第四十三話 少年の怒り10
だが、このレイリアの浮かれた気分は、この後に繰り広げられるアトスとホーデスのやり取りで、台無しにされてしまうのだった。
「如何でしたか、アトス様?」
「あぁ、本物の石板だったよ」
「そうですか。それで、本当に仰っていた通りの事をこれから実行なさるおつもりですか?」
「当然だろ。相手は国の宝となるべき石版を盗んだ連中なんだぞ。悪党退治にはもってこいの相手じゃないか」
正義じみた台詞を吐きながら、まるで悪役の様な笑みを浮かべるアトスに、レイリアはすっかり忘れていたアトスの話を思い出した。
(悪役に正義の鉄槌を下すとか手紙には書いてあったけれど、まさかアトスってばあの人達から無理矢理石板を奪う気じゃ…)
焦るレイリアの耳に、ホーデスの固い声が流れてくる。
「左様でございますか。では致し方ありません。我々もアトス様のご希望を叶える為に、全力を尽くさせて頂きましょう。付きましては、レイリア様とグレナ伯爵様は、我々の後ろに下がって頂けませんか?」
そこへウィリスが割って入った。
「お待ち下さいアトス様、本気で彼らと戦うおつもりですか?」
「あぁ、もちろん。ここで彼らを捕まえ、石版を取り戻せば、レイリアも僕の素晴らしさを認識するだろ?」
「私、石板さえ取り戻せれば、正直アトスの素晴らしさとかはどうでも良いのだけれど…」
レイリアがつい本音を溢すと、アトスが睨んできた。
「何を言っているんだ!?今回の計画の目的は僕の素晴らしさをレイリアに認めさせることだぞ?それが出来ないならここにいる必要もない。つまり、石板も要らないという事になるが、それでいいのか?」
「それは困るけれど…」
正直、石板は欲しい
でも、戦いはやめて欲しい。
二つの願いを両立させるにはどうすれば良いかと考えあぐねたレイリアが、アトスへと尋ねた。
「グリスデンを渡して石版を貰うだけでは駄目なの?」
「このグリスデンは、我が家でも貴重とされている品だ。盗賊如きに易々と渡すわけにはいかない。それに、先程も言ったが今回の目的は石版じゃないからな」
やはり戦いを避ける為には、目の前にある石版を諦めてアトスに撤退をお願いするしか無いかとレイリアが考え始めたところに、盗賊団の茶髪の男の声が届いた。
「おい!まだか!?」
催促をしてきた相手に、アトスは
「直ぐに行く!」
と返すと、レイリアを見た。
「レイリアはそのチビと一緒に危なく無い所にいてくれ。ハルン、スレイゼル行くぞ」
そう言って、従者と護衛剣士を連れて行こうとしたアトスの腕をレイリアが捕らえた。
「待ってアトス!」
「何だ?」
「石板は諦めるから、もう帰りましょう。危険すぎるわ!」
レイリアの言葉にアトスが驚いた顔をした。
「もしかして、心配してくれているのか?」
「当たり前でしょう!?」
「安心しろ。僕があんな奴らに負ける訳が無い」
自信満々の笑みで答えたアトスが、二人を伴って離れていく。
レイリアは不安げな瞳で三人を見送ると、ウィリスへと振り向いた。
「ウィル、ルッジはまだなの?」
「分からない。動いてくれているとは思うけど…。それより、レイリア。僕らは巻き込まれないよう、どこかに隠れている方がいいんじゃないかな?」
ウィリスがそこまで言い終わるとほぼ同時に、何者かの魔力の波動を感じたレイリアは、思わずそちらに顔を向けた。
すると、目の前ではアトスが放った氷の魔法が、盗賊団の魔術士に阻まれている光景が見えた。
「あいつ!何考えてるんだ!」
ウィリスは苛立った声を上げると、レイリアの手首を掴んだ。
「レイリア、ここに居たら危険だ!とにかく、少しでも離れた所に隠れた方がいい!」
そう言うや否や、ウィリスは慌てた様子でレイリアを引っ張ると、戦闘が行われている場所から離れた荷物の山の後ろへと身を隠した。




