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2: 2人の変態をどうしますか?

(さすがはママさんバレーきってのアタッカー…暴漢を一撃で…)

 美波みなみは母親の腕力に感心していたが、そのような余裕はないとすぐに気がついた。

(この…カインズ? とかいうやつは一旦置いといて…問題はこの2人目の変態やな…てか母ちゃんも大概やな!? 見知らぬ全裸が廊下で伸びとるんやで?)


「カインズさん!」

「はいっ!?」


 母親は突然カインズの名前を呼んだ。次に鉄拳を食らうのは自分の番かと思ったらしい。

「そこのランドブレイクさんに言うといてや。殴ってしもうたんは謝るけど、次から遊びに来るときは服ちゃんと着てくださいって」

「あえ? は、はい…?」

 どうやら母親の目には、カインズとランドブレイクは友人関係として映っているらしい。

カインズは困惑したが下手に否定できなかった。


「よし…ほなちょっと着替えてくるから…カインズくんはゆっくりしよってや!」


 玄関に3人を残し、すぐ隣の和室に入っていった。

「なぁ…お前の母さん、どっか行くのか?」

「うん…確実にアレやと思う…」

「アレ?」


 程なくして、年季の入ったスポーツバッグを肩にかけた「バレー仕様」の母親が出てきた。

「行ってくるわ。美波! …とりあえず胃袋掴んどき?」

母親はニヤニヤしながら家を出ていった。

(胃袋掴むて…変態の? いうて変態2人おんねんけど)




「…で、あんたこれからどないすんの?」

「ワールドクリスタルも取り返したし…とりあえず元の世界に戻ろうと思う」

「はぁ…元の世界に…この男はどないすんの?」

 いまだ仰向けのまま動かないランドブレイクを見てカインズは考えこみ、うなった。


「…とにかく俺は戻る。邪魔したな」

「え、ちょ…」

カインズは美波に一瞥いちべつもくれずに風呂場に向かった。

「やめてやぁ! あいつ仮にも魔王なんやろ? 魔王なんかと2人きりになったら…わて壊れまっせ!」

「魔王とて魔法の使えないこの世界ではただの貧弱男だ。なんとかなるだろう」


 そう言うとカインズは、バスタブに入ってカバーをかぶった。

「怖いってマジで! どないしたら…あいつの手足縛ってボコボコにした方がいい?」

「お前の方が断然怖い。ではさらばだ」


 取り残された美波は恐怖と失望とで地団駄を踏む。

「も〜う! 普通女の子ひとり置いて逃げるか? その筋肉は女を守るためにあるんやないの!? イチモツと図体だけは無駄にデカいんやなアンタって人は!」

「だぁぁぁ! うるさくて転移できねぇだろう、が…」


 カバーを開けて逆切れするカインズは、美波の後ろの廊下を見て青ざめた。

「ちょっと待ってや…そんな顔されたらもうフラグ以外のナニモンでもないやん…」

美波は後ろをゆっくりと振り返った。


「…っ!」


美波は声にならない短い叫びをあげた。

仰向けで気絶していたときは気づかなかったがこの男…かなり背が高い。

見下すように美波を見つめるその目に光はなく、この世のものとは思えないほど冷たい。




「ワールドクリスタルを盗んだ挙句、そのような狭い水槽に私を閉じ込めたわけだが…」

 地面を揺るがすような低い声は怒りに満ちている。

「ぬ、盗んだも何も、ワールドクリスタルは最初から王国のものであって…」

「やかましい!」


 ランドブレイクの叫びを聞いた2人はその場に固まった。

(こ〜わ…やばい奴やん! 威厳がケタ違いやもん! とてもやないけど母ちゃんにワンパンで…いや待てよ?)


「よくよく考えたらあんた全裸やん!」


 美波は緊張した顔つきから一転…ツッコミの顔つきになった。

「は?」

「おいおい…」

ランドブレイクは間抜けな声を出し、カインズは頭を抱えた。

「あんた自分が見えてないんか? 言うとくけどあんたブランブランやで」

 ランドブレイクは魔王らしいが、姿形すがたかたちは限りなく人間に近かった。黒髪で手足があり、体は少し細い。瞳は赤いが人間と呼んで差し支えがない。


「ブランブラ…み、見るな!」


(今さらかい…)

 ランドブレイクは手で隠したあと、洗面所の廊下側の扉を少し閉めた。

「魔王にも羞恥心ってあるんやな…カインズ! 戻れそうか〜?」

 美波はランドブレイクに背中を向け、ペタペタとバスタブに近づいた。

「バカ! あいつの前で名前呼ぶんじゃねぇよ!」

カインズは小声で訴えた。

「それはそうと、元の世界に戻れそうかって聞いてんねん」

「…無理みたいだ」


 カインズは力なくつぶやいた。

「なんでなん?」

「おそらくだが、1日に1度しか転移できないのかもしれない…」

「なんやそれ! このバスタブ欠陥品やん。クレーム入れたろ…どこの会社や? DODOドードー? ガラクタスタンダード?」


「貴様ら一体なんの話をしているのだ!」

 半開きのドアからランドブレイクは抗議してきた。

「ランドブレイクさん」

美波は手招きした。無論カインズは怯えた。

「何をする気…」

「カインズ、はよどいてや」

 美波はカインズを洗面台のあたりまで移動させた。

カインズはランドブレイクのすぐ隣を横切ったのでヒヤヒヤしている。


「ちょっと試しに元の世界に戻ってもらっていいですか?」

「こいつが簡単に従うわけが…」

「…いいだろう」


 カインズは驚いた。美波も驚いた。

「私を誰だと思っている? 魔王ランドブレイクだぞ! 1日に1度しか転移できない無能と比べられては困るな!」

(半分カバーかかったバスタブからそんなこと言われたらなんかオモロイな…)


「…カインズといったかな?」

 名前を把握されたカインズは、突然名前を呼ばれて体をこわばらせた。

()()()は私が頂いたぞ!」


 ランドブレイクが隠し持っていたそれを見て、美波はハッとした。視線を逸らしていたカインズも慌ててバスタブを見る。

「ワールドクリスタル…!?」


 ジーパンのポケットから盗まれたそれは魔王の手元にあった。

「抜かったなカインズよ! せいぜい丸1日! この世界で歯を食いしばってろ! はーっはっは!」


 高笑いする魔王を紫色の光が包み込む…


ようなことはなかった。

「…あれ?」

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