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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
少年、少女 それぞれの理由
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第二十八話 少女の理由〜ゼピス侯爵令嬢誘拐事件〜4

「悪いがお前の研究成果とやらに俺は興味は無い。それより俺はとっとと早く帰りたいんだ。死にたくなければ手に持っている物をこちらに渡してさっさと投降こうこうしろ!」


「投降?何をバカなことを。あなた方こそ今のうちに私の力を認めて平伏ひれふすならば、命までは取りませんよ」


「冗談じゃない。生憎あいにくとお前なんぞに平伏すような命は持って無いんでな!」


 声から察するに、レイリアの父と同じくらいの年齢かと思われるその黒髪の剣士は、挑発するように銀色に輝く不思議な剣をムウへと向けた。


「どうやらあなた方は私の研究をあくまで否定なさるのですね。非常に残念です。では仕方がありません。あなた方には私の尊い研究の犠牲になって頂きましょう」


 そう言い終わるやいなや、ムウは手にしていた小瓶の中身を一気に飲み干した。


 すると、ムウの体から勢いよく立ち上った紫色の濃い煙が、渦を巻くように彼の体を包み込んだ。


 その情景だけを見れば、まるで何かの演出の様であるので普段のレイリアならば歓声を上げて喜ぶのだが、流石さすがに辺りを漂う紫の煙のまが々しさと周りを支配する緊迫感から、レイリアはただ声も上げず、大人たちの陰に隠れてじっと見入るだけだった。


 しかし、この緊迫した雰囲気とは場違いの人物が一人いた。


 それは先程の中年の黒髪の剣士だった。


 彼は首を左右にぽきぽきと鳴らしてから剣を持った右肩をぐるぐると回すと、まるで緊張感が感じられない調子でファウスへと話しかけた。


「ファウス、援護頼むな」


「あぁ、わかった」


「ったく。帰ってきて早々、何でこんな奴の相手をしなきゃならないんだ?この貸しは高くつくぞ」


 黒髪の剣士はファウスへ向かってニヤリと笑むと、銀色に輝く不思議な剣を構え直した。


「いずれ返す。リジル、お前はレイリアを頼む。その他総員は予定通りに」


 リジルを除いた剣士四名とファウスを含めた魔術士三名の合計七名が、煙の中から姿を現しつつあるムウへと向かっていった。


 その後ろ姿を見送ったレイリアは、恐怖の為か知らず知らずのうちに震えていた。


 そんな様子のレイリアへと、赤髪の剣士リジルが声を掛けた。


「大丈夫ですよ。お一人は教団の元聖騎士の方だそうですし、その他もわが国が誇る騎士と魔導士です。もちろん私も騎士ですから、しっかりとレイリア様をお守します。御安心下さい」


 小さな少女を安心させるためか、そう言って微笑むリジルに対し、レイリアは応えるように小さく頷いた。


(父様はこの国で一番強い魔術士だし、ヴィモット先生だって本当はとても強い魔術士だって父様言っていたわ。騎士の方もいらっしゃるし、きっと大丈夫)


 レイリアは自分をかばう様にして立つリジルの脇から、そっと前方を覗いてみた。


 戦いは魔導士達が造り出したドーム状の金色の魔法壁の中で繰り広げられていた。


 だがそこにはレイリアの知るムウ=ウェイズはおらず、大人の倍以上の大きさをした緑色の蜘蛛の様な形をした生き物がいた。


 それは、部屋のすみにある水槽の中にいるあの魔族の姿にどことなく似ている。


「あれは何?」


「ウェイズですよ」


「あれが!?」


 元の姿とは似ても似つかぬおぞましい姿へとなり果てたムウを見て、レイリアは驚愕きょうがくした。


「レイリア様は魔族と呼ばれるものの存在をご存知ですか?」


「さっきウェイズ様から伺ったわ。あの水槽の中にいるのがそうだって」


 ちらりと水槽へと目を移したレイリアに、リジルが一つ頷く。


「そうですか。ではウェイズについてのみお話し致しましょう。

ウェイズは以前より魔族が持つ力を取り出し、人へと移す研究をしておりました。ですがその研究は我が国はもとより、フロディア教団からも禁じられている研究で、ウェイズは王国だけでは無く教団からも追われる身となり行方をくらましました。

そして今日我々の前に現れたウェイズは、今やあの姿となっている。つまり、あれこそが奴の研究の成果なのでしょう」


「それじゃあ、ウェイズ様は魔族になってしまったの?」


 リジルの語った難しい話を幼い頭で聞いていたレイリアが、自分の理解が正しいかどうかをリジルに確認する。


「そうですね。魔族に近い存在となってしまったと思って頂ければ良いかと」


「それじゃあ、あの人はあのままなの?」


「わかりません。ハーウェイ様がああなってしまっては人には戻れないと仰っていましたが…」


 リジルの説明はまだ途中であったが、突然断末魔と呼ばれる様な苦痛に満ちた悲鳴が聞こえてきた。


 その悲痛な叫びに驚いたレイリアは、身を縮こませてリジルにしがみ付いた。


「終わったようですね」


 何でもない事のようにリジルが呟いた事で、レイリアは父達が勝ったのだと分かった。


「あの人…。死んじゃったの?」


「そうでなければ困ります」


 父達が勝ったのだから喜ぶべきなのだろうが、やはり誰かが死んでしまったという事実にレイリアは素直に喜べなかった。

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