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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第九十五話  青の聖騎士7

神力しんりき随分ずいぶん上手うまく扱えるようになったわね」


 髪と目の色が銀色となったエルマーを見ながら、レイラが感心した声を上げた。


「青の聖騎士となり六年以上経ちましたから。やはり慣れでしょう」


「慣れねぇ。私は何度教わっても神力を扱えなかったから、慣れるも何もなかったわ」


「信仰心が足りないのでは?」


 からかいを含んだエルマーの言葉に、レイラは肩をすくめてみせた。


「それは認めるわ。あなた方のように女神への信仰を全ての中心にえて生きていくなんて、私には無理だもの」


「では神力に関しては諦めて下さい」


「私、諦めが悪いのよ」


「存じております。ですが神力を扱えなくともレイラ様は充分お強いではありませんか。これ以上の力を求められなくとも良いのでは?」


「事が起こった時に何も出来ずに非力である事が嫌なのよ」


「今回の様に、ですか?」


「えぇ、そうね」


「では、その様な場合には、遠慮なく私をお呼び下さい」


「忙しい人をそうそう呼び出せないわ」


「構いませんよ、レイラ様の為ならば。貴女から受けた恩を思えば、そのくらい大した事ではありません」


 教団という狭く特殊な環境の中で、エレイラとエルマーへ生き残るためのすべを教えたのがレイラだった。


 二人にとりレイラは師であり恩人だ。


「まぁ、殊勝しゅしょうなこと。ふふふ…」 


 レイラの含み笑いにエルマーは一瞬だけ僅かに笑んで返すと、眠るウィリスへと向き直った。


「では、始めましょう」


 杖の先の貴秘石へとエルマーが銀色の光を集め、祈りの言葉を口にする。


「我、女神フロディアのしもべにして、女神の御力みちからの欠片を与えられし者なり。我が願うは女神の一雫を覆いし悪しき力の真の姿。ゆえに我は女神より与えられし力をちて、悪しき力の真の姿をあばく」


 エルマーが杖に集められた神力をウィリスへと向けると、ウィリスの体が銀色の光に覆われた。


 しばらくすると銀色の光が収まり、そして、ウィリスからは紫色のもやが立ち上がった。


「これは、人による呪術ではありませんね」


 紫色のもやを視認したエルマーが眉をひそめる。


「この色は、まさか魔族?」


「はい」


「魔族がこの子に関わるとなると、狙いは湖底神殿の鍵かしら?」


「グレナ伯爵を狙うのであれば、恐らくそうでしょう」


「では、ローシャルム子爵家はあちら側に付いたのね。何とおろかな…」


「グレナ伯爵位をえさに利用された可能性もあります」


「調べられる?」


「もちろんです」


 レイラはこめかみに手を当てると、一つ大きな溜息を吐いた。


「これは教団に大きな借りが出来そうね」


「魔族と湖底神殿に関係している可能性がある以上、この問題は我々の問題でもありますし、こちらとしては風の若君をお借りする立場ですので、然程さほど気になさらなくともよろしいかと」


「まぁ、そうだけど。厄介やっかいだわ」


「神殿の鍵は今どちらに?」


「今は私が持っているわ。ファウスの庇護下にいるとはいえ、まだこの子が持つには危ないもの」


「確かにそうですね」


「それで、これ祓える?」


 ウィリスを覆う濃紫こむらさきもやへとチラリと目を向けたレイラに、エルマーは

「やれる限りの事は致しましょう」

と答えると、杖へと神力を集め始めた。


「我、女神フロディアのしもべにして、女神の御力みちからの欠片を与えられし者なり。我が願うは女神の一雫を覆いし悪しき魔の力の消滅なり。故に我は女神より与えられし力をちて、悪しき魔の力をはらう」


 先程よりも多い神力が杖に集まる。


 それをエルマーがウィリスへ向ければ、ウィリスを覆う紫のもやが銀色の光に飲み込まれていき、やがて靄が消え去った。


「とりあえずこれで一安心かしら?」


 安堵あんどの表情を浮かべたレイラの隣で、ウィリスをじっと見ていたエルマーが舌打ちした。


「チッ。根付いていたか…」


 消えたはずの紫の靄が、僅かではあるが再びウィリスを覆っている。


「これはいったい…」


 驚くレイラに、エルマーが僅かに悔しさをにじませた声で応えた。


「呪術の一部が心に根付いてしまっているようです。これ以上は神力では消し去れません」


「神力で呪術を消し去れないなんて事があり得るの?」


 眉を寄せるレイラへ、エルマーが淡々と語る。


「神力は女神の雫である三種族に害を与えることは出来ません。ですから、呪術を消し去る事で心身に何らかの害が及ぶと判断された場合には、その部分に対して神力は及びません。恐らく今回は、無理に呪術を消し去ると、記憶に傷が付くと判断されたのだと思われます」


「では、これ以上は何も出来ないと?」


「いえ、巫女様のお力を借り受ければ、無理にでも呪術を消せます。ですがその場合には、呪術が根付いたと思われる負の感情の原因となっている記憶が消えるでしょう」


「どの程度の記憶が消えるか分かる?」


「申し訳ありませんが、分かりかねます。負の感情の原因となる記憶の量は人それぞれですので」


「そう…」


 失望感を込めた一言を漏らしたレイラへ、相変わらず感情を込めない声でエルマーが言った。


「ですので、私の権能を使用してみようかと思うのですが、いかがでしょうか?」


 そのエルマーの発言にレイラがハッとなった。


 エルマーの言う権能とは、青の聖騎士が女神より与えられた力で、それぞれに異なる能力が授けられている。


 ある者は空を飛び、ある者は遠見をし、またある者は他者に模す。


 そして、エルマーが与えられた能力は…。


「確か、精神への侵入、だったかしら?」


「はい。グレナ伯爵の心に中に入り、根付いてしまった呪術の一部を引き剥がしてみようかと。上手く引き剥がせれば、巫女様のお力をお借りしなくとも、私の神力で呪術を消す事が出来ます」


「お願い出来て?」


 険しい表情のままエルマーを見据えるレイラに、エルマーは聖騎士の礼をり言った。


「お任せ下さい。風の女王」

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