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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第七十八話 兄と妹6

 それから約半時(はんとき:一時間)後。


 カイから動きやすい服装で別邸横の魔法専用訓練場へ来るよう言われたレイリアは、髪をエイミー力作の四つ編みを崩さないよう首に近い位置でひとまとめにし、リシュラスでの普段着である白シャツにトラウザーズへと着替えてから、指定された時間より少し前に訓練場へとおもむいた。


 そこにはすでにカイがいたため、レイリアは小走りでカイへと駆け寄った。


「兄様、お待たせ!」


「あぁ、もう来たのか。でもまだ準備が終わってないんだ」


「準備?」


「これだよ」


 そう言うとカイは、地面に置いてあるほぼ同じ大きさの四つの袋をあごでしゃくった。


「何これ?」


「開けていいぞ」


 レイリアはワクワクしながら袋のそばに座り込むと、一番手前の袋を一気に開けてみた。


「げっ…」


 レイリアが思わず漏らしたうめき声に、カイが

「ハハハ…」

と笑った。


「懐かしいだろ?」


 カイの声にレイリアは渋い顔をした。


 レイリアが開けた袋の中に入っていたのは、赤子あかごの頭程の大きさをした茶色の地属性のからの貴秘石だった。


 からの貴秘石とは、魔道具や魔導機器に動力源として使用され、内在する魔力を使い果たしてしまった貴秘石の事だ。


 魔力を失った空の貴秘石は、そこにそれぞれの属性の魔力を再び注ぐと、再び動力源として使用することができる。

 

 だが魔力を注ぎ直して使用すると、貴秘石は段々と輝きを失っていき、四、五回繰り返して使用したところでヒビが入り、そこで使用を中止せずに使い続けると最後には粉々に割れてしまう性質を持っていた。


 一つ目の袋の中身を確認したレイリアは、もしやと思い他の三つの袋も開けてみた。


 するとそこには案の定、あおい色をした水属性のからの貴秘石と赤い色をした火属性のからの貴秘石、そして水色の風属性のからの貴秘石がそれぞれの袋に入っていた。


「もしかして、これに魔力を込める練習をするの?」


 まだ剣士になりたいと願う前のレイリアは、ゼピス家の子供として当たり前のように魔術の訓練を積まされていた。


 その訓練の一つが、からの貴秘石に魔力をそそぎ込むというものであった。


 空の貴秘石に魔力を注ぎ込むには、何でも良いから魔力を注げば良いのでは無く、それぞれの属性に合った魔力を体の中で練り上げてから、貴秘石へと注がなければならなかった。


 レイリアはその見た目からも解る通り風の属性が強く、自身が操る魔力も自然と風属性になりがちだったため、他の属性の魔力を作り出す事が苦手だった。


 特に風属性と相性が悪いとされる地属性の魔力を作り出す事がなかなか出来なかったレイリアは、祖母のレイラからこの点を特に厳しく指導された。


 その指導方法の中には、地魔法で作られたドーム型の小さな建物に閉じ込められたレイリアが、地魔法を使って自力で出て来なければならないといったものまであった。


 更には、魔力を持つ者が魔力切れを起こすと昏倒こんとうしてしまうのだが、それを何度か繰り返していると、自身の持つ魔力量が足りないから昏倒しまうのだと身体が感じ、所有魔力量がわずかに増える。


 その性質を利用した訓練として、幼い頃のレイリアは、魔力量を増やすためにと毎日のように魔力切れを起こすまで空の貴秘石に魔力を注ぎ込めさせられた。


 そんな日々を過ごしていくうちに、レイリアのレイラと魔法の訓練に対する苦手意識は増していき、遂にはあの日、レイリアは家出を決行してしまったのだ。


 この様な訳で、レイリアにとってからの貴秘石に魔力を注ぐ行為はあまり良い思い出が無い。


 不快な気持ちを隠そうともせず、レイリアはカイへと不満顔を向けると、カイは苦笑いを浮かべた。


「レイリアが考えている様な使い方はしないから安心しろ」


「それなら何に使うの?」


「どの属性の魔力をどのくらい扱えるのか調べるためさ」


「どうやって?」


 レイリアの問いに、カイは袋からからの水の貴秘石を取り出して地面に置くと、そこからは等間隔に距離を取りながら、空の地の貴秘石、空の風の貴秘石、空の火の貴秘石を置いて行った。


「それぞれの空の貴秘石に同じ時間だけ魔力を注ぐんだ。そうすると、得意な属性の場合は注ぐ量が多くなるし、苦手な属性は注ぐ量が少なくなるから、一目で魔力の扱いの得手不得手えてふえてが分かるだろ?」


「ふーん。でもそれを調べてどうするの?私が地属性の魔力を扱うのが苦手だって、兄様も知っているでしょ?」


「各属性の力量差がどのくらいあるのかを見たいんだよ」


 そのカイの言葉にレイリアは思い当たる事があった。

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