第三十五話 少年の怒り2
「レイリア、お前はこれからどうしたい?」
「え?私、ですか?」
自分自身の事ではあるが、レイリアは自分に選択権が与えられるとは思っていなかったため、父からの問いかけに非常に驚いた。
「そうだ。魔法を今まで通り使いたいのか、それとも魔力を封じてでも剣士になりたいのか?どちらを選ぶつもりだ?」
「うーん」
悩んだレイリアは小さく唸ると、ふと思い付いた考えを口に出した。
「魔法も使える剣士は駄目ですか?」
「魔力量が低ければ可能だろうが、私の娘として生まれてしまった以上叶える事は難しいな」
「そうですか…」
閃いた瞬間、名案だと思ったものの、あっさりと否定されてしまい、レイリアはガックリとなった。
「すまない」
まさか家長たるファウスに謝られるとは思わず、レイリアは慌てた。
「いいえ!父様のせいではありません。それに私、父様の事を誇りに思っていますから、父様の娘に生まれて良かったです!」
「そうか」
レイリアの言葉が余程嬉しかったのか、ファウスは相好を崩した。
そんなファウスを前に、レイリアがもじもじとしながら尋ねた。
「あの、父様。実は私、兄様に私は剣士に向かないから、剣術大会で優勝出来なければ剣士なるのを諦めて魔術士になれと言われたのです。父様も私は剣士に向かないとお思いですか?」
レイリアの問いに、ファウスが困ったような顔で答える。
「私にはお前が剣士にも魔術士にも向いるとは思えないのだがな」
まさかの両方を否定され、レイリアが目を丸くした。
「魔術士にも、ですか?」
「そうだ。お前はシェリアに似てとても優しい子だ。そんなお前では職務のためとは言え、剣や魔法で人を傷つける事は出来ないだろう」
「……」
「恐らくカイが魔術士になれと言ったのは、魔術士であれば人を傷つけない道があるからかもしれんな」
(兄様がそこまで考えてくれているとは思えないけれど、父様の言う通り、人を傷つけるために剣や魔法は使いたくないし…。でも騎士になるために軍へ入ったら、人に剣を向けないといけないだなんて…)
軍人となれば当然起こりうる出来事を今まで考えていなかったレイリアは、突き付けられた事実に顔色を失い、呆然となった。
「まぁ父としては、剣士でも魔術士でも無く、相応しい相手と結婚をし、幸せになってもらいたいだけなのだがな」
「け、結婚、ですか…」
思いもよらぬ単語がファウスの口から出てきた事でレイリアの意識は現実へと引き戻されたものの、答える声が裏返ってしまった。
「まだまだ先の話だがな。はっはっは」
まさかファウスが剣士でも魔術士でも無く、第三の道を娘に歩ませようとしているとは流石に思わなかったレイリアは、楽しそうに笑うファウスに反して顔を引きつらせた。
(もしかして、今の私って何気に人生の分かれ道っていうのに立っているんじゃ…)
そんな事を思いつつ、レイリアは夕食の案内が来るまでの時間を、久し振りに父と二人だけで過ごしたのだった。




