第八十話 兄と妹8
胸元から下が地中へと埋まり、両手と胸から上のみ地上出ている状態のレイリアが、カイを見上げる。
「兄様、これのどこが最終手段なの?」
怒りを滲ませたレイリアが、目を据わらせて低い声を発した。
だがそんなレイリアを、カイは未だ笑い声を噛み殺しながら見下ろしている。
「いや、だって、まさかあんなに地魔法が使えないとは思わなくてさぁ。くくくっ…。もうここまで酷いと、手っ取り早く地魔法を使えるよう、土にでも埋めて自力で出させるしかないと思って…。ぷぷっ…」
片手で口元を覆いながら笑い続けるカイに腹が立ったレイリアは、カイへと大声で抗議した。
「だからって、何で埋められないといけないのよ!」
「ほら、人間ってさ、窮地に追い込まれると本領を発揮するって言うだろ?だからレイリアも追い込まれれば、地魔法を使えるようになるんじゃないかと思ってさ」
両手を頭の後ろで組みながらニヤつくカイに、レイリアは更に苛ついた。
「理由は分かったけれど、だからって妹を土の中に埋める兄なんて普通いないわよ!いくら何でも酷すぎるわ!だいたい兄様なら他にも方法はあるでしょ!?」
「短時間で地魔法を扱えるようにさせる方法が、これ以外思い浮かばなかったんだよ」
「お祖母様が昔やったみたいに、土のドームの中に閉じ込めるとかじゃ駄目だったの?」
レイリアがそう言うと、カイは今までニヤついていた顔をスッと真顔に変えた。
「お前、あの時は凄く嫌がって泣き喚いていたじゃないか。流石にあれだけ嫌がっていた事をしようとは思わないよ」
何年前の話だ、とは思うものの、あの頃の事を兄が覚えていてくれた事に、レイリアは少し嬉しくなった。
ちなみにその時のレイリアは、泣き喚き過ぎて疲れ果て、結局土のドームの中で眠ってしまい、気が付いた時にはベッドの上にいた。
「それに、あの方法だと中が見えないから、僕の想定とは違う何かをお前がするんじゃないかっていう不安もあるしな」
「何の不安よ?私が何するっていうのよ?」
「例えばファーナを力まかせに唱えて壁をぶち破るとか?」
「……」
自分でも確かにあり得ると思ってしまったレイリアは、何も言い返せない。
「ま、そういう訳だから、そこから出たければ地魔法で周りの土を操って自力で出て来い。そこまで出来れば地魔法の力は随分上がっているはずだ」
「出られなかったらどうなるの?」
「そのままに決まってるだろ?」
「昼食は?」
呑気に食事の心配を真っ先にする妹に、カイは呆れた。
「お前、昼食の心配をしている場合じゃないぞ。化粧室へ行きたくなっても、このままじゃ行けないから垂れ流すしかないからな」
カイが示した未来に、レイリアがピクリと反応した。
「え?」
「それに…」
カイはそう言うと、レイリアの前にしゃがみ込み、物凄く悪い笑みを浮かべてきた。
「レイリアのこんな面白い姿を僕だけで楽しむなんてもったいないし、ウィリスに見せてやっても面白いかもな〜。確か午前中にあいつ来るみたいだし」
カイの言葉に、レイリアの顔色がサッと青褪めた。
(こんな姿をもしウィルに見られたら、永遠に馬鹿にされる!)
「やめてよ兄様!それだけは絶対にやめて!」
「どーしよーかな〜」
「そんな事したら、兄様の事、絶対に許さないから!」
カイはキャンキャン喚くレイリアを鼻で笑うと立ち上がった。
「許すも許さないも、お前の場合、先ずはそこから出ないとな。それじゃあ僕は、ウィリスでも呼んでくるか」
くるりとレイリアに背を向けて屋敷の方へと歩き出したカイに、レイリアは本気で焦った。
「出るわよ!出ればいいんでしょ!」
そう叫んだレイリアは、必死になって願った。




