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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
少年、少女 それぞれの理由
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第二十六話 少女の理由〜ゼピス侯爵令嬢誘拐事件〜2

 何もない部屋に一人取り残されたレイリアは、始めこそ寝転んだり歌を歌ったりしていたが、すぐに飽きてひまを持て余した。


 結局何もしないよりはと、いつもならば嫌々やらされている魔力鍛錬(たんれん)のいくつかをなんとなくこなしてみた。


 すると、何故なぜだかいつもより上手うまくこなせるのだ。


(何でこういう時ばっかり上手くいくのかなぁ)


 普段のレイリアは、あの優しいヴィモットでさえも頭を抱えてしまう程の不出来さなのだ。


 そのヴィモットが言うことには、魔法は心の持ちようによって成功したり失敗したりするらしい。


 レイリアの場合、嫌々練習している限り上手くはいかないそうだ。


(それじゃあ今成功するのは、嫌々やっていないっていうことなのかなぁ。お祖母様との練習が嫌で家出したのになぁ…)


 幼いながらもレイリアがこの不条理ふじょうりさに

「うーん」

うなりながら頭を悩ませていると、ゾワリと体中を何かがまとわりつく様な、非常に不快な感覚におそわれた。


(何?この感じ?)


 気が付くと、体中に鳥肌が立っていた。


 そしてその不快さの元凶は、扉の向こう側からただよってきているように感じる。


 警戒けいかいしながら扉の方向をじっと見つめていると、こちらへ走り寄ってくる誰かの足音が聞こえた。


(父様かも?)


 一瞬父が迎えに来たのかと思い喜んだのもつかの間、扉を勢い良く開けたのはムウであった。


「レイリアお嬢様。お父上様達があなたを迎えにいらっしゃいましたよ」


 言い回しは今まで通り丁寧だが、その目つきは異様に鋭く、薄気味悪い笑みさえも浮かべている。


 更に、先ほどから感じている嫌な気配けはいを目の前の男が全身に色濃くまとわせている。


「さぁ、こちらですよ」


 ムウは左手でレイリアの手首を強く掴むと、そのまま部屋から連れ出し早足で歩き始めた。


 レイリアは今までとは違う雰囲気をただよわせる男に注意を払いながらも、転ばないよう必死で付いて行った。 


「どこへ行くの?」


「ファウス様達をお迎えする場所です」


 振り向きもせずムウがそう言い切った時、レイリアは向かう先とは反対の方向から良く知る魔力の波動を感じた。


(父様だ!)


 父が来たことに安堵あんどしたレイリアが思わず歩みを止めて振り向こうとしたものの、ムウはそれを許さず無理矢理レイリアの腕を引っ張った。


「ねぇ。父様はあっちよ?」


 レイリアの声は無視され、段々と嫌な気配けはいが増す方へと近づいていく。


 そして、大きな二枚扉の前へと到着した時、レイリアはその内側から今まで感じたことが無いような禍々(まがまが)しい気配を感じ取った。


(この部屋の中に何があるの?)


 恐怖と好奇心を抱きつつ、レイリアはムウに連れられ部屋へと入った。


「なに…。これ…」


 レイリアはその奇妙きみょうつ、不気味な部屋に絶句した。


 天井てんじょうが高く、奥行き横幅共にかなり広いこの部屋の右手には、大きな円柱の水槽のようなものが置かれていた。


 そして、その水槽の様なものは緑色の液体で満たされており、中には黒ずんだ色をした大きな人が浮かんでいた。


 その光景に驚いたレイリアが好奇心から目をらすと、人と思ったそれの背には羽らしき物があり、更には腕が何本もえている。


 人とは違う何かの存在にまゆをひそめたレイリアの上から、ムウの声がした。


「魔族ですよ」


「魔族?」


「ご存じありませんか?女神のしずくうたを」


「もちろん知っているわ!」


 フロディア教の信者ならば誰もが知る創生そうせい物語。


 その中に、人へとあだなす存在として魔族が出て来る。


 しかし、それはお伽噺とぎばなししくは太古たいこの話であり、しかも彼らは地底深くに封じ込められたとされている。


「でも、どうして魔族なんかがここに居るの?」


「魔族はあそこにある石板を使って召喚することが出来るのですよ」


 ムウの指し示す部屋の中心には光り輝く魔法陣があり、その宙には文字が刻み込まれた白く四角い何かが漂っている。


「魔族なんて召喚してどうするの?」


「もちろん私の研究の役に立ってもらうのです」


 幼いながらもこの部屋を見れば、この男の研究内容が良くない物であると解る。


「あなたは何の研究をしているの?」


「召喚した魔族からその力を吸い取り人へと注ぐのです。すると、常人を超える能力が授かれるのですよ。素晴らしいでしょう!それなのに、あなたの父上は私の研究を否定した!魔族を用いるなどもってのほかだと!」


 自分の研究を否定された怒りからか、ムウの身体からだより強大な魔力の波動があふれ出した。


(なんて魔力なの!)


 今まで触れたことが無いほどの強い魔力に、レイリアはおそおののいた。


「それじゃあ、父様をここへ呼び出したのは、この研究を褒めてもらうため?」


 震える声でレイリアが問うと、ムウは急に笑い出した。


「褒める?フフフ…。ハッハッハッ…!いいえ、違いますよ。私の方がすぐれているということを、あの男とこの国に認めさせてやるためです。そして私こそがこの国の筆頭魔導士となり、この国を導くのです!」


 この部屋も、この男の研究も、この男が語る望みも全てが狂気きょうきじみている。


 こんな所に居てはいけない!


(早く逃げなきゃ!)


 レイリアはそう思ったものの、ムウは魔力も力も小さなレイリアより当然上だ。


 そんな相手から逃げ出す方法を急いであれこれ考えると、一度だけ兄妹喧嘩で使ったかなり凶暴な、しかし、あまり気の進まない方法をレイリアは思い付いた。


(上手くいくかわからないけれど、もうこれしかないし…)


 仕方なくその方法を実行する覚悟を決めたレイリアは、いつ行動に移すべきか機会をうかがった。

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