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4: とんとん拍子ってやつですか?

「父ちゃんせめて着替えたら?」

 スーツ姿のまま缶ビールをあおる父は、部屋着に着替えるため和室に向かった。

「…カインズ、アタシ気になっとったんやけどな? どういう経緯でワールドクリスタルを手に入れたんや?」

 美波みなみに尋ねられたカインズはこう答えた。

「俺はただいつも通り、金目のものを持ってそうなやつを狙ったんだ。今回の場合その相手はランドブレイクだったわけだが…」

 カインズはランドブレイクを横目に見ると言葉につまった。ランドブレイクは脚を組んだまま冷たい視線を送っている。

「ほうほう…ほんで? ランドブレイクからまんまと盗んだわけだ」

「違う! この男の持ってるものがワールドクリスタルだと分かったから、取り返したんだ…一度はクビになったが、神器を奪還したとなればまた雇ってもらえると思って…」

 カインズは下を向いたまま、どんどん声が小さくなっていった。


「父ちゃんのスウェット知らんか…って、どないしたんやお2人さん…」

 父親は小声で美波に話しかけた。赤髪のカインズは出産を待つ父親のように指を組んで座り、ランドブレイクは腕組みのまま目を瞑っている。


「美波…とんだ思い違いだったよ…」

「え、どしたん急に」

「やっぱり俺は帰れない…」

 カインズはやつれたような顔でつぶやいた。ランドブレイクはその様子を左目だけ開いて見守っている。


「なんや兄ちゃん…ご家族とケンカでもしたんか?」

 父親はしゃがみ込み、ソファの後ろから優しく声をかけた。

「ケンカ…そんなところかな…取り返しのつかないことをしてしまったんだ…」

(物は言いようやな…護衛兵クビになって盗賊…そりゃ今さらイメージアップはムズいやろうけど)


 美波は冷蔵庫のコーラを飲もうと立ち上がった。


「どうしても帰りとうないんやったら、今日は泊まってくか?」

「…ふぇ?」

 美波は妙な声とポーズで振り返った。

「そんな…! 長居するだけでも申し訳ないのに、泊まらせていただくのは…」

「…うん、は〜い」

[ピッ]

「母ちゃんにも確認とったで! 今日1日ぐらい全然かまへんよ!」


(うっそ〜ん…)


 父親の手を取り深謝しんしゃするカインズ、「そのかわりご家族と早く仲直りしなさい」という旨を伝える父親、呆気にとられて顔を見合わせる美波とランドブレイク…

 そのときランドブレイクは、突然手を挙げた。


父君ちちぎみ、私も一晩泊めてもらえないだろうか?」

(ずいぶんとデカい賭けに出たな…)


「自分もなんか事情があるん?」

「実は私…家がないのだ」

(もっとデカい賭けに出たな!?)


 ランドブレイクは体育座りをして顔をうずめた。いかにもな哀愁の眼差しで。

「家がないって自分…何事なん!?」

「それが自分でも分からないのだ。気がつけば違う世界にいた…自分の名前以外なにも覚えていない」

 それを聞いた美波とカインズは「さすがに無理がある」という顔をした。だが…父親は違った。

「ホンマかいな!? え…記憶喪失ってこと!? イギリスのピアノマンみたいな!?」

「いぎ…ああ、記憶があやふやなんだ」

(あれって確かデマやなかったっけ…)


「うおお! ごっつおもろいやんけ! ええでええで泊まってき! 1日と言わず何日でも泊まってええで!」

 父親はカインズとランドブレイクの間に強引に割り込み、グイグイと迫った。

(なんて現金なやつなんや…)

「かたじけない…ああ、なんだか優しくされると記憶が戻るような気がする…」

 それを聞いた父親は横から肩を揉み始めた。


「なぁ…美波の父親っていつもこんな感じなのか?」

「…外ではこんな感じなのかもしれんって考えたらゾッとしたわアタシ」


 美波は、ミーハーでお節介な父親の行く末が心配になった。ちょうどその頃、ランドブレイクの口から意外な言葉が出てきた。


「父君、私という人間はたしか…料理が得意だったと記憶している。食事がまだだというのなら、せめてもの報いとして振る舞わせてもらえないだろうか?」

 真っ直ぐな瞳で訴えかけるランドブレイク。

「おお…もしかしたら記憶をなくした凄腕の料理人かもしれへんな。そんじゃ晩ご飯よろしくお願いします!」

「うむ。…ミナミ」


 立ち上がったランドブレイクは突然美波の名前を呼んだ。手招きしてリビングの外まで誘導する。取り残された父親は、カインズに励ましの言葉をかけ始めた。

「どしたんよ?」

「ミナミ、料理ができるというのは本当だが…私は食材のことをよく知らない」

「ありゃま。本末転倒ほんまつてんとうですな」

 暗い廊下に2人、リビングの扉越しの光がランドブレイクの背後を照らす。


「ミナミには悪いが、ある程度の説明を頼みたい」

「それくらいやったら全然かまへんよ。…けど、なんでまた料理を?」

「1日お邪魔するのだ。ある程度の借りは返すつもりだぞ?」

 2人は口を閉ざした。テレビと父親の声だけが小さく聞こえてくる。


「…あんたホンマに魔王なん? カインズみたいに、勇者かな…兵士かな…盗賊でした! …って感じで、実は魔王じゃなくて…みたいなパターンやないの?」

「いや、私は正真正銘の魔王だ。あのような性悪しょうわる青二才あおにさいと比べるな」


 程なくして…

「ランちゃん3分クッキング〜!」

「腕によりをかけようではないか」


 壁付けキッチンに並ぶ2人。冷蔵庫の前に立つ美波のもとにカインズがやってきた。

「おい…本当にこんなやつに任せていいのか? 毒でも盛られるんじゃ…」

「このキッチンに毒なんてないし、変なもん入れんようにちゃんと見張るから!」

 ヒソヒソと話したのち、カインズは渋々キッチンを離れた。


「いやぁ…自分の名前以外なんも知らん人が料理だけは覚えてる…ドラマやねぇ」


 腕組みをする父親はしみじみとつぶやき、やがてソファまで戻っていった。


「実際のところ…記憶喪失よりよっぽど不思議なことが起きとるんやけどな…」

「しーっ…ところで、ミナミというのは下の名前か?」

「うん、そうやけど」

 キャベツを切り始めたランドブレイクはそう尋ね、美波は冷蔵庫にもたれながら答えた。


「名字はなんだ?」

浜安辺はまあべやで」

「ハマーベ…ハマーベ・ミナミか。華麗な女性を彷彿とさせる名前だな」

「アタシが綺麗なのは名前だけで顔はそうやないって言いた…」

「いや違う」

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