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40、修行

 食堂の前の庭にやってきた。ここで修行を始めるようだ。


「霜天に浮かぶ雪雲。天よりも儚し」


「何ですか、それ」


「氷威の詠唱文だ。スキルの詠唱文覚えるの好きなんだ。スキルは使えないけどな。こういうの何ていうかわかるか?」


「わかりません」


「ハリボテのプーさん」


「おい、くだらないことを言ってないで始めるぞ」


 そう言うと四人は庭の真ん中で向かい合った。


「今日のお題目は体気煥発(ダブルフォーム)だ。筧、お前使えるか」


「いえ、お恥ずかしながら獲得しておりません」


「なら丁度いい。これから教えるからな」


「はい先生」


 レクチャーが始まった。俺も使えないからしっかり聞かなくては。


「体気煥発の覚え方は少し変わっている。ユニークといえるかもしれない。ただ筋トレをする。それだけだ」


「筋トレ? 腕立て伏せですか?」


「そうだ、腕立て伏せだ。しかしただの腕立て伏せじゃない。これ以上は続けられないっていうくらいの限界近くの腕立て伏せだ」


「限界近く……」


「そんな腕立て伏せをしていると極稀に覚醒(クラッシュ)する。確率で言うと大体千分の一くらいだ」


「千分の一……」


「覚えたければひたすら腕立て伏せだ。限界を超えた辺りからが本番だ。千分の一を引くまでやり続ける。上手く引き当てればスキルが発動する。それまで苦しかったのが嘘のように何の負荷もなく腕立て伏せができるようになる。それが体気煥発だ」


「運ゲー、ってやつですね」


「その通りだ。では試しにやってみるか」


 俺たちは芝草に手をついた。


「お前たちなら百回くらいが限界だろう。まずは百回だ。では、始め」


「うおおおおおおおー」


 ものすごい勢いで筧が腕屈伸をしていく。俺も遅れないように続く。とにかくまずは疲れるところまでいかなくてはならない。

 体気煥発は女子供でも俺たち大人でも関係なく均等に覚醒の機会がある。確かにユニークだ。五十回を超えた辺りでもう腕が麻痺してきた。まだ足りないのだろうか。


「そろそろか。限界を超えるつもりで頑張れ」


 猿田とノエルは何の苦もなく腕立て伏せを行なっている。体気煥発が入るとそうなるようだ。


「ぐぐぐ、もう立てませえん」


「頑張れ、そこからがスタートだぞ」


「い、いぃーち。にいーい」


 俺も限界だ。結構大変だ。


「視界が開けて意識が澄み渡るように負荷がなくなるんだ。限界からの一回が大事だ」


「い、いっかあーい。にかぁーい」


 筧は声だけで腕が動かなくなっている。俺もここまでだ。


「よし、今日はこの辺でいいだろう。あとは自主トレだな」


「う、うぃーす」


 気がつくと宿舎の二階の窓から若い女がこちらを見下ろしていた。両手で頬杖をついて興味深そうに見ている。


 筧もそれに気づいて手を振った。女も振り返した。

 食堂からもこちらを見ながら笑っている者が数人いる。

 四人でひたすら腕立て伏せを始めれば目立ってもしょうがないかもしれない。

 筧は芝生に座り込んで腕を揉んでいる。俺も腕が震えている。


「ああー、綺麗な空だ」


 仰向けになって寝転がった。

 俺も空を見上げた。猿田とノエルは全く疲れた様子は見せない。ひつじ雲が浮かんでいる。のどかな午前中だった。

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