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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第七十話  救国の英雄と殲滅の魔女9

 ようやく別邸へと到着し、屋敷の車寄せに魔導車が停められると、すぐに使用人によって扉が開けられた。


 ずは開けられた扉側に座っていたエイミーが降り、その後からレイリアが降り立つ。


 するとすぐに、グレナ領ゼピス家別邸の管理人である、デイエル=ノーディックがうやうやしく頭を下げてレイリアを出迎えた。


「お待ちしておりました、レイリア様」


久方ひさかたぶりね、デイエル」


「はい。昨年の夏以来にございましょうか」


 いかにも好々爺(こうこうや)といった様子でレイリアを屋敷の中へといざなうこの老紳士ろうしんしは、ゼピス家の使用人ではあるが、その立ち位置的にはレイラ個人に仕えていると言っても良い人物であった。


 そのため、デイエルの目と耳に入った出来事は、漏れなくレイラへと伝わると言っても過言ではない。


 その事を充分に理解しているレイリアは、レイラからの評価が下がらぬよう、自分の振る舞いに注意を払ってデイエルへと相対あいたいした。


 デイエルに従い屋敷の中へと進んだレイリアは、とりあえず居間へと案内され、ソファへと腰を掛けた。


「レイリア様は、この後レイラ様へ到着のご挨拶をなされませ。その間に部屋を整えさせておきましょう」


「お祖母ばあ様は今どちらに?」


「お部屋にて、レイリア様のご到着をお待ちになられていらっしゃるかと存じます」


「そう。ではお祖母様に、これから私がご挨拶へ伺っても良いかどうか、聞いてきてくれる?」


 いつもならば、前以まえもっての確認という手間が面倒なレイリアは、自らいきなりレイラのもとへと行っていた。


 だが、今回の訪問だけはどんな事をしてもレイラを味方に付けなければならないので、レイリアは正しい手順を踏み、レイラへと会う段取りを整える事にした。


 果たしてそのひと手間は、デイエルからの評価として良いものであったのだろう。


 いつもならばウィリスを少し柔らかくした様な嫌味でレイリアの行動をたしなめ続けるこの執事もどきが、にこりと笑って頭を下げてきた。


かしこまりました」


 居間の扉をデイエルが出て行ったのを確認したレイリアは、出だしはまずまず順調だと思い、ほっと一息ついたのだった。


 気を抜いたレイリアがエイミーの入れてくれたお茶を飲みながらくつろいでいると、居間にメイドがやってきた。


「失礼致します。お嬢様、大奥様がお呼びです」


 ここで言う大奥様とはレイラの事だ。


 今の当主が父ファウスである以上、いわゆる旦那様と呼ばれる人物は当然ファウスであり、奥様と呼ばれるべき人物は、カイとレイリアの亡き母であるシェリアだからだ。


「分かりました」


 レイリアはティーカップをテーブルに置くと、自分に対して気合を入れ直してから立ち上がった。


 エイミーを連れたレイリアが、メイドに先導されてレイラの部屋へと向かうものの、苦手な祖母へ続くこの廊下が、今日のレイリアにはいつも以上に長く感じた。

 

 しかも、先程まで紅茶を飲んでいたはずなのに、緊張からかレイリアの口の中は既に乾いてしまっていた。


 重たい気持ちをずるずると引きずりながらレイリアがレイラの部屋の前まで来ると、メイドが扉を叩いてこの屋敷の女主おんなあるじへとレイリアの到着を告げた。


「大奥様、レイリアお嬢様をお連れしました」


 メイドの声に呼応して、魔法で扉が内側から開かれた。


 レイリアを案内してきたメイドは部屋には入らず廊下に控え、レイリアへと

「どうぞ中へお入りください」

と軽く頭を下げてきた。


 入室を促されたレイリアは、顔を引き締めると、エイミーを引き連れて部屋の中へと足を踏み入れた。


 部屋の中は、窓に近い位置に書斎しょさい机があり、壁際かべぎわには重厚じゅうこうな本棚がいくつも並べられている。


 そして、中央より少しずれた位置にソファとテーブルが置かれており、レイラはそのソファへと座っていた。


 レイリアは出来るだけ優雅にレイラの近くへと歩みを進めると、何度も頭の中で想定した通りの挨拶あいさつをした。


「ご無沙汰しております、お祖母様。レイリアです。本日よりしばらくの間、こちらにてお世話になります。よろしくお願い致します」


 レイリアがレイラに対し、両足を揃えて立ち、ゆっくりとした動作で両手を胸元に重ね置いてから、両膝を曲げて頭を下げる。グランシア王国時代より続く、位の高い者に対して行う女性の挨拶だ。


「無事の到着、何よりです」


 年齢の割には張りのある女性の声が部屋に響く。


 顔を上げたレイリアの瞳に、目と髪の色以外全くレイリアとは似ていない、きびしくも凛々しい祖母の顔が映った。


 レイリアを認めたレイラが、自分の隣に控える婦人を一瞥いちべつする。


 レイラよりも若いが、ファウスよりも随分ずいぶんと年上のこの女性は、レイラ付きの侍女として仕える、ローザ=メルベス前男爵婦人だ。


「レイリア様、どうぞこちらにお掛けください」


 メルベス夫人に示されたのはテーブルを挟んだレイラの正面の席だ。


 レイリアがメルベル夫人に指示された席に座ると、その背後にエイミーが控え立った。


 ソファに浅く腰掛けたレイリアがレイラへと目を合わせると、早速レイラが口を開いた。

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