第二十一話 少女の憂鬱2
「ウィリス様も、レイリア様にそれだけ仰る元気があれば、もう大丈夫でしょう」
このヴェアルドのお墨付きに、レイリアの表情がぱっと明るくなった。
「良かったぁ。ヴェアルド先生がそう仰って下さるのなら、もう心配ないわね」
そう言って、笑顔を見せたレイリアにつられたのか、ウィリスが
「うん、そうだね」
と、笑みを溢した。
学園中の女生徒から、『妖精の微笑み』と陰で称される程に貴重なウィリスの笑顔を目の当たりにしたレイリアは、思わず心の中で舞い上がってしまった。
(あぁ、もう、ウィルってば、どうしてこんなに可愛いの!?どうして男の子なの?女の子じゃないのがもったいない!)
ついついニヤついてしまったレイリアを見て何かを感じ取ったらしいウィリスが、一気に怪訝な顔になる。
「今何か、変な事考えてただろ?」
その美しくも可愛らしい顔立ちから、女の子の様に扱われてしまう事をとても嫌がるウィリスに、今思った事を知られる訳には絶対いかない。
もし知られれば、ぐちぐちとした嫌味と突き刺さる様な氷の視線が三日以上も続くのだ。
あれは精神的に相当に辛い。
「変な事だなんて失礼ね。ウィルが元気になって良かったなぁって、思っただけよ?」
嘘とも言い切れない言い訳をレイリアが口にすると、ウィリスは
「それなら、いいけれど…」
と、納得したかの様な返事をしてきた。
が、その言葉とは裏腹にウィリスが向けてくるのは刺さる様に鋭い疑いの眼差しだ。
これ以上追及されてしまえば分が悪くなる。とにかくここは話題を変えようとレイリアが思案していると、ある重要な事を思い出した。
「あっ、そうだ」
「何?」
ウィリスが不愉快そうな声と顔を向けてくる。
「ウィル、倒れる前に私に言った言葉、覚えてる?」
予想外の質問だったのだろう。ウィリスが少々驚いた様な面持ちになった。
「いや…。覚えてない」
「そう」
「僕、レイリアに何か言ったの?」
「うん。『どうして』って」
「うーん…」
ウィリスが唸りつつ、首を捻る。
「ごめん。ちょっと思い出せないや」
ウィリスの反応を見るに、どうやら嘘をついて、誤魔化そうとしている訳でもなさそうだ。
(無意識で言ったのならば、これ以上は本人に聞いても仕方がないわね)
レイリアはそう結論付けると、自室へと戻る事にした。
「そう。それなら良いの。それじゃあ私、部屋に戻るから。また後でね」
そう言い残し、寝室の扉へと歩み出した時だった。
「あのさ、レイリア」
「ん?何?」
不意に呼び止められて振り返ると、ウィリスが神妙な面持ちでこちらを見ている。
先程の話について何か思い出したのかと思ったのだが、ウィリスが口にしたのは想定外の感謝の言葉だった。
「心配してくれて、ありがとう」
当たり前の事に対して真顔で謝意を述べてくるウィリスの事を、レイリアは何だが妙にこそばゆく感じてしまい、思わず笑い声を漏らしながら答えてしまった。
「うふふ。当然でしょ?私達は家族なんだから!」
そんなレイリアの言葉に、ウィリスが複雑な顔を向けてきた。
ウィリスが言いたい事は分かっている。
自分にとっての家族はハーウェイ家の人々であり、レイリアは含まれていないのだと。
それが分かっていても、レイリアは口にし続ける。
ウィリスは家族だ、と。
なぜなら、ウィリスには『自分は一人では無い』と、分かって欲しいから…。




