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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第七十七話 兄と妹5

 すっかり上機嫌じょうきげんになったレイリアは、足取りも軽く食堂へと向かった。


 食堂に着くと、まだレイラとカイは来ておらず、レイリアが一番乗りだった。


 レイリアが昨日座った席と同じ席に座りながらレイラとカイを待っていると、しばらくしてからレイラが、それからすぐにカイがやってきた。


 三人が席に着いたのを見計みはからって、テーブルに食事が並べられる。


 スープ、ソーセージ、目玉焼き、フルーツ、ヨーグルト、パン、ジャム。


 一見質素かと思われる朝食の品々は、ゼピス家では当たり前のものだ。


 ただ、リシュラスのゼピス邸では、ヨーグルトの代わりにサラダや調理された野菜がテーブルに並べられている。


 その理由は、ここグレナ地方では酪農らくのうが盛んなためヨーグルトを手に入れやすいのだが、リシュラスでは流通の問題からヨーグルト自体なかなか入手出来ないからだ。


 昨夜と同じように、食前の祈りの言葉を述べてから食事に手を付ける。


 そして、昨夜の夕食同様、話し声一つない静かな中でレイリアが朝食を食べ進めていると、一足先に食べ終わったカイが口を開いた。


「お祖母様、この後すぐにでもレイリアの訓練を始めても良いですか?」


 カイの言葉の意味が分からず、不思議そうな顔をしながらもぐもぐとフルーツのヨーグルト掛けを食べるレイリアへ、レイラが顔を向けてきた。


「レイリアが受け入れるのであれば、貴方あなたの好きになさい」


 口の中の物を飲み込んだレイリアが、レイラとカイのやり取りに首をかしげていぶかしむ。


「何の話ですか?」


 明らかにレイリアに関わる話でありながら、レイリア自身は話の中身が見えてこない。


「魔法の訓練だよ」


「魔法の訓練?」


 カイの言葉を疑問系で復唱してきたレイリアに、カイがコクリとうなずいた。


「お前、アトスと魔法で勝負するんだろ?でも今のままだと勝てる訳が無いから、神殿の調査が始まるまで、この兄が直々に魔法を教えてやるよ」


 この提案に驚いたレイリアが、まん丸に見開いた目をカイへと向けた。


「え?兄様が魔法を教えてくれるの?」


「何だ、僕じゃ不満なのか?これでもお前の兄は王国魔道士だぞ」


「ううん。不満じゃないけれど…」


「じゃあ、何だよ」


「兄様はリシュラスに帰らなくて良いの?学院があるでしょ?」


 レイリアから投げかけられた疑問に、カイは残念なものを見るような目をレイリアへと向けてきた。


「……。あのな。僕はもう魔道士なんだ。研究者としてならまだしも、魔術学院の生徒としてあそこで学んでるものがあると思うか?」


 カイの問い掛けに、レイリアはうつむいて

「うーん」

と小さくうなるも、少ししてパッと顔を上げた。


「無いと思う」


「だろ?」


「でもそれじゃあ何で兄様は学院の生徒なの?」


 レイリアのもっともな質問に、カイは少し嫌そうな顔になった。


「国側は、リシュラスの魔術学院にゼピスの人間が在籍しているっていうはくが欲しいんだよ」


「それなら兄様は学院に通わなくても良いの?」


「まぁ、一応生徒として所属しているから試験は受けないといけないし、他の生徒との繋がりも欲しいから、行ける時には行っているけどな」


「ふーん」


 軽い返答をしたレイリアが、残ったヨーグルト掛けフルーツを口へ運んだところで、カイから、

「それでどうする?」

と尋ねられた。


 カイから魔法を習うかどうかの返事をしていなかった事を思い出したレイリアは、口の中のものを急いで咀嚼そしゃくして飲み込むと、強めの口調で言った。


「アトスに勝てる魔法教えて!」


「あぁ、任せろ。ただし、訓練はビシバシ厳しくしていくからな。途中でもう嫌だなんて言って投げ出すなよ?」


「もちろんよ!」 


 ぐっと右手で小さな握り拳まで付けて答えたレイリアに、カイは口角をわずかに上げた。


 ここ数年、かたくなに魔法の練習をこばみ続けてきた妹が、理由はどうであれ魔法を学ぼうとしている姿が、カイには嬉しかったのだ。


 そんな事をカイが思っていると、ふいに、

「あ、そうだ兄様」

と、レイリアが呼び掛けてきた。


「トランセアのお土産ありがとう!この髪飾り、とっても気に入ったわ!」


 レイリアは横を向いてカイへと髪に飾った青い蝶の髪飾りを見せると、それはそれは可愛らしくにっこりと微笑んだ。


 その微笑みは、兄から見ても随分と愛らしく、カイは自然と顔をほころばせてた。


「そうか。そんなに喜んでもらえるなら、買ってきた甲斐かいがあったな。ちなみにそれ、お祖母様とお揃いだぞ」


「え?」


「お祖母様へは髪飾りでは無く、ブローチだけどな」


 カイの言葉にレイリアが思わずレイラを見ると、レイリアを見つめるレイラの胸元には、レイリアの髪飾りに良く似たブローチが飾られていた。


「本当だわ!お祖母様とお揃い!」


 そう言って嬉しそうな笑顔を見せる孫娘に、レイラも思わず微笑んでいた。

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