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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
少年、少女 それぞれの理由
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第十八話 約束6

「まぁそういう訳だから、体の治療はヴェアルド先生に任せるとして、心の治療はレイリア担当かな?」


 予想外のカイの指名に、未だ涙をたたえているレイリアの瞳が瞬いた。


「え?私?何で?」


 カイはレイリアの質問には答えず視線を医師のヴェアルドへと向けると、カイの意向を感じ取ったヴェアルドが説明を始めた。


「この手の暗示を解く鍵は、生き続けたいと思い続ける事です。レイリア様はウィリス様と仲が良いとお伺いしておりますから、レイリア様なりにウィリス様を励まして頂ければと存じます」

 

 そんなヴェアルドの言葉に、レイリアが小首を傾げた。


「私なりに励ますって、どうやって?」


「そうですね。ウィリス様に対して優しい言葉を常にかけ続けるという方法もありますが、正直レイリア様には難しいかと思われます。ですので、共に行動する中でウィリス様の存在を肯定して差し上げるという方法が宜しいかと」


 前半微妙にけなされた気がするが、今はとりあえず目を瞑り、後半述べられた内容について思案する。


 『共に行動する』と言うのは、とりあえず一緒にいれば良いという事だろうか?それならば確かにレイリアは適任だ。何せ、同じノイエール学園の同級生なのだから。


 では、『ウィリスの存在を肯定する』は、どうすれば良いのだろう?


 腕組みまでしたレイリアが、思わず

「うーん」

と小さな唸り声を上げると、ベッドに横たわるウィリスがポツリと言葉をらしてきた。


「僕なんかの為に、レイリアが何かしてくれる必要なんて、無いよ…」


 ウィリスからこぼれ出たその否定的な台詞せりふに、レイリアは心がギュッと締め付けられた。


 レイリアの知るウィリス=ハーウェイという少年は、見た目だけならその辺にいる女の子よりも格段に綺麗で可愛いのだが、その外見の愛らしさとは裏腹に、周りに対して冷めた所がある上、たび々毒も吐くという、実に性格に難ありな人物だ。


 だがその一方で、困った友人を見かければ、文句を垂れつつも、率先して手を貸す優しさも持ち合わせている。


 そして何より、レイリアに引けを取らないくらいの負けず嫌いで努力家だ。


 憎たらしいけど、憎みきれない。


 そんな、大切な、大切な、昔からの友達。

 

 だから、絶対助けたい!


 もうこれ以上、ウィリスには自分を否定する言葉を吐いて欲しくない!


「何言ってるの!?必要があるに決まっているでしょ!だって、私、ウィルには元気になってもらいたいもの!」

 

 そうレアリアが力強く決意を表明するそばから、ウィリスはどんよりとした声を返してきた。


「いいよ、そんな無駄な事、しなくて」


 その言葉にレイリアはウィリスを睨み付けた。


「無駄な訳ないでしょ!?どうしてそんな風に思うのよ!?」


「だって、僕は、あの時、死ぬはず、だったから…。なのに、ルッカが、僕をかばって…。だから、僕は、直ぐにでも、女神様の御許みもとへ、行って、ルッカに、謝らなきゃ、いけ、ないんだ…」


 悲痛な表情で再び涙を流し始めたウィリスの姿に、レイリアが息を飲む。


 ルッカが、ウィリスを庇って死んだ…。


 その事実に、自らの四年前が重なる。

 

 さらわれたレイリアを救け出す中で、一人の若き王国騎士がレイリアを庇って亡くなった。


 その事に当時七歳だったレイリアもまた、自分を守るために命を落とした王国騎士への罪悪感から心を病んでしまった。


 そして、今のウィリスが抱いているのは、あの時のレイリアと同じ、姉のルッカに対する罪悪感だろう。

 

 ウィリスの自己否定の原因が分かった今、レイリアがすべきはあの時自分を救ってくれた人々が自分にしてくれたのと同じ事。


 それは、そばに寄り添い、生き続ける意味を教える事。


 レイリアの時は、父や兄や祖母やこの家にいる者達だけではなく、多くの人がレイリアに寄り添ってくれた。


 そして、レイリアに寄り添ってくれた一人でもあったウィリスの父であるグエンが、生きる意味を教えてくれた。

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