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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第七十六話 兄と妹4

「おはようございます、レイリア様。お目覚めの時間でございますよ」


 エイミーの声で目を覚ましたレイリアは、寝ぼけまなこを擦りながらベッドの上に起き上がった。


「ん〜。エイミー、おはよ〜」


 目の前に控える自分付きの侍女へ、ふにゃりと笑んで挨拶あいさつを返したレイリアは、目に入ってくる周囲の状況が自分の記憶と違う事にやっと気が付き、きょろきょろと周りを見回した。


 先程ベッドに転がった時はすでに夜で窓の外が暗かったはずなのに、何故なぜか今は窓の外が随分と明るい。


「昨夜はお疲れになられていたようで、ウィリス様からのお手紙をご覧になった後、そのままお休みになってしまわれたのですよ。お着替えのみはさせて頂きましたが、湯浴ゆあみは出来ませんでしたので、朝食の前に湯浴みを済まされてはいかがでしょうか?」


 エイミーの説明に昨夜の自分の状況を理解したレイリアは、彼女の言う通り、ずは湯浴みをする事にした。


 客室であるこの部屋にも備え付けの浴室はあったが、やはりここは祖母自慢の源泉げんせん掛け流しの大浴場を利用したい。


 エイミーに

「大浴場を使いたいのだけれど、この時間でも使える?」

と尋ねれば、

「もちろん可能です」

との答えが返ってきた。


 大浴場を使用する準備のためエイミーが一旦部屋をすると、レイリアはリシュラスから持ってきたかばんの中から装飾そうしょくの少ない簡素なワンピースを引っ張り出した。

 

 大浴場へと行くまでの間にこの別邸の使用人に会う可能性がある以上、マナーとして夜着では大浴場まで移動出来ない。

 

 ごそごそと一人で簡素なワンピースを着込んだ所で、エイミーが戻ってきた。


「まぁ!わたくしが用意した服とは違う服を着るだなんて!」

と、エイミーがぶつくさ文句を言っていたが、レイリアは聞こえないふりをした。


 それからレイリアはエイミーを伴うと、ちょっとだけ浮かれた気分で一階にある大浴場へと向かった。


 大浴場へ入ったレイリアは、エイミーに身体と髪を洗ってもらうと、階段手すり付きの大きな浴槽よくそうへと身を沈めた。


「はぁ〜、気持ちいい…」


 この国の浴槽は基本的には一人用のため、リシュラスのゼピス邸にも、ゼピス領にあるラバルーズ城にも、そのほかの別邸にも、グレナの別邸の様に四、五人が入れると思われる程の大きな浴槽は無い。


 レイリアは伸び伸びと両手両足を伸ばし、グレナ名物の温泉を堪能たんのうした。


(ここの浴槽も広いけれど、ウィルの所の浴槽はもっと広いのよねー)


 昔グレナ伯爵邸へ泊まりがけで遊びに行った時に入った大浴場は、浴槽の大きさが池かと思えるくらいに広く、一緒に入ったウィリスの姉のルッカは、ジャブジャブと泳いでいた。


 レイリアも真似して泳いでみたかったが、残念ながらレイリアは泳げない。


 それは、今も昔もだ。

 

そんな事を思い出したレイリアが湯の中で伸ばした足をバタつかせて遊んでいると、エイミーに、

「朝食に間に合わなくなるので、そろそろ出て下さい」

と、催促さいそくされてしまった。


 浴場から出て髪と体を乾かし、再び簡素なワンピースを身にまとうが、この服装では祖母のいる所へ行くことは出来ない。


 一旦部屋へと戻り、きちんとしたワンピースに着替えてから、エイミーに髪も整えてもらう。

 

「今日は四つ編みのハーフアップですよ」


 リシュラスにいる時のレイリアは、ほぼポニーテールにしかしないため、エイミーがここぞとばかりにった髪型に結ってきた。


 鏡越しに見えるのは、己の仕事の出来に対して満足そうなエイミーの笑顔だ。


「エイミー、ありがとう。今日の髪型、とっても素敵ね」


 エイミーへと振り向いてにこりと微笑んだレイリアが、結い上げられた髪型を鏡で確認していると、その髪に見た事の無い髪飾りがえられている事に気が付いた。


「ねえ、こんな蝶の形の髪飾り、私、持ってたっけ?」


 レイリアの水色の髪に飾られているのは、いくつもの白い小さな真珠と青い石で作られた、美しい蝶の形の髪飾りだった。


「あぁ、それはですね、昨晩カイ様からお預かりしたもので、お嬢様へのトランセア土産だそうですよ」


「兄様から?」


「はい」


「へぇー。すっごく綺麗ね、これ!」


 兄からの贈り物を気に入ったレイリアは、何度も髪飾りを鏡越しに眺めた。


 そのレイリアの微笑ましい様子をエイミーはしばらくながめていたのだが、流石さすがに指定された朝食の時間に近づいていたため、レイリアに食堂へと移動するよう進言した。

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