第三十六話 少年の怒り3
剣の道を行くのか、魔術の道へと進むのか、それとも、第三の選択肢を選ぶのか?
レイリアは自分のやりたい事が何なのかを考えた末、やはり剣の道を選ぶ事にした。
そのせいで魔力を失う事になったとしても仕方がない。
リジルの代わりに騎士となり、己の手で魔族を打ち倒すという想いを、レイリアは捨てられないのだから。
そしてレイリアは、カイとの約束についても考えてみた。
そもそも少年剣術大会で優勝出来るほどの力量が無ければ、将来騎士になりたいと望む事さえおこがまし
い。
やはりここは、誰に言われるまでも無く優勝するしか無い。
こうして改めて自分の未来を定めたレイリアが、剣術大会へ向けて更に剣の稽古に励んでいた頃、ゼピス家にレイリア宛の一通の手紙が届けられた。
当然ながらそうとは知らないレイリアが夕刻剣術道場から帰ってくると、玄関ホールには使用人だけではなく、何故か不機嫌なウィリスまでが控えており、そんなウィリスの目の前で、レイリアは執事のラザエルから自分宛の手紙を渡された。
差出人は、アトス=ファルムエイド。
ファルムス侯爵家の嫡男であり、レイリアとウィリスが苦手とする人物からの手紙だ。
「アトスからの手紙なんて、僕、嫌な予感しかしないんだけど」
「そうね。それについては同感かしら」
珍しく不機嫌さ丸出しで話すウィリスに同意したレイリアが、アトスを示す封蝋付きの封筒をヒラヒラさせた。
「ウィルも中身が気になる?」
「もちろん」
「それじゃあ、開けてみるわね」
未だ玄関ホールのど真ん中にいるにもかかわらず、封蝋を砕き、封筒から便箋を取り出そうとしたレイリアをエイミーが制止してきた。
「お嬢様、それ以降はお部屋にお戻りになられてからにして下さいませ」
エイミーに言われた通りレイリアの部屋へと移動した二人は、向かい合ってソファに座ると、早速手紙を読む事にした。
封筒から取り出した便箋には、ファルムエイド家の紋章が刻印されており、そこには代筆では無く、アトス本人による筆跡で手紙が書かれていた。
レイリアはウィリスのためにも手紙を声に出して読み聞かせるつもりだったが、書き出しから『愛するレイリア嬢へ』と心にも無い言葉が記されていたため、バカバカしくなりとても声には出せなくなった。
手紙に目を落とした途端眉をひそめたレイリアを、ウィリスが心配そうに見つめてきた。
「何て書いてあった?」
「まだ半分も読んで無いわ。ただ最初の一行目を見た瞬間に破り捨てたくなっただけ」
「何だよ、その手紙…」
困惑気味のウィリスへ、レイリアが目を通し終わった一枚目を渡した。
早速手紙に目を落としたウィリスが、瞬時に眉間にシワを寄せ、
「うわぁ…」
と呟いた。
そんなウィリスにレイリアは小さな笑いを漏らすと、二枚目の手紙を読み始めた。
ほどなくしてレイリアは二枚目の手紙を読み終えると、ウィリスへとその手紙を手渡し、体をソファに沈ませた。
アトスの手紙は出だしもイラついたが、中身も酷いものだった。
要約すると、以前図書館で会った時にレイリアが言った『レイリアが尊敬する存在』にアトスがなってみせるので、指定した日時に迎えに行く、というものだ。
どうやってレイリアに尊敬される存在になるのかについては、アトスが悪者に正義の鉄槌を下すらしい。
そしてそんなアトスの勇姿(笑)を目にすれば、きっとレイリアもアトスを認めざるを得ないだろうから、その後は大人しくアトスとの婚約を受け入れるように、とまで記されていた。




