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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第百三十一話 少女の異端な魔法戦10

「どうしてだ?」


「?」


「どうして僕では駄目なんだ!?」


 アトスに何を問われているのかが分からないレイリアは、眉をひそめながら首をかしげた。


「何が?」


 レイリアがそう尋ねると、アトスは顔を上げてレイリアをにらみ付けてきた。


「僕は君が生まれた頃から君の事を知っている!母君ははぎみが亡くなられて君が悲しんでいた時、君のそばにずっと居ると誓ったのはこの僕だ!それなのに、どうしてここまで僕を拒絶する!?」


 母のシェリアが亡くなったのは、レイリアが六歳の時。つまり、もう六年も前だ。


 確かにあの頃はまだアトスとそれなりに仲は良かったが、そんな事を誓われた記憶はレイリアには全く無い。


「そんな誓いを立てられた事なんて、覚えていないわよ!それにアトスを嫌いな理由は、ウィルやルッカにいつも酷い事を言っていたから!私はずっとめてって言っていたのに、アトスはめてくれなかったでしょ!?」


「当たり前だっ!あいつらは僕が居るべき場所を奪ったんだ!けがれた血のくせに、尊い血を受け継ぐ君の隣に堂々とあいつらは居座った!そんな奴ら、許せるはずが無いだろう!」


「そんな言い方しないで!だいたいアトスは兄様の友達であって、私の友達では無いじゃない!」


「当然だっ!僕にとってレイリアは友人では無く、最初から結婚相手のつもりだったんだからな!」


「だから結婚なんてお断りって言っているでしょ!もう本当にいい加減にして!アトスなんて、大っ嫌い!!」


 レイリアが最後の台詞を絶叫に近い声で叫ぶと、アトスは顔をゆがめた。


「そんなに僕よりも、あの穢れた血がいのか?」


 アトスが悲しげにそう口にするも、レイリアにはアトスの態度を気にする余裕が無かった。


 何故なら、アトスが口にしたウィリスを指し示す『穢れた血』という言葉が、レイリアにとっては兎にも角にも気に入らなかったからだ。


「私の大事なウィルを、そんな風に言わないで!」


 本気で怒るレイリアとは対照的に、アトスの態度は冷めていた。


「そんなにあいつが大事なのか?」


「当たり前でしょ!」


 レイリアの即答に、アトスは肩を落としながら息を一つ吐いた。


「……。やっぱり、あいつと将来結婚するつもりなのか?」


 随分と静かな声で問われたその言葉に、レイリアはいらつきながら口を開いた。

 

「はぁ!?何言ってるの?、ウィルは家族も同然よ?何でそんな相手と結婚って事になる訳?意味分からない!だいたいウィルも私も、そんな風にお互いの事を思っていないもの!」


 レイリアがそう答えた時だった。

 

「両者共にそこまで!」


 ここでやっと、審判を務めている二人の魔導士が現れた。


「この場は魔法戦による決闘の場だ!これ以上の私的な会話は慎みなさい!」


「やる気が無いのなら、あなた方二人とも失格になりますよ?」


 厳しい口調の魔導士二人に、レイリアが告げた。


「もう決着は付きました」


「どういう事かしら?」


 レイリアの答えに、女性魔導士がいぶかしんだ。


「私が魔力封印魔法クラティリオルでアトス様の魔力を封じました。ですから私の勝ちのはずです」


「では先程の光魔法の輝きは、魔力封印魔法クラティリオルのものだったという訳ですね?」


「はい、そうです」


 女性魔導士とレイリアのやり取り後、男性魔導士が口を開いた。


「なるほど。それではアトス卿。貴方は魔力が封じられ、魔法が使えなくなった事を認めますか?」


「認めるとどうなる?」


「貴方の負けが確定します」


「認めなければ?」


「どちらかの腕輪が壊れるまで、戦い続けて頂く事になりますね」


 男性魔導士の言葉を受けて、レイリアは右手に風属性の魔力玉を作った。


「素直に負けを認めないのなら、今この場でその腕輪を壊しても良いけれど?」


 レイリアが水色の魔力玉を見せながらアトスを軽くおどすと、アトスはレイリアを真っ直ぐに見ながら落ち着いた声で言った。


「分かった。負けを認めよう」


 アトスが敗北を認めると、男性魔導士が右手を挙げた。


 すると、それが決闘終了の合図なのか、第四訓練場を包んでいた魔力防御の壁が解かれた。


 そして、男性魔導士は拡声の風魔法である『ラーファム』を唱えて発動させると、訓練場内に声を響かせた。


「勝者、レイリア=ゼピス!」


 観覧席の人々は、何が起こったのか分からないままなされた審判の勝利宣言に、騒然そうぜんとなった。


 そこへ、拡声の魔道具からエルディオの声が流れてきた。


「審判!この決闘について説明せよ!何故レイリア嬢が勝ったのか、魔術士では無い我らには全く分からない!」


 レイリアは、エルディオの疑問はもっともだと思った。


 決闘が始まってから人々の目に映ったのは、アトスの魔法防御フォルグ・クレスティナと炎の大渦ヴェルフェリオム、そしてアトスへ向けて走り寄るレイリアで、最後は転びそうになったレイリアをアトスが助けたところでアトスが光っただけなのだ。


 魔導士でさえ決闘当事者に聞かなければ判断がつかない状況を、ただ見ていただけの人々が分かるはずも無いだろう。


 レイリアがそんな事を考えていると、もう一人の審判である女性魔導士から声を掛けられた。


「お二人とも、お疲れ様でございました。これより先は場内が荒れるかもしれませんから、速やかにご退場下さい」


 何故だか笑顔で女性魔導士からそう伝えられたレイリアとアトスは、男性魔導士が魔力封印魔法クラティリオルでレイリアが勝った経緯いきさつを説明している間に、女性魔導士に付き添われる形で訓練場内を後にした。

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