第百三十二話 少女の異端な魔法戦11
これは後日レイリアが聞いた話になるが、魔法による決闘は、一般的には攻撃魔法が交差する派手な魔法戦が行われるので、観覧客は魔法による決闘を一種の娯楽として愉しむ傾向があるそうだ。
ところが、レイリアとアトスの決闘は、誰もが期待したような魔法戦特有の派手な攻撃魔法のやりとりがないままに幕を閉じてしまったため、観覧客から不満が生じた。
それを治めるために、先ずは演技派の皇太子妃ルルーリアがレイリアとアトスの健闘を大袈裟に讃えると、エルディオが
「若き二人の魔術士の戦いに敬意を表し、我が国の誇る魔導士の力を今ここに示そうではないか!」
と、カイを含む近衛魔導士達に模擬魔法戦を行わせ、観覧客の溜飲を下げたらしかった。
だが、魔術士第四訓練場がそんな事になっているとは知らないレイリアとアトスは、警護隊の兵士によってリシェラニエ城の中央棟にある一室へと連れて来られた。
その部屋へ入ると、そこには既にファウスやアトスの父であるファルムス侯爵ルヴィオ=ファルムエイドの他に、なんと国王であるアルベオスまでがいた。
驚き固まるレイリアとは違い、アトスが優雅に国王へ頭を垂れた。
「国王陛下へアトス=ファルムエイドがご挨拶申し上げます。陛下におかれましては、麗しきご尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じます」
そのアトスの挨拶が始まったところで我に返ったレイリアは、急いで胸の所に両手を添えると、頭を垂れて淑女の礼を執り、アトスに続いて挨拶の口上を述べた。
「同じくレイリア=ゼピスがご挨拶申し上げます。陛下におかれましてはご機嫌麗しく、恐悦至極に存じます」
頭を下げ続ける二人に、アルベオスが声を掛けた。
「二人とも、面を上げよ」
アトスとレイリアが揃って顔を上げたところで、アルベオスが話し出した。
「此度の決闘理由については、そなた達の父より話は聞いている。家と家同士、ましてや成人に達していない者同士の諍い故、本来であれば王家が口を出すべきでは無かろう。だが、そなたら二人は六侯家の者。そして、結果によっては六侯家の未来が変わる。それ故に、そなたらからすれば不本意ではあったであろうが、多少の介入をさせてもらった」
レイリアはアルベオスの話に、レイリア達の魔法勝負が王家主催となった事を、多少の介入という言葉で済ませるのはどうなのだろうかと思ったものの、勿論そんな不平を口にも顔にも出す訳にはいかず、大人しくしていた。
すると、アルベオスから思いがけず祝いの言葉が掛けられた。
「して、此度の決闘の結果は、既に我らの下にも届いている。レイリア嬢、おめでとう」
「ありがとう存じます、陛下」
レイリアはそう述べると、再び淑女の礼を執って頭を軽く下げた。
「よって、ファルムス侯よ。此度の争いはレイリア嬢の勝ちである以上、事前の取り決め通り、ファルムエイド家は今後、レイリア嬢に対する婚姻の申込みを一切禁止とする。良いな」
「はっ。仰せの通りに致します」
ルヴィオの返答にアルベオスが頷くと、脇に控えていた文官がルヴィオの前に一枚の紙を差し出した。
「では、こちらの誓約書にご署名をお願い致します」
ルヴィオが誓約書に署名をし始めたところで、アトスが口を開いた。
「ゼピス侯、質問がございます」
「何かな、アトス卿」
「此度のお約束は、ファルムエイド家がゼピス家に対し、レイリア嬢への婚姻の申込みを行わないというものですよね?」
「その通りだ」
「でしたら、私個人がレイリア嬢へ婚姻の申込みを行う事に対しては、何も問題がありませんよね?」
その質問に、思わずレイリアの口から不機嫌な声が漏れ出そうになった時、
「ははは…!」
と、場を支配する主の笑い声が響いた。
「確かにアトス卿の言う通り、ファルムエイド家からゼピス家に対する申し込みは禁じたが、アトス卿本人よりレイリア嬢へ申し込む事は禁じていないからな。良いだろう。アトス卿、そなた本人が動く分には目を瞑ろう」
アルベオスの告げた言葉に、アトスは表情を明るくする一方で、レイリアは表情を失った。
「ありがとう存じます!」
「但し、レイリア嬢には結婚相手に望む条件があるそうだ。先ずはその条件を満たしてから申込むが良い」
「条件、ですか?」
一気に難しい顔となったアトスの隣で、レイリアもまた、自分の望む結婚相手の条件という話に戸惑った。
そもそもそんな話が出たのはつい最近、グレナの別邸でのレイラとの会話の中での事だ。
その時の話を国王であるアルベオスがレイラ経由でもし知っているとしたら、レイリアの希望する結婚相手の条件が高望み過ぎだとアルベオスに思われていそうで、レイリアは恥ずかしくなった。
「ファウスよ。そなたの娘の希望を申せ」
アルベオスの命令に従い、ファウスがレイリアの結婚相手の条件を述べ始めた。
「はっ。我が娘が望む相手は、騎士か魔導士との事。私も娘の幸せを願う一人の父親として、出来れば娘の望みを叶えてやりたいと思っております。ですので、アトス卿には是非とも魔導士となられてから、娘に婚姻を申し込んで頂きたく存じます」
柔らかな笑みを浮かべながらの言葉とは裏腹に、どう頑張っても年単位は掛かるであろう出直し期間をアトスへ突き付けた父を見て、レイリアは許されるならば今すぐ父に飛び付いて感謝を伝えたいと思った。




