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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
少年、少女 それぞれの理由
56/142

第五十四話 少年の理由〜グレナ伯爵一家殺害事件〜1

暫く19時〜21時投稿となります

(*- -)(*_ _)ペコリ


「レイリア………」


 朧げな意識の中、守れなかった、失ってしまった、大切な、大切な少女の名が、ウィリスの口から零れ落ちる。


「ウィル!」


 どこか遠くで、その大切な少女が自分を呼ぶ声が聞こえる。


 これはきっと、己の願望が夢となって現れているだけなのだと、心の中の冷静な自分が告げている。


「ウィル!」


 再び聞こえてきたその声は、先程よりも随分とハッキリしているような気がする。


「まだ眠ってるんじゃないの?無理に起こしたら可哀想よ?」


 少女の声に続き、聞き覚えのある女性の声までする。


「でも私のこと呼んだもの」


「寝言じゃなくて?」


「うーん…。そうかも?」


 その台詞せりふと共に、誰かに覆いかぶさられているような気配を感じたウィリスが目を覚ました。


「あ、起きた」


 目を開けた瞬間ウィリスの視界に飛び込んできたのは、ウィリスにとって一番見慣れたはずの水色の大きな瞳。


「うわぁっ!」


 その水色のあまりの近さに、ウィリスが軽く悲鳴を上げると、近くから軍服姿のセラの笑い声がした。


「もうっ!セラ姉様笑い過ぎ!」


 ウィリスを覗き込んでいたレイリアが、体を起こしてセラを軽く睨む。


「だって、ウィリスが、随分可愛らしい声を上げて、びっくりしたから…。なんか、ちょっと、意外で…」


 くくくっ、と未だ小さく笑い続けるセラに、白い患者服姿のレイリアが、再び

「もうっ!」

と、抗議の声を上げた。


 そんな二人のやり取りを目にし、ウィリスはやっと、これが夢では無く現実であると悟った。


 『レイリアが生きている』


 その事を理解してしたとたん、ウィリスの瞳からは自然と涙があふれ出た。


「え?ウィル、どうしたの?どこか痛いの?」


 心配そうに見つめてくるレイリアを、こぼれ落ちてくる涙を拭うこともせず、ウィリスが見つめ返す。


「違う…」


「もしかして、セラ姉様がウィルの事を馬鹿にしたから?」


「違う!」


 かぶりを振るウィリスに、レイリアが戸惑いの表情を見せた。


「それじゃ、どうしたの?」


「レイリアが…」


「えっ!?私?」


「レイリアが、生きて、いたから…」


「………は?」


「あの時、死んだと、思った、から…」


 ウィリスの答えに、レイリアが不機嫌そうに語気を強めた。


「ちょっと!勝手に殺さないでくれる!」


「だって…、あんなに、血が、出てて…」


「そんなに血が出てた?」


 怪訝けげんな顔で問うレイリアに、ウィリスが頷き、セラが応えた。


「結構出てたと思うわよ。そうでなかったら、貧血で倒れるとか普通無いでしょ?」


「そう言われると、そうかも…」


「まぁ自分ですぐに回復魔法掛けたって言うだけあって、怪我も見た目程酷く無かったし、ある意味不幸中の幸いね」


「だって私、回復魔法は得意ですから!」


 得意げに答えるレイリアに、セラが呆れ顔になる。


「得意も何も、あなた、回復魔法とファーナ(風の初歩魔法)しかまともに使えないじゃない」


「私は剣士だからそれでいいの!」


「はいはい」


 セラとの軽妙なやり取りを繰り広げるレイリアを見て涙の引いたウィリスが安堵あんどの表情を浮かべた時、病室の扉をノックする音がし、看護師が入ってきた。


「失礼します。レイリア=ゼピス様はこちらにいらっしゃいますか?」


「はい、います!」


 落ち着いた看護師の声に、レイリアが元気良く応える。


「医師が回診に参りますので、お部屋にお戻り下さい」


「分かりました。今すぐ戻ります」


 看護師へと声を掛けたレイリアが、ウィリスへと振り返る。


「それじゃあ私、部屋に戻るわね。セラ姉様、ウィルの事あんまりいじめないでね」


「分かったから、あなたは早く自分の病室へ戻りなさい」


「はぁーい」


 苦笑交じりのセラへ気の抜けたような返事をしたレイリアが、看護師に促され部屋を出ていった。

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