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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第九十二話  青の聖騎士4

 フロディア教の教典では、魔族とはこの大地を築いた女神フロディアが生んだ三種の命の一つだ。


 しかし、大いなる魔力を持った種族である魔族は、その力に溺れ、女神の生み出した他の二種族である人族と精霊族を迫害し、女神の御力みちからが宿るこの大陸を魔族だけの物にしようとした。


 それに対し、か弱いながらも知恵を持った人族と、自然の力を操る精霊族とが共に手を取り合い魔族と対峙した。


 これが所謂いわゆる『聖魔戦争』と呼ばれる戦いだ。


 戦いが百年を越えた頃、とうとう女神フロディアの神託が下る。


 己の生み出した命が互いに争いう姿に心を痛めた女神フロディアは、三種族を別々の地にへだてて生きていかせる事にしたのだ。


 こうして魔族と精霊族は別の地へと移され、人族はこの大陸に残されものの、女神の住まう楽園からは切り離された。


 これがフロディア教の教典の内容だ。


 教典に沿えば、この大陸に魔族はもう存在しないはずだが、実際には石板によって召喚された魔族が存在している。


 何故教団や大陸の国々はこの事実を公表しないのか?


 魔族を目にしたあの日から、レイリアは侯爵令嬢という己の立場を利用して、魔族について調べ続けた。


 そして、何故国や教団が魔族についての情報を公にしていないのかの理由を知った。


 村一つ、街一つを簡単に消し去るほどの力を持つ魔族の存在を公にすれば、人々の日常からは平穏が失われ、恐怖が人々の心を飲み込み、やがて人々は混乱に陥る。


 その混乱の渦が大きくなれば、国は土台を失い崩壊する危険がある。


 そうした判断から、教団と国々は魔族の存在を隠し続けている。


 実際に、歴史の上では内乱で滅んだとされる国の崩壊への始まりが、魔族による人族への大虐殺だった例もある。


 魔族が多くの人々を死に追いやり、時には国をも滅ぼすほどの災厄を引き起こすという事実を知ったレイリアは、魔族の存在がますます許せなくなった。


 (私を守るために亡くなったリジル様の代わりに、私が多くの人を守りたい!)


 その想いを心に宿し続けているレイリアは、覚悟を決めるとエルマーへ顔を向けた。


「魔族を倒したいからです」


 レイリアの答えに、エルマーがはっきりと分かる形で驚きの表情を見せた。


「魔族を?」


「はい。青の聖騎士様ならばご存知だと思いますが、私は以前魔族に襲われた事があります。その時に私を守って下さった王国騎士様の一人が、私をかばい命を落とされました。私はその方の代わりに騎士となって、破邪の剣で魔族と戦い、多くの人を守りたいのです!」


「それは、魔術士としても行えることでは?」


「魔法では魔族を倒せません!」


「確かにそうですが、だからと言って魔術士が不要な訳ではありません。むしろ魔族と戦うには、ゼピス家の皆様のような高位魔術士が必要不可欠です」


「え?」


 エルマーの言葉にレイリアはきょとんとした目を向けた。


「魔族は物理攻撃と魔法攻撃の両者を繰り出します。ですから我々が魔族と戦うには、魔族の魔法を魔術士が抑えている間に、剣士が魔族へと攻撃を加えるしかありません。いかに優れた剣士が束になって魔族と対峙たいじしたとしても、高位魔術士が居なければ魔法で一掃されてしまうでしょう。ですが高位魔術士が一人でもいれば、例え剣士の数が少なくとも勝機があります。高位魔術士がいるかいないかは、魔族との戦いにおいて非常に重要なのです」


「高位魔術士が魔族との戦いに必要だという事は分かりました。ですが、私は自分の手で魔族を倒したいのです。それに、我が国や教団を含め、各国には多くの高位魔術士の方がいらっしゃいますし、私が今更魔術士になる必要は無いと思います」


「教団の聖騎士を含め、今この大陸に魔族の魔法を一人で抑えられるほどの高位魔術士はそうそうおりません。それだけでは無く、教団、各国共に年々高位魔術士の数が減り続けています。先程申し上げた通り、高位魔術士が減れば魔族と戦う事は困難です。私個人の意見を言わせて頂ければ、ゼピスのその貴重な血筋をお持ちの貴女が、魔術士となる事を否定されている事自体、私には理解出来ない」


 レイリアを否定する言葉と共に、冷たく鋭い視線を投げかけてきたエルマーに、レイリアは答えるべき言葉が見つからず、思わず視線を逸らして俯いた。


 そんな孫娘の様子に気が付いたレイラがエルマーへと声を掛けた。


「エルマー、その辺りで止めてあげてちょうだい」


「申し訳ございません。御令嬢が現状をあまりにもご存知無い事にうれいてしまい、つい出過ぎた真似を」


「構わないわ。私も同じ様に思っているから。ただ、この子はいずれゼピスを離れるの。あまり知る必要は無いでしょう」


「外に出されるのですか?」


「カイがいるもの」


「それでしたら、是非こちらにお譲り頂きたいですね」


「ごめんなさいね。この子はもう先約があるの」


「それは残念です」


 レイラとエルマーの会話を落ち込みながら耳に入れつつ、ポットの紅茶をティーカップへと注ぎ入れていたレイリアは、レイラが途中口にした言葉にピクリと反応した。


(先約?外に出す?つまり、私をどこかへ嫁がせる約束をお祖母様がどこかの家としているって事?それってやっぱり、お祖母様は私をファルムエイド家へ行かせようとしているの?)


 レイリアが脳内で混乱しながらレイラとエルマーの前へとティーカップを差し出したところで、部屋の外から扉を叩く音とメルベス夫人の声がした。


「失礼致します。グレナ伯爵がいらっしゃいました」


 メルベス夫人の知らせを受けたレイラが、レイリアを呼んだ。


「レイリア、グレナ伯爵をこちらにお通しして。それとこれより先の話し合いに貴女は不要です。伯爵をお通ししたら貴女は下がりなさい」


「はい、お祖母様。それでは私はこれで失礼致します」


 レイリアはレイラとエルマーへ一礼すると、浮かない顔のまま扉へと向かった。

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