表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
64/142

第六十二話 救国の英雄と殲滅の魔女1

 レイリアとアトスが怪我を負った事件の話は、あっという間に社交界へと広まった。


 なんと言っても、侯爵二家の嫡子と令嬢、更には若くして伯爵位を持つウィリスが関わっていたのだ。注目されない訳がなかった。


 そのためファウスは、世間の目から子供達を守るべく、療養という名目でレイリアとウィリスをしばらく家から出さない事とした。


 実際レイリアは病院を退院したものの、未だ貧血状態が続いており、ゼピス家のお抱え医師であるヴェアルドからも数日間は安静が必要だとの判断を下されていた。


 一方、レイリアとは違い特に怪我をした訳でも無いウィリスは、セラと交わした誓いを実行すべく、少しずつ剣術の稽古を再開させていた。


 事件当日の内に、ウィリスはファウスへ、

「レイリアを守る為に、剣術をまた始めたい」

と正直に伝えると、ファウスは動機はともかく、ウィリスが再び剣を手にする事に賛成してくれた。


 更にファウスからは預けていた破邪の剣の返還を申し出されたが、それに対してウィリスは、その剣を手にするのに相応しくなるまで預かっていて欲しいと頼んだ。


 こうして事件の翌日には、ウィリスの手元に練習用の刃を潰した剣がもたらされたものの、最初のうちは剣に慣れることから始めなければならなかった。


 初日はそれこそ練習用の刃を潰した剣を握るだけで心拍数が上がり、とてもでは無いが剣術の練習など出来なかった。


 それから更に二日かけ、練習用の剣を手にしても平静でいられるようになり、まともに素振りが出来るようになったのは、なんと五日目の事だった。


 その頃には日常生活へと戻っていたレイリアも、家の外に出られない腹いせと、ここ数日の遅れを取り戻そうと、剣術の稽古に明け暮れていた。


 そして今日もゼピス家の護衛剣士を相手に中庭で剣を振るうレイリアを、ウィリスが溜息ためいきまじりに屋敷内から眺めていた。


(もう一度剣術を始めたって、レイリアにいつ言おう…)


 剣を持つ手に違和感を感じなくなった今、剣の練習を部屋の中でのみ行うのは、やはり手狭てぜま過ぎて限度を感じたのだ。


 そうなると、やはり稽古は中庭でとなるので、レイリアに隠れて行うのには無理がある。


 ファウスからはウィリスの剣の練習に対しての様々な許可が出ているらしく、執事のラザエルに頼めば、中庭での鍛錬も、護衛剣士との稽古もすぐに準備してもらえる。


 そのためにもレイリアには言わなければならないのだが、その時絶対レイリアは尋ねてくるはずだ。


『どうしてまた剣術を始めることにしたの?』

と。


 まさか、

『君を守る為に、もう一度剣を手に取ることにしたんだ』

なんて、いくら何でも恥ずかし過ぎて正直に言える訳もなく、しかも、そんなことをレイリアに直接言った日には、恐らくファウスに抹殺される…。


 広い場所で剣の鍛錬をしたいという思いと、その為にはレイリアに剣を再び手にした事を伝えなければならないという難問を抱え、ウィリスは頭を悩ませていた。

 

 そんなウィリスの元に、レイリアの祖母であるレイラ=ゼピスから手紙が届いた。


 そこには、ウィリスに掛けられている呪術を解く為、レイラの知り合いのフロディア教団の人物をウィリスへ紹介するので、早急にグレナへ戻ってくるように、と書かれていた。


 以前ウィリスの行動を縛り、死を望むような不思議な声が聞こえた事象は、ファウスの見立てでやはり呪術であると判明していた。


 呪術と魔術は似て非なるものらしく、魔術師であるファウスには呪術を解くことは出来ないと言われた。


 だが、呪術の発動を阻害そがいする魔法があるとの事で、ウィリスはファウスにその魔法を掛けられていた。


 ただその魔法には欠点があり、週に一度は掛け直さなければならない。


 成人後はゼピス家を離れる以上、将来に渡って毎週ファウスに呪術への阻害魔法を掛けてもらう事は難しい。

 

 それ故、手紙が届いた日のうちに、ファウスからもこのレイラからの申し出を受けるようにと言い渡された。


 ウィリスが治めるグレナ地方は、大陸中央に位置する聖王国センティアナとの国境くにざかいにあるグレナス山脈の麓にあり、領地のほとんどが山間部であった。


 領内にはルタルニア王国で一番大きな湖であるグレナ湖があり、更には豊富な温泉が湧き出るため、グレナ地方は景勝地としても、また、夏の避暑や保養地としても有名であった。


 そのため領都のグレイベラ周辺には、多くの貴族の別邸が存在していた。

 

 ゼピス家もまた、レイラがこの温泉をことほか気に入っており、グレイベラに別邸を構えていた。


 昔はゼピス領の領都であるラバルーズからグレイベラまで馬車で約半日掛かった道程が、魔導列車が通った今では、その三分の一以下の時間で行き来出来るようになった事で、最近のレイラは夏の避暑だけでは無く、春と秋にもグレイベラを良く訪れるようになっていた。


 結局ウィリスは、レイラからの帰還要請を受ける形でグレナへ戻り、その間にグレナで本格的な剣術の稽古を再開させつつ、レイリアへの言い訳を考えようと結論付けた。


 こうしてウィリスがグレナへ戻ろうと決めた次の日に、またしてもあの男が厄介やっかいごとを持ってやって来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ