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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
少年、少女 それぞれの理由
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第五十一話 少年の思い出3

 ルタルニアへやってきてから三月みつきが経とうとした初冬、王都での仕事が多くなった父に合わせ、ウィリスは姉や母と共に王都のリシュラスへと移り住む事となった。


 リシュラスのグレナ伯爵邸はグレナの本邸に比べれば小さいが、それでもやはり庭付きの大きな屋敷だった。


 その頃にはウィリスやルッカも、なんとか貴族の子息子女としての必要最低限の教養と、礼儀作法を身に付けていた。


 しかし、ハーウェイ家のリシュラス別邸に勤める使用人達は貴族が多く住まう王都に住んでいるためなのか、グレナ本邸の使用人達よりも血筋を重視している者が多かった。


 そのため自分達と同じ平民出身であるルーナは元より、その血が半分流れるルッカやウィリスに対しても、軽んじる態度を取る者達がいた。


 更にその中には数名の口さがない者達がおり、彼らは聞こえよがしにあの言葉を口にした。


けがれた血』


 結局その様な言葉を口にした者達は、伯爵位を正式に継いだグエンの怒りに触れる事となり、ことごとく屋敷から追放されていった。


 しかし、この事でウィリスは、ルタルニアにはいとこ達以外にも出自の貴賎きせんにこだわり、それを理由として自分達をさげすむ者がいるという事を知ってしまった。


 身分制度の無いトランセアで生まれ育ったウィリスには、出自の貴賎よる差別はどうしても受け入れがたく、ルタルニアには居たくないという想いがますますつのっていった。


 そんな中、新年を迎えてすぐにあるウィリスの八歳の誕生日を過ぎた頃、父の古くからの知り合いだという貴族の家に家族で招かれる事となった。


 その家にはウィリスと同じ歳の女の子と、ルッカより一つ歳上の男の子がいるらしかった。


 同年代の貴族の子供と言えばあのいとこ達にしか会った事がなかったため、ウィリスはどうせ会ったところでいとこ達と同じ様に自分達を馬鹿にしてくる奴らなんだろうと思い、先方せんぽうの子供達に会う前から気分が沈んでいた。


 そして当日。


 今にも雪が降り出しそうな厚い灰色の雲が低く立ち込めるその日の空模様そのまま、どんよりとした気持ちを抱えたウィリスは、家族と共にくだんの相手方の屋敷へと向かうこととなった。


 家族四人は二台の魔導車に分かれて乗車し、ウィリスは父と同じ魔導車に、姉は母と同じ魔導車に乗っていた。


 道中父がリシュラスという街について色々と話をしてくれたのだが、正直この国を、この街をあまり気に入っていなかったウィリスは、適当な相槌あいづちを打ちながら聞き流していた。


 そうこうしているうちに、ウィリスと父を乗せた魔導車が、異様な存在感を放つ真っ黒な金属製の大門の前で一旦停車した。


 どうやらここが目的の場所らしい。


 運転手が門番へと来訪を告げると、門番が片手を挙げた。


 すると、固く閉ざされていた漆黒の大門が音も無くするすると内側に開かれ、その先にはリシュラスのハーウェイ邸の倍以上はあるであろう大きな建物が現れた。


 ゆっくりと近付きつつあるその建物をウィリスは魔導車の窓にかじりいて眺めると、その屋敷は重厚な石造りでありながら、窓枠や玄関ポーチ周辺には繊細な彫刻が施されていて、何とも豪奢ごうしゃに見えた。


 そんな外観であったため、中もきっと豪華に違いないとウィリスは思ったのだが、その思いは建物内へ入ると色々な意味で裏切られた。


 車寄せへと到着した魔導車から降りたウィリスは、重々しい雰囲気をかもし出す木製の玄関扉を通り抜け、まずは小ホールへと足を踏み入れた。


 そして小ホールの先には、ステンドグラスがはめ込まれた美しい扉があり、ウィリスは父に手を引かれてその扉をくぐった。


 すると、目に入ってきたのは三階まで吹き抜けになっている広いホールであった。


 ホールをあちこち見てみると、正面の左右には二階へと続く階段があり、更に上へと目線を移したところで、ウィリスは

「あっ!」

と、小さな声を上げてしまった。

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