第四十一話 少年の怒り8
そこは倉庫内なだけあり、至る所に高く積み重ねられた木箱が置かれていた。
その木箱で作られた山々の間を、レイリア達は縫う様に奥へと進む。
やがて少し開けた場所へ出ると、四人の男達が木箱に座ってこちらを見ていた。
左から黒髪黒目で髭面の中年の男、青髪水色の目の若い男、茶髪に赤目で細身の中年の男、そして赤髪赤目の眼鏡の男だ。
その中で茶髪に赤目の細身の男が口を開いた。
「あんたかい、ローンデールの爺さんが言ってた金持ちの若様ってのは?」
男はそう言うと、ホーデスでは無く明らかにアトスへと視線を向けた。
すると、その男と目が合ったアトスがホーデスの前に一歩出た。
「あぁそうだ。それで、例のものは?」
「その前に、ローンデールの爺さんの紹介状を確認させてもらおうか?」
「いいだろう」
アトスの言葉を受け、ホーデスが封筒を男の元へ届けると、男は早速 封蝋に押された印璽を確認した。
「へぇー。確かにあの爺さんの手紙だ」
そして封蝋を砕き割り手紙を取り出した男は、文面に目を通すと眉間にしわを寄せた。
「聖騎士だと…」
男が零した呟きに、周りにいた男の仲間が騒ついた。
「聖騎士?」
「聖騎士ったぁ、どういうこった?」
「おい、詳しく説明してくれ」
「石版を探して聖騎士が動き始めたらしい。死にたくなければそこにいる若様に渡せだと」
その話に仲間達が動揺し始めた。
「教団はヤバイだろ?」
「軍からだけじゃ無く、聖騎士からも逃げるとか無理だ」
「聖騎士敵に回して無事だった奴がいるか?」
口々に教団や聖騎士の恐怖を語る男達を見て、レイリアは然もありなんと思った。
ウィリスの父グエンがかつてそうだった聖騎士とは、大陸中から集まった強者達から成り立つフロディア教団兵の中でも、特に優れた魔術師と剣士が任じられる称号だ。
ルタルニアの名誉称号とは違い、彼らは教団内で高い地位を持ち、教団と巫女を守るためにのみその力を振るう。
聖騎士の行動範囲は大陸全土で、その任務内容は大地の魔素に侵され魔獣化した生物の排除から、遺跡の調査と遺物の保護、各国との連絡役、そして、教団や巫女に仇なす者の排除等多岐に渡る。
しかも聖騎士は任務遂行の為ならばどんな犠牲も厭わないため、敵となった者の行く末は、徹底した敗北か、死があるのみと言われていた。
今回は遺跡で見つかった遺物の中でも、聖遺物扱いとされる石版が奪われたのだ。
ルタルニア軍が見つけあぐねている以上、その奪還の為に聖騎士が動く事は容易に想像が付く。
そして、石版を隠し持っている目の前の男達が聖騎士に見つかれば、彼らの人生は恐らくそこで終了だ。
レイリアのそんな考えと似た様な事を思っていたのだろう。
アトスが男達に向かって、
「お前達は馬鹿なのか?」
と、言い放った。
「石板は聖遺物扱いだぞ?そんなものに手を出したら教団が動くに決まっているだろう?石版を持つ限り、お前達は教団に捕まるか、軍に捕まるかしかないだろうが」
嘲る様なアトスの物言いに、黒髪の男と青髪の男が噛み付いてきた。
「仕方がねぇだろ!俺たちだって好きであんなモン手に入れたんじゃねぇ!」
「俺たちが欲しかったのは、あの列車に積み込まれる筈だった別のモンで、石版なんかじゃねぇよ」
「では間違えて盗んだという事か?」
「結果的にはそうなるな」
呆れ顔のアトスの言葉に眼鏡の男が答えると、更に茶髪の男が話を続けた。
「まぁ今となっちゃあ俺達が盗んだ事に変わりねぇ。しかも聖騎士まで出張って来たとなりゃあ早目に手放した方がいい。でだ、俺達はこいつを五千万ジリー以上で買い取ってくれと言った筈だが、金は持ってきたのか?」
茶髪の男はそう言うと、自分が座っている木箱を叩いた。どうやら石板はその中に入っているらしい。




