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女神の雫〜ルタルニア編〜  作者: 山本 美優
その剣を手にする覚悟
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第百三十話  少女の異端な魔法戦9

 このままでは、アトスに微妙に届かない所で前のめりに倒れてしまう!


(どうしよう!)


 アトスに届かない事に対してと、このまま倒れたら顔を打って痛いだろうなという思いが入り混じったレイリアが、一瞬にして色々と絶望した時だった。


 どさり、と少し硬い何かにぶつかると、その硬い何かはレイリアの体を支えてくれた。


「大丈夫か!?」


 頭の上から聞こえた声に、思わずレイリアが見上げてみれば、アトスが心配そうに見下ろしていた。


「え?あれ?」


 状況が良くわかっていないレイリアが、混乱したまま声を発すると、アトスが続けて問い掛けてきた。


「今、転びそうになっただろ!?足は平気か!?」


「え、あ、うん、平気…」


 ぼんやりとそう返したレイリアに、アトスが語気を強めて言った。


「全く一体何を考えているんだ!?これは魔法戦だぞ!?相手に突っ込んでくる魔術士がどこにいるんだ!?」


 ここにいる、とついレイリアが言いたくなったその時だった。


「レイリア、今だ!」


 兄の怒鳴る様な声に、ハッとして我に返ったレイリアは、自分がすべき事を思い出した。


 だが、一瞬呪文を唱える事に躊躇ちゅうちょした。


 今のアトスは転びそうになったレイリアを助けてくれた、言わば恩人だ。


 その恩人相手にあの呪文を唱えれば、レイリアの勝ちは確定になるが、恩をあだで返す事になる。


 そう思ったレイリアは、良心の呵責かしゃくさいなまれた。


 だが、この勝負に勝たなければ、自分の未来は真っ暗だ。


 アトスに対して申し訳無いと言う気持ちと、それでも勝たなければいけないという気持ちを抱えながら、レイリアは口を開いた。


「アトス、助けてくれてありがとう」


 レイリアはそう言うと、アトスの手を握り、心の中で謝った。


(それと、ごめんなさい…)


 手を握られたアトスが、しどろもどろになりながら、

「いや、これは、紳士として当然の事をしたまでで…」

と答えたところで、レイリアが静かに呪文をつむいだ。

 

「クラティリオル…」


 その瞬間、レイリアの持つの魔力が光属性へと変わりながら、触れている手を通して一気にアトスの中へと流れ込んでいった。


「な、何を…!」


 全身をまばゆい金の光に包まれたアトスが、レイリアに握られていた手を振り解いて後退あとずさる。


「クラティリオル。魔力を封印する魔法よ。アトスはもう、私が死ぬか、私がその魔法を解くか、私以上の魔力を持つ人にその魔法を解いてもらわない限り、魔法が使えないの…」


 魔力封印魔法クラティリオル


 元々この魔法は、剣士として生きる未来を選んだレイリアが、近い将来掛けられるはずの魔法だった。


 だが、アトスとの魔法勝負のために、レイリア自身が覚える事になったのだ。


 レイリアにとって魔力封印魔法クラティリオルはそんな曰く付きの魔法だが、この魔法は他の魔法と違い、ある特徴を持っていた。


 それは、この魔法は光の魔力さえ扱うことが出来れば、魔力の制御能力や、魔法の操作能力が乏しい者でも使える事と、更に魔法の発動条件が、使用者の魔力量が魔法を掛ける相手の魔力量を大幅に超えているかどうかのみという事だ。


 しかも、魔法が発動してしまえば、魔法防御フォルグ・クレスティナ等の補助魔法の効果さえ無視してその効力を発揮する。


 魔力封印魔法クラティリオルは、その使用発動条件や、魔術士とっては第二の命とも言うべき魔力を奪うという効力から、魔術士達には『異端魔法』と呼ばれて忌避きひされているものの、魔力量しか誇れるものが無いレイリアにとっては、まさにうってつけの魔法だった。


 但し、この魔法は、相手との距離が近ければ近いほど発動率が高くなり、相手に直接触れていれば確実に発動するという、遠距離攻撃を主に行うはずの魔術士にとり、致命的とも言える特徴もあわせ持っていた。


 だからこそレイリアは、アトスに触れるか、ギリギリまで近づかなければならなかったのだ。


「魔力が封じられている以上、あなたはもう魔法が使えない。だからこの決闘は、あなたの負けよ、アトス」


 レイリアの宣告にアトスはうつむくと、両手を握り締めた。

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