8、化け物と涙(1)
翌朝、俺は早くにギルドへと向かった。
受付でお姉さんから砂川との待ち合わせ場所と簡単な仕事の内容を聞き、先に待っているであろう砂川の元へと急いだ。
その途中、道端で野良猫に出会った。白と黒のぶち猫だ。自然界で生き残るには保護色が必要だが、街中なら餌をもらえたり漁ったりもできる。生き残ることが難しかった白や黒の毛色を持った動物たちも今はこうして生きていける。俺のようなスキルなしもこうして仕事にありつくことができる。
俺は猫の縄張りを壊さないように静かにそこを通りすぎた。
待ち合わせ場所は問題の民家のすぐそばの空き地だった。知っている場所なので説明を聞いただけで着くことはできる。仕事は魔物狩りだ。民家に棲みついているらしい。対象は一頭で捕獲を試みたが失敗に終わっている。よくわからない術を使うそうだ。
今回は三人で行うということだった。俺のことはできるだけ表には出さずにやっていくそうだ。源力にとどまらず俺は抜庭という特殊な体質らしいから、俺としてもそうしてもらった方がありがたい。
砂川がどこまで知っているのかはまだわからないが、今回の任務も本部から届いたものだということだ。携帯の電源は現場の指示に従うように言われた。もう一人は魔法スキルを使う人なのだろうか。
そうしているうちに空き地が見えてきた。砂川と、もう一人長身の男が入り口に立っている。空き地に着くと挨拶をしてきた。
「冬介。今日から大体の仕事で多分一緒になる斉藤だ。役どころはお前と似ていて普段はあまりギルドには出入りしていない」
「斉藤政次といいます。よろしく」
「相葉です、よろしくお願いします」
斉藤という男は長髪を後ろで束ね、眼鏡をかけ、何故か目を閉じている。眼鏡をかけているから目が見えないわけではないだろう。黒い上着から一枚の用紙を取り出した。民家の間取り図のようだった。それを砂川に渡した。
「内容を説明するぞ。今、斉藤が見ている目の前の民家の西の部屋に問題の指定対象がいる。処理項目は討伐D。捕獲Cから討伐Dに昨日移った。俺たちの行動に合わせてギルドが昨日移したのだが、本部からの命令も討伐処遇だから構わない。対象は家畜用の猫だ。飼われている間に獪転したようだ。原因はわからないが、この家は近所の捨て猫を集めて飼っていたらしい。飼い主と他の猫が全てその猫に殺害されている。これがそのときの現場の写真だ」
そう言うと砂川は数枚の写真をその場に座って地面に並べた。年配の女性とたくさんの猫が死んでいる姿が写っていた。
「数日前に捕獲を試みたが布陣か銃技かわからないがスキルに阻まれて近づけない。遠距離の攻撃も当たらない。仕方がないので斉藤を呼んで討伐処分に切り替えることになった」
「どうしようもないときは【圧殺】で処分します」
そう言うと斉藤は、空き地の中から黒い竹筒と木槌を持ってきて地面に同じように並べた。
三番銃技【圧殺】。
細長いものを用意し、端に衝撃を入れ、その反対から衝撃を飛ばす。込める衝撃は蓄積が可能だが、込めすぎると暴発してしまう。集中力を途切れさせないようにすることが肝心だ。携帯の電源はおそらくこれのためだろう。
「どうしようもないときは? それ以外に何かやるのですか?」
俺がそう聞くと、砂川は予想通りのことを言ってきた。
「もしかしたら、相手のスキルを源力で破れるかもしれん」
やっぱりそうか。でないと俺が来た意味ないものな。
時間はまだ朝だった。魔物になっても猫は普通に眠るのだろうか。
二人は荷物を仕舞い、準備に入った。砂川が切り込んでスキルを発動させるそうだ。砂川は布陣スキルに長けているから防御は大丈夫だろう。その後に俺が続く。危なくなったら斉藤が撃つ。
ギルド員としての初任務だ。
俺は静かに携帯の電源を落とした。