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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
少年、少女 それぞれの理由
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第四十九話 少年の思い出1

前話を読んでいない方用前話あらすじ

レイリアを襲った魔術士と剣士をウィリスが剣で倒そうとする

→魔術士にウィリスがトドメを刺そうとしたところで、何者かの魔法によりウィリスは意識を失う

 ウィリスが生まれたのはフロディア教団の総本山、トランセア国の聖都ミナルリアだった。


 父グエンはフロディア教団の聖騎士であり、母ルーナは姉のルッカを身籠みごもるまで、教団の最高位であり国家元首たる『巫女みこ』の女官を務めていた。


 ウィリスが七歳の秋、父方の祖父であるバウル=ハーウェイが老齢のためグレナ伯爵位を息子であるウィリスの父グエンに譲る事を決めた。


 その為ウィリスは、父、母、二歳上の姉ルッカと共に、ルタルニアのグレナ地方へと移り住む事となった。


 ウィリスが少し大きくなってから聞いた話では、当初父は、ルタルニアでの貴族の地位を捨てる覚悟でフロディア教団の聖騎士となったので、祖父からの爵位移譲しゃくいいじょうの申し出を断っていたそうだ。


 しかし長らく続いたという祖父との話し合いの結果、父はグレナ伯爵位を継ぐ事を決め、フロディア教団の聖騎士をしたとの事だった。


 グレナに移ってからの生活は、トランセアでの生活と違う点も多く、ウィリスもルッカも慣れるまでにかなりの時間が掛かった。


 まずは衣服について。


 トランセアでは、教団関係者やその家族は、教団から配布された薄灰色うすはいいろの服を着ていたため、身近にいた子供達はほぼ同じ服を着ていた。


 そして、その服はゆったりとした作りであり、かなり動きやすいものであった。


 それがルタルニアでは日々異なる服を着させられ、しかもシャツやズボンは体に密着するようなものであったので、ウィリスにとっては動きを制限されているようで好きにはなれなかった。


 更には祖父や客人に会うためや、外出するなどの理由で一日に何度も着替えさせられる事が、とにかくウィリスには面倒だった。


 ただ姉のルッカは、絵物語の中の姫君の様なドレスや可愛らしいワンピースを着られる事を喜んでいた。


 次に食事に関しても、トランセアとルタルニアでは違いがあった。


 トランセアは半島国であったので海の幸に恵まれおり、料理の殆どは魚介類の煮込み料理が多かった。


 そして、主食は少し硬めの丸い平たいパンであり、煮込み料理やスープに浸して食べていた。


 ひるがえって、ルタルニアには海が無く湖しかないため(これは後からグレナ地方に海が無いだけだと分かったが)魚料理よりも肉料理が多かったのだが、魚の骨を取るのが苦手であった小さなウィリスには好都合であった。


 主食であるパンも、硬いものは出されず、柔らかでフワフワの小さな白いパンであった。


 ウィリスはこの白いパンをとても気に入っていたのだが、時折りテーブルに並ぶパン以外の米や麺なども、それなりに気に入っていた。


 この様に食事に関してはおおむね小さなウィリスの好みに合ったのだが、一つだけなかなか受け入れられない料理があった。


 それは、『生野菜のサラダ』である。


 生野菜が苦手な訳は、トランセアで出される野菜は必ず火を通したものだったので、ウィリスはグレナに来るまで野菜を生で食べた事がなかったからだ。


 そのため抵抗感からなかなか手が付けられず、食べられる様になるまでかなりの時間を要した。


 そして、住居においても驚きが大きかった。


 トランセアでは、教団関係者がその所属 ごとに、大きな建物にまとまって住んでいた。


 ウィリスが住んでいたのは、聖騎士や従騎士とその家族が住む集合棟で、ハーウェイ家はその建物の二階の一画に住んでいた。


 それがグレナでは、集合棟一棟より大きな建物丸々一つがハーウェイ家の屋敷であった。


 しかも、屋敷の周囲を囲む庭も信じられないほど広いにもかかわらず、隅々までよく手入れをされており、とても美しかった。


 住み始めた当初はこの広くて大きな屋敷にとても興奮していたが、その後、庭だけでは無く屋敷内でも何度か迷子になった事で、広すぎる家は実は住みにくいという真理をよわい七歳にして悟ってしまったのは、ご愛嬌あいきょうというものだろう。


 衣食住については時間と共にそれでも何とか慣れてきたのだが、生活面でこの地に馴染なじむのには、かなりの苦労や多くの嫌な思いをする事となった。


 それこそたった数ヶ月でルタルニアという国自体を嫌える程に…。


 その理由の一つは、朝から夕方までぎっしりと家庭教師による講義を受けさせられた事だった。


 幼い頃から父の様な立派な聖騎士になりたいという夢を抱いていたウィリスのトランセアでの生活は、同じ夢を持っていた姉や仲間達と共に、従騎士候補生として剣術や体術の稽古けいこに明け暮れていた。


 そんな日々を送っていたせいもあり、ウィリスは正直なところ、学業面が少々おざなりになっていた。


 しかしここでは貴族の子息としての言葉遣い、礼儀作法に食事作法、グレナ地方やルタルニア国の地理や歴史など、身につけなければならない事、覚えなければならない事が山の様にあった。


 その結果、剣術や体術の稽古は二の次、三の次にされ、ウィリスは日々机に縛り付けられていた。


 座学ざがくよりも体を動かす事の方が好きなウィリスにとって、これらの勉強漬けの日々は正に苦痛であった。


 二つ目の理由は、周りに友人と呼べる子供が全くいない事だった。


 グレナでの生活を始めてからしばらくは屋敷の敷地外へ出ることが禁止されていたため、ウィリスとルッカの周りには大人しかおらず、同年代の子供と遊ぶという事が皆無かいむであった。


 大好きな剣術の稽古けいこもままならず、日々の生活に対してウィリスの不満が段々と増してきた頃、ルタルニア嫌いに拍車をかける出来事が起こった。

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