2、既に持ってた
運んだのは本のようだった。
それなりの量で革のかばんごと渡され、それを背負って届けた。かばんだけをギルドに返す。
報酬は紙幣と硬貨を選べるようだった。
紙幣は白井でのみ使えるお金だ。硬貨より少し多くもらえる。硬貨は金属自体が価値を持つ、他国でも使えるお金だ。
白井から出るつもりはないから紙幣でもらう。届け先の老父は銅貨をくれた。冒険者だと思ったのかもしれない。
白井第二ギルド支部。
俺の故郷、道楽にあるギルド支部だ。
白井本国からは離れているが、この田舎町にもこうしてギルドがあって助かっている。
支部の一階で大人たちが屯している。
一人がこちらを見た。
ずっと見てるな、何だろう。
報酬をもらい、外に出ると夕方だった。往復で丸一日かかったようだ。
家に帰ろうとしたとき、後ろで声がした。
「おい、よお。こら、ガキ」
さっきの大人だ。
吸いかけの紙巻たばこを持った手で俺を指差しながら近づいてくる。
――何ですか。
目線だけで答える。
表に出るとその男は、手のひらの上で火気を放ち、吸い終わったたばこを灰にした。
冒険者のようだ。
パラパラと灰を落としながら俺の前に立つ。
「どこ行ってきた、お前」
「? 相馬村ですが」
崩れた身なりをしているが目付きが鋭いその男は、その後、無言のまましばらくそこにいた。
何も言わずに立っている。
俺は返答に窮してその場を離れようとした。
すると、突然ギルド員が慌てて近寄ってきた。
「砂川さん、一般の方への簡易キャストは禁止行為です~!」
さっき対応してくれた女の人だ。
エスキャストだって?
一体何のスキルを出してるんだ?
スキルには二つの発動経路があり、体に覚え込ませたスキルを集中力なしでその場で放つことを簡易キャスト。
集中力や詠唱を用いて威力を上げたものを正式キャストと呼ぶ。
「……七番、不可。四番」
「え、止めてください!」
四番?
もしかして、布陣スキル出してるのか?
四番布陣スキル、「地獄針」。
実際に物理的ダメージを与える威圧スキルだ。
防御ゼロで受けるとかなりの衝撃をくらう。
針のような鋭い攻撃ではなく殴られたような衝撃が入る。
相手が何かに集中しているのはわかるが、何も感じない。
本当にやっているのだろうか?
「……」
「……」
沈黙が流れている。
ギルドの担当員のお姉さんは呆気にとられているみたいだ。
口を開けて呆けている。
ということは本当に出しているのか、何も感じない。
「あ、あの……」
――何ですか。
「あなた、一般人よね?」
――失礼なこと言うな、このお姉さんは。
「砂川さん、明日に障りますので……」
「ちっ」
そういうと、砂川とかいう男は集中を解いて俺に銀貨を一枚投げてよこした。
何なんだ、一体。
砂川はそのまま振り向いてギルドに戻っていった。
「ごめんなさい。あの人この支部の夜番だから。あの、本当に、体大丈夫ですか?」
夜番? 要するに一番力があるってことだ。
そんな人が何で俺に喧嘩腰なんだ?
「明日、大きな任務があって、うちの戦力で遂行できるかわからなかったところなんです。あなたに何か気になったのかな? 一般市民だって知らなかったのね」
そういうことか。俺はただの一般人だし、あんな人が手を焼く仕事関われるわけがない。
でも一応、聞いてみるか。
「どんな任務なんですか?」