちょうだいする。お前達は規約に反したからな」

「ま、待ってください!」

 父の言葉は届くことなく、シンヤは無理やり車に乗せられた。

 しばらく地下牢に閉じ込められていたシンヤは七守家――モリナと呼ばれていた人物――に連れていかれ、そのまま贄として殺された。


 それからは、知っている通り。デスゲームの主催者として彼女――スズエを恨みながら人形として生きてきた。大人になった人形の姿があったのは、ユウヤの姿とAIの鑑定から作っていたからだったそうだ。

「シンヤ?どうしたんだ?」

 スズエが覗き込んで来る。シンヤは「いや、何でもない」と笑った。

 この女も物好きだなとシンヤは思う。操られていたとはいえ、自分を殺そうとしていた男と付き合うなんてよほどな命知らずだ。

「なんだ?何か言いたいのか?」

 スズエがジッと見てくる。シンヤが「だから何でもないって」と答えるとため息をつかれ、「ちゃんとこっち見なさい」と頬を両手で包まれてスズエの方に向き合わされた。

「……何か隠してる?」

「いや?ただお前も物好きだなって思ってただけだ」

「ふぅん……まぁいいけど」

 ほら、ここはこう解くんだとスズエは何事もなかったように教え始める。シンヤは素直にスズエに教えてもらったことをノートに書いた。



 それは、給料日に起きた。

「所長さん!どういうことですか!?」

 突然所長室に一人の社員が入ってきて、スズエは目を丸くする。

「どういうことって?」

「おれ、大卒なんですよ!?なんで高卒より給料が低いんですか!」

 あー……こいつ聞いてなかったなとスズエはため息をつく。

「あのね、私、最初に言ったハズだよ。ここは学歴じゃなくて実力主義で評価してるの。真面目に仕事をしていたならその分上乗せさせるし、そうじゃなければ最初の給料と同じまま。別に贔屓しているわけじゃない」

「でも」

「私は別に終わらない仕事は振っていないハズ。それを毎日自分でこなしていたらほかにも仕事を振れて給料も上がる。そんな仕組みだって言わなかった?」

「そ、それは……」

「あと、真面目にやれば午前中で終わるように調整しているから。副業オッケーにしてるし、昼はそっちの方やるって人もいるよ。ちゃんと会社にいれば給料が引かれることもないからね。給料に不満があるならそうしたらいいよ」

「ぐっ……」

 実際、ホープライトラボは副業オッケーで何なら業務中にやってもいいという超がつくほどのホワイト企業なのだ。

 彼が出ていくと、シンヤが「言い返してよかったのか?」と聞いた。

「事実を言ってるだけだよ。ちゃんと規約にも書いてあるし、パワハラだなんだと言われてもいいよ」

「お前らしい」

 スズエはもともとそんなところがあった。社員達は所長がパワハラなんてしないと分かっているため、騒いだところで意味がないのだが。

 数日後、スズエが来ると騒ぎになっていることに気付いた。

「どうしたの?」

 声をかけると、一人が「こいつが盗みを働いたんです!」と訴えた。

「……はぁ」

 その人は前に給料が低いと言っていた男が疎んでいる青年だった。高卒で、家族のために進学はせずパートで働きながらバイトも掛け持ちしていたところを偶然通りかかったスズエが誘ったのだ。

「……証拠はあるの?」

 彼は真面目だ、そんなことをするわけがない。しかし事情を聞かないことには判断も出来ない。

 案の定、訴えた男は「あ、えっと……」と焦り始める。やはり勝手に決めつけていただけかとスズエはため息をつく。

「……それなら、監視カメラでも見ようか。盗まれたって言うなら証拠もあるでしょ」

「い、いえ!そこまでしてもらわなくても……!」

「なんで?困ってたから決めつけていたんでしょ?」

「え、えっと……その……」

 スズエに詰め寄られて、観念した男性は白状した。

 どうやら、盗んだのは自身であったがやめさせられるかもしれないと思って他人のせいにしたらしい。

「はぁ……くだらない。あのね、いくらここがホワイト企業だからって他人に迷惑を掛けたら処分を考えないといけないの。何らかの事件なら、クビも考えないといけない。とりあえず、事情を聞かせてくれる?場合によっては警察に通報しないといけないから」

 そう言うと、素直に従った。

 給料の件がどうしても許せなかったらしく、困らせたかった。スズエが彼をクビにしてくれるかもしれないと思ってやった……と聞いてスズエは頭が痛くなった。

「……とりあえず、仕事関係のものを盗んだだけで他人のものは盗んでないんだね?」

「は、はい」

「……なるほど。だったら、今回はそれを返して相手に謝罪してくれたら特に処分は下さない。でも、次はないと思っててね」

 それだけ言って解放する。

「まったく……他人に迷惑をかけないでほしいよ……」

「お前、本当に優しいよな」

 それを見ていたシンヤが告げると、スズエは「彼にも家族がいるからね、やめさせるわけにいかない」と答えた。

「ただ、次は本当にないよ。問答無用でやめさせる」

「まぁ、仕方ないよな……」

 シンヤは苦笑いを浮かべる。この場合、スズエの対応が優しいぐらいだ。



 高卒認定試験の日、スズエに会場まで送ってもらった。

「頑張って来いよ。私はここら辺にいるから、終わったら連絡くれ」

「あぁ、ありがとう」

 シンヤはスズエの唇に自身のものを重ねる。

「これで頑張ってこれそうだ」

「お前な……」

 耳まで真っ赤になったスズエを見て、本当に頑張れそうだとシンヤは笑った。

 その一か月後、

「スズエ!合格した!」

 シンヤは嬉しそうにスズエに報告した。スズエは「よかったじゃないか」と笑いかけてくれた。仕事の合間に勉強を教えたかいがあった。

「これで大学にも行けるな」

 スズエがこれを取らせたのは、いつでも大学に行けるようにするためだった。高校に通うとなると三年間は通学しなければいけない。仕事をしながらとなるとかなり大変だ。それならすぐに取れるこっちの方がいいだろうと判断したのだ。

「本当にありがとな、スズエ」

「いいさ。これぐらいしか出来ないしな」

 スズエはスズエなりに、彼に罪悪感を抱いていた。もし母親が、母方の祖父母達がしきたりにこだわらなければこんなことにはならなかったとに、と。

「……スズエ、何を考えているのか分からないが」

 それを見ていたシンヤが口を開く。

「ボクはお前を恨んでいないし、ユウヤだってお前のせいだと思っていない。だから自分を責めるな」

「……シンヤ」

「スズエ、助け出してくれてありがとう」

 シンヤがスズエを抱きしめると、彼女は震える腕を彼の背に回した。

「……大好き」

「ボクも、愛してる」

 その言葉は二人きりの空間に消えていった。

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