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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第七十九話 兄と妹7

「もしかして、光魔法を教えてくれるの?」


 レイリアの推測に、カイがニヤリとした。


「当たり」


 光魔法は、シェーラヴェーラファーナエーファの四つの属性の魔力を均等きんとうに発揮する事で発現する魔法だ。


 そのため光魔法を使うには、四属性の魔力を均等に操れるようにならなければならないのだが、それは言いえると、己の意思である程度の魔力制御が出来なければならないという事でもあった。


 レイリアにとってアトスの件も問題だが、制御せいぎょしきれない自身の魔力の暴発も問題だ。


(兄様はもしかして、私の魔力制御の事も考えてくれたんじゃ…)


 そう思うと、兄が魔法を教えようとしてくれている事のありがたみが一層増してきた。


「分かったわ、兄様!私、頑張って光魔法を覚える!」


 元気良く返事をするレイリアに、カイが小さく笑った。


「気合充分な所で悪いんだが、光魔法を覚える前に四属性の魔力を使いこなせるようになってくれ」


「分かってる!」


「それじゃあとりあえず、レイリアが使える属性の魔力量を確認するか」


 そこからレイリアは、カイの指示通り、まずは風の空の貴秘石へとカイが三を数える分だけ魔力を注ぎ込んだ。


 風の空の貴秘石に魔力を注ぎ込むと、半透明だった貴秘石が、下の方から段々と色濃い水色となっていった。


 この光景は、色付きの半透明なガラスコップに、コップの色より濃い液体を注ぎ込んでいるかの様に見えるため、魔術士達は空の貴秘石へ魔力を込める行為を『そそぐ』と呼んでいた。


 風の貴秘石が終わると、次に火、その次に水、そして最後に地の空の貴秘石へと魔力を注いだ。


 貴秘石へ魔力が注ぎ終わると、カイは四つの貴秘石を魔力が込められた量の多い順に並べた。


「ここまでひどいとは思わなかった…」


 レイリアの魔力が込められた四つの貴秘石を前に、カイが肩を落とした。


 それぞれの貴秘石に込められた魔力量は、風がほぼ満タンで、水がおよそ三分の二、火が約半分なのだが、地の貴秘石にいたっては、下の方がうっすらと色が濃くなった程度だ。


「そう?私としては、地の魔力が貴秘石に入っているだけ良かったと思ったのだけれど」


 過去においてのレイリアは、地魔法の『エーファ』を使うことが出来ず、空の地の貴秘石に魔力を込める事がほとんど出来なかった。


 その頃と比べれば、この短時間においてわずかではあるが地の魔力を作り出せたのだから、レイリアとしてはそれなりに満足の出来る結果なのだ。


「あのな、ファーナエーファにこれだけの差があるのに、光魔法が使えると思うか?」


 あきれ顔で問い掛けてくるカイに、レイリアは少ししょんぼりしながら答えた。


「…思わない」


「だろ?」


「うん…」


「……」


 兄と妹の間に微妙な空気が流れた後、とうとうカイが口を開いた。


「仕方が無い。あまりやりたくは無かったが非常事態だ。最終手段を取ろう」


 レイリアへ珍しくキリッと引き締まった顔を向けてきたカイに、レイリアが困惑の表情を見せる。


「どうするの、兄様?」


「こうするんだよ。エーファ!」


 カイが呪文を唱えると、途端にレイリアの立っている地面が柔らかくなり、足元が覚束おぼつかなくなる。


「え?え?何?」


 この状況に、レイリアはあわててバランスを取ろうと足を踏んったが、その足が両足とも土の中へズボリとまった。


「うわっ!兄様!」


 レイリアはカイへと助けを求めるものの、カイはどうやらレイリアを助ける気は無さそうだ。


「きゃっ!ちょっと、兄様これ何!?」


 蟻地獄ありじごくに落ちたありごとくどんどん土の中へと体がしずんでいくレイリアが、あわててカイに説明を求めると、カイはわざとらしく悲しげに言った。


「妹よ。兄もここまでしなければならない事に心が痛むが、お前のためにはもうこうするしかないんだ。どうか兄をうらまないで欲しい…」


「それ、説明になっていないわよ!」


 もうすでに腰まで土の中に埋まってしまったレイリアが叫ぶ。


「ねぇ!何なのよこれ、本当に!?」


 抜け出そうと必死にもがくレイリアを見ていたカイが、とうとうこらえ切れなくなって吹き出した。


「うはははははっ!いや、ほんと、お前のその姿、すっごい笑える!」


 今も地面に埋もれていくレイリアが、怒りの形相ぎょうそうでカイをにらみつけた。


「もう兄様!いい加減にして!」


 レイリアが悲鳴に近い声を上げると、ようやく体が地面に吸い込まれる様な感覚が無くなり、それ以上は体が地中へと沈まなくなった。

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