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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
少年、少女 それぞれの理由
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第五十六話 少年の理由〜グレナ伯爵一家殺害事件〜3

 ウィリスがルタルニアに来てから三年が経った頃、祖父のバウルが亡くなった。


 そしてその直後、父グエンの病が発覚する。


 病名は『ルセド病』。


 その名は隣国リガルム帝国のグメール地方の山間部、ルセドと呼ばれる地域で発症者が多い事から名付けられた。


 ルセド病は発症とすると、始めは体の節々がわずかに痛みを伴うだけで、いわゆる筋肉痛と間違われる事が多い。


 だが、その痛みは治る事無く次第に体全体へと広がっていき、そのうち徐々に体が動かなくなり、最後は呼吸さえも止まってしまうという恐ろしい死の病だった。


 このやまいは治療のための薬も無いのだが、とある不思議な特徴を持っていた。


 それは、黒髪に黒い瞳を持つ人々しか罹患りかんしないというものだった。


 そのためこの病は、『くろやまい』とも呼ばれていた。


 その頃のグエンは、元聖騎士であった功績を買われ、ルタルニア王国筆頭騎士であり王国軍元帥たるアージェ=フェリムスに次ぐ王国次席騎士の称号を賜った上、王国軍の将軍の一人にも任じられるなど、忙しい日々を送っていた。


 しかし、ルセド病の発症が分かると、グエンはグレナ領主以外の全ての役職を辞し、妻のルーナと共に王都リシュラスよりグレナへと退いて療養生活を送る事とした。


 一方、ウィリスと姉のルッカは、ノイエール学園の中等部の最終学年である四年生と、高等部の二年生になっていた。


 父と母から学園には通うよう厳命されたウィリスとルッカは、リシュラスのハーウェイ邸に仕える人々を中心に、ゼピス家の人々や学園の友人等、多くの人々に支えられつつも、リシュラスで不安な日々を過ごしていた。


 ノイエール学園が夏の長期休暇に入ると、ウィリスとルッカはぐさまグレナへと帰郷した。


 グレナへと戻った二人を出迎えたのは、母と車椅子姿の父だった。


 その夜、ウィリスとルッカの二人は、母から父の病状を聞かされた。


 その内容は、今や父は支えが無ければほとんど歩けない事、更に、病気の進行が当初の想定よりも早いため、このままでは父の命が後一年と持たないだろうというものだった。


 そして、母は続けてこう言った。


「旅行というには近過ぎるのだけれど、家族でグレナ湖畔にある別荘へ行かない?今ならお父様もまだ動けるし。それに多分、最後の家族旅行になるだろうから…」


 母の提案に、ウィリスとルッカはもちろん賛成した。


 それから数日後、父、母と共に、ウィリスとルッカはグレナ湖畔の別荘へとやってきた。


 たった三泊四日の予定ではあったが、別荘での日々はとても穏やかで楽しいものだった。


 午前中は父が見守る中でウィリスとルッカは共に剣術の稽古をし、午後は父と並んで三人揃って湖に釣り糸を垂らしながら、リシュラスであった事を話したり、父の昔話を聞いたりした。


 その中でもレイリアとカイの両親の結婚にまつわる話は、ウィリスとルッカを充分驚かせる内容だった。


 グレナ湖畔の別荘で働く使用人については、家族との時間を大切にしたいというグエンの意向から昼間のみ人員が配された。


 そのため、朝になると本邸よりやってきた使用人達は夕方には本邸へと戻るので、夜は本当の意味でウィリス達は家族水入らずの時間を過ごせた。


 しかしそれは、言い換えてしまえば、夜間の警備体制が全く敷かれていないという事でもあった。


 元からグレナは月に数件の窃盗事件が報告される程度の比較的治安が安定した地域で、警備が必要なのは数多くの美術品が収蔵されているハーウェイ家の本邸くらいだった。


 そのため、金目かねめの物がほとんど置かれていないグレナ湖畔の別荘ならば何も起きまいという思い込みがあったのだ。


 そして、別荘生活最後の日となる三日目の深夜、グレナの犯罪史上最も凄惨せいさんと言われる『グレナ伯爵一家殺害事件』は起きた。

次の話より数話の間


残酷な描写があります

人が死ぬ描写があります


ご注意下さい

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